第755回:新型「ルノー・カングー」の実力を解き放て! ゴミを拾って富士山をピカピカにする
2023.07.28 エディターから一言本当の自分とは?
思い描いたとおりの未来を生きている人は少ない。子どものころに抱いていた夢は年を重ねるにつれてなりたい職業や入りたい会社へと変換され、その後は仕事を覚えたり家族を養ったりで目いっぱいだ。みんなそうやって生きている。それに幻滅するほどロマンに満ちているわけではないし、自身のことを振り返ってもそこから大きく外れているわけではない。
「ルノー・カングー」のことが気になっている。わが国では長らくオシャレなMPVとして、キャンプ等のアウトドア活動を好むオーナー層を中心に支持されてきた。便利な観音開き式バックドアのなかにテントやたき火台などが常備されているカングーは、世にたくさんあるに違いない。
ただし、である。カングーには商用の血が流れていることも忘れてはならない。樹脂むき出しの黒バンパーやスチールホイールによる「ギア感」が人気とのことだが、そもそもカングーはギアである。国内ではレジャーカーとして蝶(ちょう)よ花よと扱われている今の状況に、果たしてカングーは納得しているのだろうか。ワークホースの遺伝子を解き放ってやるべきではないだろうか。
日本が誇る世界遺産をピカピカに
こうして、やや強引な理由ながら、新型カングーに乗って富士山周辺のゴミ拾いに向かった。外国からの観光客も戻ってきたことだし、登山のハイシーズンを前に日本のシンボルを清めて差し上げようという狙いである。決行日は2023年の7月14日。われわれがついていたのは、富士スバルラインのマイカー規制が始まるのがこの日の18時からだったため、カングーに乗ったまま五合目まで登れたことだ。
料金所を過ぎると、ところどころに駐車スペースと展望台が設けられており、そこを拠点にゴミを集める。……というもくろみだったのだが、残念ながらというべきかゴミはほとんど落ちておらず、いつまでたってもゴミ袋に詰めるものが見つからない。考えてみればマイカー規制が始まる日=ハイシーズンに突入する日なのだから、きれいに整えてあるのは当然だ。道端の草もきれいに刈り込んである。
同行したスタッフは展望台からの眺めを楽しんでいたようだが、私は気が気ではなかった。これではカングーで遊びに来たのと変わらないではないか。ワークホースの心の叫びが聞こえる。
表玄関から攻めたのがいけなかったのかもしれないと、ポイントを変える。富士スバルラインを降り、観光バスが行き交う場所を少し外れてみると、思惑どおりに散らかっている。そうしたシーンを見せたいわけではないので写真は載せないが、日本が誇る景勝地にはふさわしくない光景が広がっていた。
富士山に落ちてるぞ!
落ちているゴミで一番多かったのは空き缶だ。錆びてはいてもラベルが判別可能なものが多く、「ダイエットコカ・コーラ」(「コカ・コーラゼロ」ではない)や「アンバサ」などという懐かしいものもある。土に返るにはまだまだ時間がかかるのだ。飲み物の容器という点ではペットボトルも同じだが、こちらは意外に少ない。缶はキャップがないものが多いので、飲み終わったあとに持て余すということだろう。だからといって山に捨ててはいけない。
数はそうでもないものの、ゴミとしての存在感が強く、見つけたときにげんなりしたのが布団と毛布である。どちらもかさばるうえに水分を含んでいてものすごく重い。その環境が心地いいのか、虫の巣のようになっているものもある。大変申し訳ないが、一部は回収せずにそのままにさせてもらった。「虫はちょっと……」というワークホースのささやきが聞こえたのだ。
あと、トイレを捨てたのは誰だ。これがゴミとしては最悪で、毎日の水まわりでの使用に耐えるようにできているだけに、半分土に埋まっているような状態でも見えている部分はピカピカなのだ。「それも私に積むんですか?」と訴えかけるような視線を感じたため、これも回収はあきらめた。いかなる理由があったとしても、富士山にトイレを捨ててはいけない。仮に落とし物だとしたら、お前んちのトイレは富士山に落ちているから早く回収してください。
新型カングーの走りにも満足
こうしてスタッフ3人がかりでもともときれいだった富士山をさらに磨き上げ、カングーの荷室はゴミでいっぱいになった。目的が果たせたことには満足だが、そもそもゴミが落ちていなかったら拾う必要がないわけで、登山や観光で訪れる皆さまには、よりいっそうご注意いただきたい。われらがワークホースも久しぶりの“仕事”に満足したのか、のどをゴロゴロ鳴らしている。
今回は都合300kmほどを走ったが、あらためて乗った新型カングーは期待以上だった。1.3リッターのガソリンターボエンジンは最高出力131PS、最大トルク240N・mのスペックから受ける印象よりもはるかにパワフルで、とにかく前進気勢にあふれている。高回転まで回して楽しむというタイプではないが、富士山周辺の坂道をぐいぐい上る。3人乗車に加えてゴミがあったのでそれほど飛ばしたわけではないが、接地感の高さも健在。安心してアクセルを踏めるタフなシャシーである。
先代モデルでは「まあ、こんなもんだよね」と言うしかなかった内装の仕立ては格段に良くなった。「Apple CarPlay」などが使えるタッチスクリーンが備わり、メーターも液晶表示タイプになった。そのぶんだいぶ上の価格帯になってしまったが、ボディーが大きくなっているし、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストも付いているのだから、法外な値段ではないと思う。誰でも先代以上の満足度を感じられるはずだ。
最後になってしまったが、集めたゴミを受け入れてくれた富士吉田市の環境美化センターの皆さまにお礼を申し上げたい。本来、ゴミの持ち込みが許されるのは居住者のみなのだが、事前に事情を説明したところ、「そういうことなら特別に」と快く応じてくれたのである。
(文=藤沢 勝/写真=webCG/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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