オートマチックトランスミッションは、トルコン式とデュアルクラッチ式のどっちがいい?
2023.08.01 あの多田哲哉のクルマQ&A一時期はオートマチックトランスミッションの主流になるかと思われたデュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)は、トラブルがあるとかないとかで、普及に陰りがでてきたような気がします。いま選ぶなら、トルクコンバーター式AT(トルコン式AT)のほうがいいのでしょうか? それぞれの長所・短所があれば聞かせてください。
思い返せば「DCTのほうがトルコン式ATよりも断然いい」といわれた時期がありましたね。その後フォルクスワーゲンのDCTで耐久性の問題が表面化したわけですが、まさにそのころ、トルコン式ATの性能がアップし、“スポーティー度”の向上が見られました。ほとんどロックアップ状態で走れるようになって、トルコン式ATの懸念点とされていた「動力伝達の過程でパワーロスしている感覚」はほぼなくなり、制御ロジックなどの改善もあってDCTに近い変速スピードが出せるようになったのです。
ただ、トルコン式は変速のマナーがスムーズ過ぎてダイレクト感に欠けるという評価もありました。そのため、現行型の「トヨタ・スープラ」で8段のトルコン式ATを採用した際には、わざとシフトショックを演出したほどです。この点ではDCTはダイレクト感を得やすいですし、むしろガツンとダイレクトにつなげたほうが、機械的にも摩耗などのダメージが大幅に減るので、(快適性には多少目をつぶっても許される)ハイパフォーマンスカーなどでは今後も使われていくことでしょう。
DCTの一番の欠点は、物理的に重いということです。構成パーツが多いので、どうがんばっても、同程度の性能のトルコン式ATに対して軽く仕上げることはできません。実質、2割ほど重くなるかと思います。
私個人は、変速はシームレスなほうがいいと思いますし、技術的にはトルコン式ATがさらに進化する余地も残されているので、今後はトルコン式ATがオートマチックトランスミッションの主流になっていくのではないかと考えています。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。