薄っぺらなトレンド論に喝! 東京オートサロンで感じたクルマ好きの“熱意と多様性”
2023.01.20 デイリーコラム数字に見る「東京オートサロン2023」の実相
「東京オートサロン2023」が3日間の会期を終え閉幕した。会場全体を見聞した筆者の目には「オートサロンは新型コロナウイルスを乗り越え、往時の活気を完全に取り戻した」と見えたが、ここはやはり“印象”ではなく“数字”で考えることにしよう。下記は、ここ5年間における東京オートサロンの来場者数遷移である。
- 2019年:33万0666人
- 2020年:33万6060人
- 2021年:オンライン開催。視聴回数=12万1905回/UU=9万8938人
- 2022年:12万6869人
- 2023年:17万9434人
過去最高の来場者数を立て続けに更新した2019年、2020年の数字には及んでいないが、SARS-CoV-2変異株の影響を大きく受けた2022年と比べるなら、前年比は約141%。一部にまだ自粛マインドが残っている本邦の現状下においては「十分な回復」と見ていいだろう。
さらに昨今は、リアルな来場者数に加えて「ライブ配信の視聴者数」も加えて考えねばなるまい。
東京オートサロン2023のライブ配信(日本語・英語)再生回数は、合計18万4067回だったとのこと。そのユニークユーザー(UU)数は本稿執筆時にはまだ発表されていないが、完全オンライン開催だった2021年の視聴回数とUU数の比率を参考にするなら、2023年のUU数は約14万9100人と推定される。そしてその数字をリアルの来場者数に加えた場合の数字は32万8534人。コロナ前である2019年、2020年の“来場者数”とおおむね同程度となるわけだ。このことから「東京オートサロン熱=自動車のカスタム熱はいまだ衰えず!」と判断するのも、決して大外れではないと考える。
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強いて今回のトレンドを挙げるとしたら……
今回の会期におけるトレンドは、主には「法令順守の傾向」「より強まったアウトドア志向」「依然続くレトロデザインへの回帰」と、一応まとめることはできる。
ご承知のとおり、水素エンジンとエレクトリックにコンバートした2台の「トヨタAE86」を従えた豊田章男社長による「車好きだからこそやれるカーボンニュートラルの道がある!」との宣言から今回の東京オートサロンが始まったことに象徴されるように、法令というものをほぼ完全に無視した、いわゆる“竹ヤリ出っ歯”的なデモカーの出展数は激減し、各自動車メーカーや自動車プロショップは「エコでグリーンでスローなアウトドアライフを楽しむためのクルマ」とでも呼ぶべきジャンルのクロスオーバー車をこぞって出展した。そしてそういったライフスタイルをより堪能するための用品類の出展も目立ったのが、今回の東京オートサロンではあった。また、昭和期のデザイン要素を令和のニューモデルに注入するレトロスペクティブな嗜好および志向も、依然として人気を集めている。
とはいえ以上の分析は、自分で言うのもアレだが「取りあえずまとめてみました」というものでしかない。もちろん上記のような大まかなトレンドは確実にあったと確信するが、より正確に、より真摯(しんし)に言うのであれば、記述は以下のとおりに変更する必要があるだろう。
「341社の出展者による計789台の出展車両の傾向は、相変わらず、良くも悪くもバラバラであった」
イベントを支える参加者の熱意と多様性
「おしゃれでスローなアウトドア!」的なイメージに仕立てた新型の軽バンを展示する大手自動車メーカーブースの目の前で、さすがに“竹ヤリ出っ歯”ではないが、いわゆるハの字を切ったマジョーラカラーの国産スポーツカーが小規模プロショップによって展示されているのが、今なお東京オートサロンというイベントの実相だ。
その様子を巨視的に眺めながら「法令順守でエコな志向と、アウトドア志向が強まっている」と分析することも可能ではあるが、それはもはや「分析のための分析」でしかない。まったく意味がないとは言わないが、さほどの意味はない。
東京オートサロン2023の真のトレンドは、「自動車および人間が根源的に備えている“カスタマイズへの熱意と多様性”が、依然としてさく裂していた」というものになるはずだと、筆者は考える。
その熱意や多様性がどういう形に結実するかは、「人それぞれ」「メーカーやショップによりけり」「時代に応じて」としか言いようがない。
だがそういった根源的な熱意と多様性が何らかの存在によってつぶされない限り、東京オートサロンは今後もおそらくは不滅だ。仮に完全エレクトリックの時代になったとしても、人々は勝手に、スタイル的にもバラバラに、「それぞれのカスタマイズ」を楽しむだろう。
(文=玉川ニコ/写真=webCG/編集=堀田剛資)

玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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