デタラメで希望も持てない? 納税者の怨嗟がうず巻くニッポンの自動車税制を考える
2023.05.26 デイリーコラム5月は自動車税納税の季節
読者諸兄姉の皆さんは、5月といえば何を想像するだろう? ゴールデンウイーク? 端午の節句? 否。自動車オーナーにおかれては、自動車税/軽自動車税(種別割)……面倒くさいので、以降は自動車税で表記を統一します……の納付こそ、5月の風物詩だろう。皆さん、納付期限は5月31日ですよ。ちゃんと支払いました?
さて、記者はこの季節になると、いつも周囲にはやし立てられる。「ほった君の納税額はいくらだっけ?」「国が憎らしくならない?」。これは、当方が分不相応にも、多額の納税が課せられる大排気量のポンコツアメリカ車を所有しているからだ。皆は人の不幸で蜜の味を味わいたく、こうした質問をしてくるのである。
しかし、実を言うと記者は、自分の払う自動車税にさほど不満を持っていない。
それは確かに、年間11万1000円……旧車増税(新規登録および届け出から13年を超えた車両への増税)もコミで12万7600円にもなる税金が、ひとやまいくらの民草にとって痛くないはずがない。またその旧車増税については、薄弱な根拠ゆえにはっきり悪法であると考えている。が、アバウト13万円という税額そのものについては、まぁしょうがないよなあと思う次第なのだ。
なぜに納得しているかというと、取材で、あるいは実家に帰るたびに、さまざまに使われるさまざまなクルマに触れているからだろう。人々の生活と日本経済の基盤を支える軽自動車(商用も含む)と、燃費極悪で「運転がキモチイイー!」以外になんの存在意義もないわが相方では、税額に10倍以上の差があるのもむべなるかな。……などと思っている。
税制によって社会の安定を図る近代国家・ニッポンにおいては、楽さ・便利さ・キモチよさといった恩恵を受ければ、それに応じて収めるものを収めるのは義務である。憲法にもそう書いてある。ゆえに記者は、過度に自身の税負担を嘆く一団とは、ビミョーに距離を置く次第なのだ。
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走行距離税は本当に「NO!」でいいの?
同じような理由で記者は、走行距離税の導入に「NO~!!」という人たちとも、すんなりとは肩を組みづらい。動力源の多様化が進む将来において、どのクルマにも分け隔てなく負担を求められる税の在り方が、他に思いつかないからだ。
この税については、2022年10月26日に政府税制調査会が議論に取り上げ、翌月17日に日本自動車工業会(自工会)が断固反対の姿勢を示した。理由は「電動車の普及にブレーキをかけてしまう」「国民的議論がなされていない」というもので、反論いちいちごもっとも。記者自身、税制調査会の間の悪さや空気の読めなさにヘキエキした。
ただ、将来にわたるモビリティー社会の健全性を思えば、電動車オーナーの特権やフリーライドをいつまでも許してはおけない。いずれはエンジン車のオーナーと同様に、恩恵に応じた義務を負ってもらう必要があるだろう。その“恩恵”を定量化するうえで、走行距離というのは非常に分かりやすい指標ではないか。それに今日でも、(納税者サイドから見れば)いわゆる燃料税が走行距離税に近い役割を負っている。
某野党などは、クルマを生活必需品としている人々の負担、そこからくる地方の疲弊を理由に、走行距離税に「NO!」を唱えている。これも大いに傾聴に値する主張だが、上述のように現状で“準・走行距離税”的役割を負う燃料税でも、そうした人や地域に対する負担軽減策はとられていない。また、これらの人や地域にホントに配慮が必要だとしても、それは自動車税の累進性やエコカー補助金のように、各論の段階で調整していけばいいものだろう。
クルマの種類によらず、すべてのドライバーに恩恵に応じた義務を課せられる、シンプルかつ確固とした課税根拠のある新税。それを考えるうえで、走行距離税は除外すべきではないというのが記者の意見だ。……まぁ自由を愛するいちクルマ好きとしては、ワタシも生理的に「やだなぁ、走行距離税」とは思うのですがね。
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今の日本でクルマを持つのはバカバカしい
このように、今日における自身の税負担については、記者はそこまで不満を持ってはいない。未来の税制における議論も大いにやるべきだと思っている。
ただ、それでは安楽太平、健やかなる心持ちで日々を過ごせているかといえば、全然そんなことはない。むしろ財布を開けるたびに、怒髪が天を衝(つ)いている。酒席で「マイカーとか、どうかな?」と友人に相談されても、大抵は「上納金がばかばかしいから、やめておけ」と、自動車メディアの関係者にあるまじきことを言う始末である。
なぜにそういう態度であるかといえば、理由は恐らく、ニッポンにおける自動車税制の現状にギモンを抱いており、また未来の税制を論ずる皆さまが、その現状を是認してきた側の方々だからだろう。
燃料にみる二重課税に、暫定税率の事実上の恒久化、環境性能に大して即していない環境性能割、先述の旧車増税……。上述の諸先生方や、頭脳明晰(めいせき)な霞ヶ関の皆さまがどう感じているかは知らんけど、はたから見たら日本の自動車税制は、本当に行き当たりばったりで適当だ。加えて「アナタ、最初はそんなこと言ってなかったじゃないですか」という改変のオンパレードである。税制以外のところを見ても、財務省による自賠責保険の借りパクを、先生方は全然とがめない。それどころか、借りパクによる金欠を打開するため、ドライバーの負担をつり上げる法案を可決したりしている。
今まで散々こんなことをしてきた皆さんに、「それじゃ、これから未来の自動車税制について考えたいと思いまーす」と言われたところで、誰が信用できましょう? 今よりいいものになるとは到底思えない。エンジン車に対する走行距離税と燃料税の二重掛けとか、平気でしそうじゃないですか。
また、集めたお金の使い方もイマイチ釈然としない。デカい話では燃料税や重量税の一般財源化、小さな話では、昨今のエコカー補助金の在り方などがそれだ。
今の日本では、電動車の補助にずいぶんお金をかけている。しかしベーシックなモデルならともかく、高額なBEVやFCEV、PHEVを買えるお金持ちまで公金で助ける必要はないし、彼らが払うべき税金の控除分を補塡(ほてん)する必要もないでしょう。アメリカのインフレ抑制法……という名の輸入EV締め出し法については、いち日本人として大いに憤る次第だが、そこに書かれた補助金支給の条件のひとつ「価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること」については、至極まっとうで正しいと思うし、日本も見習うべきではないかと思う。
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納税者の声をお上に届ける術がない
ここに述べたのは、あくまで記者個人の不満だ。各論については批判・反対ありましょう。ただ読者諸兄姉におかれても、多くの方が現状のお上の行いに不満を抱いているのではないか。事実、SNSやYouTubeは怨嗟(えんさ)の声でいっぱいだ。
なんでこんなことになっているのか。浅学なりにちょっと考えてみたのだけれど、納税者の利益をロビイング(自身に利益をもたらすよう、政府などに働きかける活動)できる力を持った組織……例えば有力な消費者団体とかが、日本に存在してこなかったのがひとつの理由ではないかと思う。
もちろん、現状でもそうした組織がゼロというわけではない。例えばロードサービスで有名なJAF(日本自動車連盟)なども“自動車ユーザー負担軽減要望活動”をしているのだが、いかんせん存在感は薄い。また自動車にまつわる税制については、自工会も折々で要望を出している。が、彼らはあくまで自動車メーカーの代弁者であって、だから例えば、旧車増税に関しては特段なんの指摘もしない。こうした現状を見るにつけ、消費者の声をお上に伝える団体があれば、なにか変わったかなと、ふと妄想してしまうのだ。
……こんなことを書くと、政治問題に詳しい諸氏からは、大学の授業よろしくロビー組織がもたらす政治の悪弊を指摘されそうだ。でも「どっかの誰かが決めたがまま」なこの現状が変化するなら、私たち自動車ユーザーからしたらきっと悪くはないと思う。
「100年に一度の大変革期」というのは、昨今、自動車メーカーが好んで使う言葉だ。だったら世の変革を機に、グランドデザインのない日本の自動車政策も、変わってはくれないもんかなぁ。……などと、コンビニのレジで思った2023年の自動車税の納税だった。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、向後一宏、郡大二郎/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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