自動車メーカーとパーツサプライヤーの関係について
2023.04.25 あの多田哲哉のクルマQ&Aカテゴリーによっても異なるとは思うのですが、例えばトランスミッションを開発する場合、メーカーが仕様や目標となる性能を決めてゼロに近いところからサプライヤーに製作を依頼するのですか? それとも、サプライヤーがある程度自主開発したものからメーカーが車種にあったアイテムを見つけ、さらに採用車種に合わせて仕様変更して搭載するのでしょうか?
自動車メーカーとサプライヤーの関係は時代とともに変わっていますし、開発ポリシーもメーカーによって異なります。そのため今回は「さまざまなパターンがある」という前提でお話しします。
自動車史をひも解けば、まず自動車メーカーが内製でパーツをつくっていたのが、やがて分社化してサプライヤーができていったという経緯があります。今や、自動車は一大産業になりパーツサプライヤーも大企業ですね。
トヨタを例にとるなら、系列のサプライヤーはたくさんあり、皆トヨタのほうを向いていて「新しい技術を開発したら、まずトヨタに優先的にもっていく」という関係が長く続いていました。ただ、これはトヨタへの依存体質を生み、結果的に技術開発が滞るため、近年ではトヨタ側が部品メーカーに独り立ちを促すというアクションも見られました。
その点海外、例えばドイツのメーカーにはそうした系列的なやりとりはありません。サプライヤーと自動車メーカーは対等に取引しつつ成長してきた、という点が日本とは大きく異なります。
トランスミッションについて言うなら――これは国内メーカー・海外メーカー問わずですが――自動車メーカー側が「この先5年くらいの車種ラインナップや生産規模の見通しと、それを前提としたトランスミッションの仕様に対する希望」をサプライヤーに伝え、オーダーするという流れが基本でした。
しかし、今やトランスミッションもさまざまな形式のものがそろい、カテゴリーも網羅され、さまざまなルートで手に入るようになっていますので、最近はまずサプライヤーのほうが提案し、メーカー側がそれに対する変更・修正希望を伝え、双方で調整しつつ開発していくというパターンが多くなっています。その際、サプライヤー側が「実は他メーカーからも引き合いがあるので、御社がここのスペックを変えてくれれば(他メーカーと共通のものをたくさんつくれるので)安くできますよ」などと持ちかけることもあります。
もっとも、これは製品がある程度標準化された段階でのことではあります。例えば昨今のEV化対応など、業界レベルの大変化に際しては、自動車メーカー主体で開発が進むことになるでしょう。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。