終売の理由は? 新型の情報は? 日本でも愛された「ルノー・トゥインゴ」の過去と未来
2023.07.14 デイリーコラム始まりは1992年のパリサロン
一部のフランス車好きは前から予想していたことではあるけれど、「ルノー・トゥインゴ」の日本での販売が終了することになった。2023年7月3日、ルノー・ジャポンが、日本向けモデルの生産が同年限りで終了すると発表したのだ(参照)。
トゥインゴがデビューしたのは1992年のパリモーターショー。翌年ヨーロッパで発売され、日本では1995年に正規輸入が始まった。2007年に2代目に切り替わり、2014年に現行の3代目が発表される。翌年の東京モーターショーで日本デビューを飾ると、2016年にわが国での販売がスタートした。
初代は、その少し前にヨーロッパ初のミニバンとしてデビューした「エスパス」のコンセプトをコンパクトカーに落とし込んだような成り立ちで、モノスペースのパッケージングやマルチパーパスに使えるキャビンが特徴。半円形ヘッドランプを用いたかわいらしい顔つきも人気を集めた。
しかし、エンジンルームを切り詰めた関係でディーゼルエンジンの搭載や右ハンドルの設定ができなかった。その点を改善すべく、ノーズを伸ばして一般的な2ボックスにしたのが2代目で、スポーティーな「ルノースポール」が設定されたこともニュースだった。
RRの3代目「トゥインゴ」が生まれた経緯
こうした初代、2代目に対し、3代目にあたる現行型がダイムラーとの共同開発・共同生産による「スマート・フォーフォー」の兄弟車となったことは、知っている人もいるだろう。ただし、ルノーがスマートの設計を拝借したというわけではない。
僕はフランスで、商品企画の担当者に話を聞いたことがある。そのときの答えは、「単なる安価なコンパクトカーではなく付加価値を与えたいと考えるなかで、かつてルノーも手がけていたRR(リアエンジン・リアドライブ)に着目したところ、ダイムラーとの提携が実現したのでジョイントした」ということだった。
加えて、ルノーのデザインを率いるローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏からは、「歩行者保護対策が厳しくなり、初代のようなモノスペースは難しくなっていた。そうした折に、かつて世界ラリー選手権(WRC)で活躍したミドシップスポーツ『5(サンク)ターボ』にヒントを得たアイデアが挙がり、それをもとに仕上げた」というエピソードが返ってきた。
契機となった欧州における自動車の電動化
3世代にわたるトゥインゴのなかで、僕は初代を所有していたことがある。当時は自動車雑誌の編集部を辞め、フリーランスのモータージャーナリストとして独立したばかりだったので、経済的で多用途に使えるクルマが欲しかった。トゥインゴは最適な一台だったのだ。
鮮やかなボディーカラーは恥ずかしいと思ったので、ブラックのキャンバストップ付きを手に入れ、5年ぐらい乗った。コンパクトなのにマルチに使え、ルノーの例にもれず直進性や快適性は優秀で、今考えてもいい買い物だったと思っている。
このように、個人的にも思い入れのあるトゥインゴが、日本での販売を終えようとしている。理由はいくつか考えられるが、そもそもトゥインゴはヨーロッパ向けの車種であり、現地では自動車の電動化が進んでいることが特に大きいのだろう。付け加えれば、現行型の誕生に寄与したダイムラーとの提携も、すでに解消している。
現時点でフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国では、エンジン車は自然吸気ユニット+MTのみの販売となっており、グレードの数を見ても主力はすっかり電気自動車(EV)の「E-TECH100%エレクトリック」だ。わが国と同じ右ハンドルのイギリスでは、ひと足早く2019年に販売が終了している。
こうした状況を考えれば、ターボエンジンの2ペダルドライブが右ハンドルで選べる日本のほうこそ例外中の例外というわけで、ルノーにとってこの国がいかに特別なマーケットであるかを、あらためて教えられる。しかし、それももう限界ということなのかもしれない。
アート作品から未来を読み解く
ではトゥインゴに次はあるのか? これについては、本国のメディアサイトに2023年6月27日にアップされた情報がヒントになるような気がする。トゥインゴの誕生30周年を記念して、初代トゥインゴをモチーフにしたアート作品が発表されたのだ。国際的なオランダ人デザイナーで、IKEAのプロダクトなどにも関わっているサビーヌ・マルセリス氏とのコラボレーションによるものだった。
ちょうどこれは、「ルノー4(キャトル)」の誕生60周年にちなんだマチュー・ルアヌール氏の「スイートN°4」、あるいはルノー5の誕生50周年に合わせたピエール・ゴナロン氏の「R5ディアマン」のケースを思い出させる。ルノーはそれと前後して、次期ルノー5のプロトタイプやルノー4の復刻版といえる「4エバー トロフィー」を発表しており(参照)、これらのアイデアは市販車に移されるといわれている。トゥインゴも、これらとともにコンパクトなEVのラインナップを形成すべく、生まれ変わるのではないだろうか。
一連の流れを見れば、モチーフになるのは初代になるはず。エンジンルームの存在を感じさせないあのモノフォルムは、考えてみればEVのほうが合っているし、フラットなフロアもマルチパーパス性の実現に向くだろう。
歴代トゥインゴはいつも、僕たちに驚きと喜びを届けてくれた。4代目(?)もまた、そういうクルマになるであろうことを、かつてのオーナーのひとりとして信じている。
(文=森口将之/写真=ルノー/編集=堀田剛資)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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