フォルクスワーゲン・シャランTSIハイライン(FF/6AT)【試乗記】
二代目は親日派 2011.02.03 試乗記 フォルクスワーゲン・シャランTSIハイライン(FF/6AT)……483万1500円
新型「シャラン」が日本に上陸した。1.8トンのボディに1.4リッターエンジンを搭載した欧州製ミニバンはどんな走りを見せるのか。
初代「シャラン」が見せたもの
「シャラン」とはまた、懐かしい名前の復活である。先代「シャラン」が日本で発売されたのは1997年のこと。当時のミニバン界の両雄「トヨタ・エスティマ」と「ホンダ・オデッセイ」がまだ初代で、「ホンダ・ステップワゴン」が出たばかりという、国内のミニバン市場がまだ初々しかった頃のことだ。
思えば、その頃すでにミニバンといえば四角いボディというイメージは崩れつつあった。しかし、そんな中でも初代「シャラン」の丸いモノフォルムボディは個性的に映り、異彩を放っていたように記憶している。また、コンパクトな2.8リッターVR6エンジンを短いノーズの下に搭載し、背の高いミニバンらしからぬハンドリングを誇るところなんかにも、“本場モノ”っぽいありがたさを感じたものだ。
それと、そうそう、実は一番うらやましかったのが、初代「シャラン」も当時のヨーロッパ製ミニバンの例にもれず、2列目と3列目のシートが取り外せるようになっていたことだ。
日本のミニバンたちは、シートアレンジの仕掛けをとても苦労して編み出してきた。なのに、あちらのミニバンときたら、そこらへんを端折るかのごとくシートをボンッと取り外して、「ハイッ、荷台が広がりました」とやってのけてしまう。そのシンプルかつ大胆な発想に感服しつつ、あんなに重いシートを外し、それを保管しておけるだけの場所があるヨーロッパの住環境の豊かさがうらやましかったわけである。
でも今回復活した「シャラン」には、もっと驚かされた。日本のミニバンも顔負けの“日本的マナー”を身につけていたからだ。
そこかしこに日本車研究の跡
まず2列目に3脚、3列目に2脚配置されるシートがどれも外せなくなり、折りたたんで収納するようになった。なるほど、どうやらドイツにも外したシートの置き場に困ったユーザーが少なからずいたか、さもなくば、正直に面倒くさいと告白した人がいたようである。
それはともかく、見どころは3列目をたたむ、その構造である。ハッチゲート側から背もたれのレバーを操作すると、シート全体が前方に大きくスライドしながら、きっちり見事に収納される。日本車的でありながら、そのどれとも違う、とても賢い工夫だ。
もっとも、仕込まれたバネが強いのか、はたまたモノ自体が重いために勢いがついてしまうのかわからないが、日本車っぽくストンとたたまれるのではなく、「ドスッ!」といかにもドイツ流に力強くいくのが“らしい”。文明は同じでも、文化が違う。ドイツ製品が好きな人なら、思わずニヤリとするところだろう。
また、2列目と3列目のシートは幅がすべて同じ(背もたれの高さは3列目の方が低い)という平等の配慮が見られるところも、日本車とはひと味違う考え方である。ボディサイズは全長4.9×全幅1.9m級におよぶから、室内には大人7人の乗車に耐えうるスペースが広がっている。
それともうひとつ、日本車っぽいといえば、後席用のドアがそうだ。先代型とは違ってスライド式になっていて(ボディ両側に備わっている)、電動で開閉し、しかも標準装備ときている。加えて、上級の「ハイライン」ではテールゲートも電動が標準だ。聞けば、パワースライドドアは、「シャラン」の企画段階から日本側が開発を要望し、実現したものという。
これでたったの1.4リッター?
さらに驚くのは、このクルマのエンジンだ。日本製ミニバンで全長4.9mクラスなら、排気量は2.4リッターぐらいが当たり前になっているが、「シャラン」はなんと例の1.4リッター直4ツインチャージャー(ターボ+スーパーチャージャー)を積んでいるにすぎないのだ。これに湿式の6段DSGを組み合わせ、車重は1830kgに及ぶ。そう聞いて、いったいどんな走りを想像するだろうか?
これが実にサラッと、しかも頼もしく走るのだ。正直いって、驚いてしまった。1500rpmあたりでグイッとトルクカーブが持ち上がったかと思うと、大きなボディはもたつくことなく、どんどんスピードを乗せていく。カタログ値では0-100km/hが10.7秒というから、「ゴルフTSIコンフォートライン」なんかといい勝負ということになる。
一方で、高回転域はさすがに「ゴルフ」のツインチャージャーのようにビュンビュン回るわけではないが、ミニバンとして大事な静粛性に不満はなし。ロードノイズも気にならない。長いホイールベースを持つ大型ボディのクルマらしく、ピッチング方向の姿勢変化が少なく、乗り心地はフラットでとても快適である。
そこで気になるのは、やはり燃費だ。今回はあくまで参考として、首都高湾岸線を走行中に車載の燃費計をリセットして、20kmほど走行車線のペースに身を任せて走ってみた。すると、いとも簡単に14.5km/リッターという数字を表示してみせた。いかにもミニバンらしく人と荷物を満載して走ったら、この数字からどれくらい低下するかわからない。しかし、これまでの基準からしたら、かなり小食な部類に入ることだけはまちがいない。
こんな“前ノリ”な気分で走れるミニバンは久しぶり。文明は同じでも、文化が一番違うところは、たぶんそこだ。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)

竹下 元太郎
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?