フォルクスワーゲンID.4(RWD)
優等生の血筋 2022.10.12 試乗記 本国で電気自動車(EV)のラインナップがどんどん拡充していくのに、それとはどこか無縁だった日本のフォルクスワーゲン(VW)にも、間もなく「ID.シリーズ」が登場する予定だ。その第1弾は「ID.4」。いかにも売れ筋の、ミドルサイズSUVの仕上がりをリポートする。電動化時代のゴルフ
「2030年までにああするこうする」ということを、ここのところ多くの自動車メーカーが発信して(させられて!?)いるが、VWの場合は「グループを通じて70の新型EVを発売する」ことを明らかにしている。また「2025年に世界で年間100万台のEVを販売することを目標に掲げる」とも。そもそも同社は350億ユーロを投じてEV攻勢をかけているところであり、その根幹をなすのが「MEB」という電気自動車専用プラットフォームだ。すでに同プラットフォームを用いたさまざまなEVが販売されている。
その中心はSUVタイプのID.4だ。より小さなハッチバックの「ID.3」、クーペSUVの「ID.5」、それに先日リポートしたワンボックスの「ID.Buzz」などを合わせ、ID.シリーズを展開している。3や5、それに4をストレッチして7人乗りとした「ID.6」などが特定の仕向け地専用なのに対し、グローバル戦略車のID.4は世界中で販売される。かつて同社は「タイプ1(ビートル)」に代わる世界戦略車として「ゴルフ」を市場投入したが、今度はID.4を“電動化時代のゴルフ”として世に広めようとしているわけだ。
4WDの高性能版も存在
全長4584mm、全幅1852mm、全高1612mm、ホイールベース2766mm。「日産アリア」とほぼ同サイズだ。日本には、いわゆる5ナンバー規格を超えるとこの世の終わりみたいに嘆く人が根強くいるが、世界基準ではこの辺りが売れ筋EVの標準的サイズとなるのだろう。駆動用バッテリーの容量は77kWh。欧州が採用する指標であるWLTPモードでの一充電走行距離は522kmだ。急速充電は最大125kWに対応する。モーターの最高出力は150kW(204PS)、最大トルクは310N・m。リア駆動。主要なパワースペックは同じMEBを用い、同じツヴィッカウ工場で生産され、日本でもすでに販売されている「アウディQ4 e-tron」に準ずる。
欧州にはモーターの最高出力を109kW(148PS)、あるいは125kW(170PS)に抑え、バッテリー容量も52kWh(一充電走行距離は348km)にとどめた廉価版もあるが、日本仕様は今回試乗した77kWhバージョンと廉価な52kWhバージョンの2種類のようだ(ここまでのスペックはすべて欧州仕様)。またフロントにモーターを追加した高性能版が欧州にはすでに存在するようで、将来的には日本に入ってくる可能性もあるだろう。
8月下旬、雨のコペンハーゲン市街地で試乗した。ID.4は画像で見るとシンプルであっさりしたルックスに見えるが、実際に街に置かれた姿を見ると、シルエット、ディテールともに有機的で、なかなか凝ったデザインだと気づかされる。大径タイヤとボディー下部の黒い樹脂部分、それにルーフをブラックにすることで天地の厚みをうまく目立たなくする手法は他の多くのSUVと同じだが、シルバーアクセントが付けられたルーフラインやショルダーのキャラクターラインから前後ランプ類のデザインに至るまで、直線という直線がなく上品だ。かといって弱々しさは感じさせない。時間をかけて見れば見るほど気に入った。
アクセル操作への反応はマイルド
インテリアはVWらしく高品質で機能的。デザインの遊びは少ない。ステアリングホイール奥に速度など走行に必要な情報を表示する小型ディスプレイがあり、センターには大型のタッチディスプレイが鎮座する。小型ディスプレイの右側に備わるシフトダイヤルで「P」「R」「N」「D」を切り替える。そのおかげでセンターコンソールのスペースは余っており、脱着可能なドリンクホルダーや物入れがぜいたくに配置されている。マイクロファイバーの表皮を用いたシートは見た目は地味だが、走行中のホールド性は高く、しかし適度にソフトなので停車中にただくつろぐために座っても快適だ。
ダイヤルをひねってDレンジに入れ、発進。EVらしく音の高まりを伴うことなく静々と加速する。当然強く踏めば鋭くダッシュし、じんわり踏めばソフトに進むのだが、ラフに床まで強く踏んで加速させても、びっくりするような力強さはない。0-100km/h加速は8.5秒。実用上十分な加速力は備わっている。リア駆動の上質さを感じ取りやすい。発進時に車体後部が沈み込み、後輪にしっかりと車重が載っかり、パワーが無駄なく路面に伝わっているとイメージしやすい。モーター駆動車特有のアクセルオフ時の回生ブレーキによる減速力はマイルドだ。ATでDとBを使い分けることで減速の強さを選べるが、Bを選んでアクセルペダルからパッと足を離しても、つんのめるような減速はしない。
未知の高性能モデル“X”
EVの減速時の挙動には大きく分けて2種類ある。アクセルオフで強い減速力が得られ、ブレーキペダルを踏まなくとも停止でき、クリープ機能を持たないタイプと、アクセルオフでの減速力を従来のICE車と同程度にとどめ、停止に近づくと回生しなくなり、クリープ機能へと移行するタイプ。前者はあえてEVならではの挙動を取り入れ、後者はあえてICEと変わらぬ挙動を取り入れている。正解はないが、ICE時代からの顧客を多く抱えるブランドは後者を採用する傾向にあり、VWもID.4に後者を採用した。10分前までICE車に乗っていても違和感なく運転できるのは確かだが、新鮮味、刺激という面ではやや物足りない。
ただしEVの利点はそこだけではない。ID.4には全域での十分な静粛性や変速のないシームレスでスムーズな加減速といった利点が備わっている。またフロア下にバッテリーを置くことによる低重心のおかげで、足まわりを引き締めて乗り心地を悪化させることなくグッドハンドリングを獲得している。コーナリング中の安定感は、まさにEVならではだ。パッケージングもよく煮詰められていて、エンジンがないことで全長に対してホイールベースが長く、車内が広く、フロアもフラットだ。ラゲッジ容量も543~1575リッターと大きい。
ゴルフは1974年の初代登場以来、世界中のファミリーカーのお手本であり続けてきたが、ID.4はこれからのファミリーカーのお手本になり得るだろうか。その可能性は十分にあると思う。価格が気になるところだ。ちなみにゴルフには常に高性能版の「GTI」があったが、海外の情報によればどうやらID.4にも末尾が「I」ではないにせよ、高性能版が存在するようだ。現時点では「未知」を意味する“X”をあてはめ、仮にGTXと呼ぶことにしよう。
(文=塩見 智/写真=フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンID.4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4584×1852×1612mm
ホイールベース:2766mm
車重:--kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R21 101T/(後)235/45R21 101T(ブリヂストン・トランザECO)
交流電力量消費率:--Wh/km
一充電走行距離:522km(WLTPモード)
価格:--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

塩見 智
-
ホンダ・スーパーONE(FWD)【試乗記】 2026.6.15 ホンダからアグレッシブなキャラクターの新型電気自動車(BEV)「スーパーONE」が登場。往年の「シティ ターボII」を思わせるコンパクトなBEVは、先達(せんだつ)に負けない刺激を持ち合わせているのか? 気になる走りを、箱根のワインディングロードで確かめた。
-
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】 2026.6.13 写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。
-
キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)【試乗記】 2026.6.12 アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。
-
メルセデス・ベンツGLC400 4MATIC with EQテクノロジー(4WD)【海外試乗記】 2026.6.11 「メルセデス・ベンツGLC」のモデルラインナップに電気自動車版の「GLC400 4MATIC with EQテクノロジー」が仲間入り。システム最高出力は489PS、一充電走行距離は700km超と、まず間違いのなさそうなスペックが示されている。本国ドイツで仕上がりを試した。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター(FR/6MT)【試乗記】 2026.6.10 マツダ スピリット レーシングを象徴するハードコアモデル「ロードスター12R」と同時に発表された、台数限定2200台の「ロードスター」に試乗。12Rとの比較を交えながら、最高出力184PSの2リッター直4エンジンがもたらす走りの印象を報告する。
-
NEW
自動車メーカーにとってBEV開発は「経営のお荷物」なのか?
2026.6.17デイリーコラム自動車メーカーによるBEV計画見直しの発表が相次いでいる。事業環境が大きく変わっているのは確かだが、メーカーにとってBEVは「できることなら手がけたくない」「隙あらばやめたい」商品なのだろうか。国内メーカーの動向から考えた。 -
NEW
第116回:激論! BEVスーパースポーツ(前編) ―株価を暴落させた「フェラーリ・ルーチェ」のカーデザイン―
2026.6.17カーデザイン曼荼羅フェラーリが、メルセデスAMGが、立て続けに電気自動車のスーパースポーツを発表! 特に注目を集めた……というか物議を醸したのが「フェラーリ・ルーチェ」だ。株価の急落まで引き起こしたいわくつきの造形を、カーデザインの識者と考察する。 -
NEW
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】
2026.6.17試乗記「RAV4」は世界で年間100万台以上が販売されるトヨタ屈指の売れ筋モデルゆえに、最新の技術や装備がこれでもかと詰め込まれている。販売拡大が見込まれるプラグインハイブリッド車にそれが顕著だ。「Z」グレードの仕上がりをリポートする。 -
NEW
ベスパGTSスーパー300(CVT)
2026.6.17JAIA輸入二輪車試乗会2026今年で誕生80周年を迎えたベスパ。その上級モデルである「GTSスーパー300」に試乗した。デザインこそ伝統を受け継いでいるように見える一台だが、走りのほうはどうなのか? イタリアンスクーターの名門ならではの、アダルトな魅力をリポートする。 -
NEW
名門の栄光と苦悩 「ヘリティッジ・ハブ・イタリー ASIベルトーネ・コレクション」より
2026.6.16画像・写真自動車史を飾るベルトーネの作品が一堂に集結。伊トリノの自動車博物館「ヘリティッジ・ハブ・イタリー」に開設された「ベルトーネ・コレクション」を、大矢アキオが写真で紹介。そこからは、華やかなだけではないカロッツェリアの苦闘がしのばれるのだった。 -
開発車両の公道テストに“目立つカムフラージュ”をなぜ使う?
2026.6.16あの多田哲哉のクルマQ&Aごくたまに公道で、派手なカムフラージュ柄で擬装している開発車両に出会うことがある。かえって目立つようなカラーリングが採用されているのはなぜなのか? 元トヨタのチーフエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。













































