幅広いファンの期待に応えます! マツダが改良型「ロードスター」で求めた走り
2023.10.13 デイリーコラム「まだまだ続けますよ!」という意思表明か
マツダの「ロードスター」が大幅商品改良を受けた。新しくなったモデルは2024年1月中旬に発売されるという。2015年に登場した第4世代の現行モデル(ND型)としては、過去最大の大きな改良となるそうだが、それによってロードスターの走りはどのようになるのだろうか?
まずは、今回の改良内容をざっくりおさらいしよう。
<先進安全機能の進化>
- 「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール」(いわゆるACC)の採用
- 「スマート・ブレーキ・サポート」(いわゆる後退時クロストラフィックブレーキアシスト)の採用
<マツダコネクトの進化>
- センターディスプレイの8.8インチ化(機能も向上)
<デザインの進化>
- ランプ類のLED化
- ホイールデザインの変更
- 上級グレードにおけるインテリアの質感向上
<ダイナミクス性能の進化>
- 「アシンメトリックLSD」の採用
- 電動パワーステアリングの進化
- エンジンパフォーマンスとフィールの進化
- 「DSC-TRAC」(サーキット用のスタビリティーコントロールの制御モード)の採用
<新グレード追加>
- 「SレザーパッケージVセレクション」の追加(かつての“Vスぺ”の復活)
また資料には出ていないけれど、今回の改良によって電気・電子プラットフォームが刷新されたという。この効果も大きい。パソコンで言えばOSがアップグレードしたようなもので、これにより先進運転支援機能の強化をはじめ、マツダコネクトやパワステ、エンジン制御の進化が促進されたのだ。この、大規模で手間のかかった改良が実施された事実をみれば、「この先も、まだまだND型ロードスターの生産は続く」ことが期待できるだろう。
ちなみに、2022年1月に発売され、大人気となった特別仕様車「990S」は、今回の改良にあわせて販売終了となる。2022年秋から2023年春にかけてのロードスターの国内販売のうち、990Sは全体の約20%を占めていたという。それだけの人気モデルが消えるのは残念だけれど、特別仕様車とは期間限定の、まさに“特別”なモデル。惜しまれつつ消えるのが定めなのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
限界領域での走りを高める2つのアイテム
あらためて、今回のロードスターの改良によって、その走りはどのようなものとなるのか? 実際に試乗したわけではないが、報道資料や説明会の内容からは、2つのことがみえてくる。それが「限界走行域の性能アップ」と「通常走行でのフィーリング向上」だ。
これらのうち、「限界走行域の性能アップ」に貢献するのが「アシンメトリックLSD」と「DSC-TRACK」という2つの新アイテムだ。どちらもMT車限定の装備となり、また最軽量の「S」グレードは、そもそもLSDレスなのでアシンメトリックLSDは採用されない。
アシンメトリックLSDは、簡単に言えば機械式2ウェイLSDの減速時の利きを強めたものだ。LSDとは左右駆動輪の差動(回転数の差)を抑える装置で、加速時と減速時の両方で作動する。加速でLSDが利けば、荷重が低い側のタイヤの空転が抑えられ、力強いダッシュが可能となる。いっぽう減速におけるLSDの効果は、車両を安定させること。悪く言えば“曲がりにくくなる”ことなのだが、現実にはこれが限界走行域の運動性能を高めることになる。
サーキットなどにおける、ブレーキング時の車両の状況を思い浮かべてほしい。性能の限界に挑戦するような強いブレーキングを行うと、どんな車両もフラフラと安定性をなくし、下手をするとスピン状態に陥る。そこにLSDがあれば、左右後輪の回転差を制限するため、グッと安定性が増すのだ。よりハードに、より安心してコーナーを攻められるようになるのが、減速時におけるLSDの効果なのだ。
またマツダの報道資料には、「街なかではさらに軽やかに~」という記載もある。街なかなどでの低速走行時には、あまりLSDの利きが強くならないよう工夫しているのだろう。この点からすると、アシンメトリックLSDは高速走行時に限って作動することが予測され、つまりはサーキットなどで攻めた走りをする人向けのアイテムといえるだろう。
いっぽうの「DSC-TRACK」は、これは完全にクローズドコース専用の機能というか制御モードだ。サーキット走行向けに調整されたDSC(ダイナミック・スタビリティー・コントロール)の設定で、運転操作への介入をぎりぎりまで控え、本当に危険なスピン挙動に陥ったときだけ作動するという。もちろん、どこで介入するかは開発者のサジ加減ひとつ。どのレベルのドライバーにあわせてセッティングを行ったかが気になるところで、これはぜひとも試乗会で試したい部分だ。
いずれにせよ、今回の改良で追加されたアシンメトリックLSDとDSC-TRACは、どちらもサーキットなどで攻めた走りをする人に向けたアイテムといえるだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
通常走行のフィーリングを向上させる進化
いっぽうで、改良型のロードスターでは「通常走行でのフィーリング向上」も図られている。具体的には電動パワーステアリングとエンジンの制御ロジックの進化だ。より緻密な制御を実現することで、フィーリングを高めているという。これは電気・電子プラットフォームを刷新した成果のひとつといえるだろう。
電動パワーステアリングは、「ハンドルを切り始めてから戻すまで、一貫してタイヤと路面のコンタクトが感じられ、まるでドライバーの操舵意図が直接ロードスターに伝わっているような、高い一体感を目指しました」と説明されている。またパワーユニットに関しては、1.5リッターエンジンでは「加速の伸びを強化しながら、出力を3kW(約4PS)向上」、また2リッターエンジン車も含めたすべてのグレードで、「アクセル操作時のレスポンスを改善」「アクセルを緩めて減速するシーンにおいても、よりドライバーの意にそった駆動力の応答性を実現」との記述がある。
電動パワステは「高い一体感」、エンジンは「ドライバーの意にそった駆動力の応答性」を目指すというのがポイントだ。これは、歴代ロードスターが求め続ける「人馬一体」のコンセプトにのっとったもので、要するに今回の改良でも、ロードスターが求める走りの目標はブレていないといっていいだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
全体の底上げとサーキット派への配慮
繰り返しになるが、今回の改良では電気・電子プラットフォームの刷新が行われ、それが前項で紹介した「通常走行でのフィーリング向上」につながっている。これは、「クルマとしてのポテンシャルの底上げ」といえるだろう。
一方で、アシンメトリックLSDとDSC-TRACKというアイテムを追加したことで、「限界走行域の性能アップ」も果たした。ただし、このありがたみを甘受できるのはサーキット走行を楽しむような攻めたユーザーのみ。いわばサーキット派だけだ。普段使いやツーリングには、ほぼ関係のない装備となる。
こうした一部向けの装備を用意した背景には、2022年はじめにリリースされた990Sの存在があるのかもしれない。990SにはLSDが装備されておらず、限界領域の走りではなくストリートでの気持ちよさを突き詰めたクルマだった。つまり、以前にストリート向けのモデルをリリースしていたからこそ、今回はサーキット派のファンを満足させようとしたのではないだろうか。ロードスターは街なかでも楽しいし、サーキットでも楽しいクルマだ。その両端に目配せをしたというわけだ。
ちなみに、今回の改良に関するメディア向け説明会で、ロードスターの現開発主査である齋藤茂樹氏は「Sグレードが好き」であることをあらためて表明していた。ロードスターのSグレードは、既述のとおりLSDを持たない、いわゆるストリート向けのクルマだ。それだけをみると、齋藤氏はストリート優先の指向に思われるが、今回の改良をみれば、決してサーキット派を軽視していないことも分かる。広く、ロードスターのファンに向けて改良が行われたといっていいだろう。
最後に、“990Sオーナー”という個人的な立場から述べると、今回の改良は「なんともうらやましい」という印象だった。レーダークルーズコントロールは無理だろうけれど、せめてLED化されたヘッドライトを愛車の990Sに流用できないだろうか……。そんな思いで説明を聞いていた。来年1月ごろに開催されるであろう試乗会に参加できれば、エンジニアに確認してみたい。
(文=鈴木ケンイチ/写真=マツダ/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆「ロードスター」一色のマツダブース 世界初公開のコンセプトモデルの正体は?【ジャパンモビリティショー2023】
◆大幅改良で人気も加速!? 勢いを増す「マツダ・ロードスター」と日本のスポーツカー市場
◆マツダが「ロードスター」を大幅改良 装備を強化し爽快な走りも追求

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
-
企画から開発までを一気通貫で レクサス&GRの開発現場「トヨタ・テクニカルセンター下山」の設備群を見学NEW 2026.5.13 トヨタ本社の北方に位置する「トヨタ・テクニカルセンター下山」はレクサスとGRの一大開発拠点だ。ここで鍛えて開発された「レクサスTZ」の世界初披露のタイミングで、一部のメディアに内部が公開された。その様子をリポートする。
-
ベテランも若者も大興奮!? まだ見ぬ次期「日産GT-R」はきっとこうなる! 2026.5.11 日産自動車のイヴァン・エスピノーサCEOは、2026年4月14日に開催された長期ビジョン発表会において「将来的に新型『GT-R』を投入する」と明言した。それは一体どんなクルマになるのか、これまでの情報から推測し得る将来像について語ろう。
-
新型「スカイライン」はこうなる! 各発表情報から日産の伝統的セダンの未来を探る 2026.5.8 日産が、正式にその存在を明らかにした新型「スカイライン」。1957年からの歴史を誇り、熱心なファンを抱える日産伝統のスポーツセダンは、次期型でいかなる姿となるのか? 日産が発表したさまざまな情報をもとに、その未来像を考察した。
-
世界遺産・高野山で大型電動バス「BYD K8」の営業運行がスタート その狙いとは? 2026.5.7 和歌山の南海りんかんバスが、世界遺産・高野山でBYDの大型電動バス「K8」の運行を開始した。現地にPHEV「BYDシーライオン6」で向かい、実際に高野山を巡るルートで電動バスに乗車しながら観光地における電動バスの役割を考えた。
-
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件 2026.5.6 年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。
-
NEW
アストンマーティンDBX S(4WD/9AT)
2026.5.13試乗記英国の老舗、アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX」がさらに進化。名前も新たに「DBX S」となって登場した。シャシーを煮詰め、最高出力を727PSに高めるなどの手が加えられたその走りを、クローズドコースで確かめた。 -
NEW
企画から開発までを一気通貫で レクサス&GRの開発現場「トヨタ・テクニカルセンター下山」の設備群を見学
2026.5.13デイリーコラムトヨタ本社の北方に位置する「トヨタ・テクニカルセンター下山」はレクサスとGRの一大開発拠点だ。ここで鍛えて開発された「レクサスTZ」の世界初披露のタイミングで、一部のメディアに内部が公開された。その様子をリポートする。 -
NEW
第112回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(前編) ―野心的な「Honda 0シリーズ」に覚えた違和感の正体―
2026.5.13カーデザイン曼荼羅ついに開発中止が発表された「Honda 0サルーン/SUV」と「アフィーラ」。しかし、これらのカーデザインについては、かねて疑問が投げかけられていた。ホンダが社運をかけて挑んだ野心作に、私たちが違和感を覚えた理由とは? 有識者と考えた。 -
“うまく運転するための電子制御”に限界はあるか?
2026.5.12あの多田哲哉のクルマQ&A運転のプロは、トラクションコントロールなどの電子制御システムを利用しないほうが速くクルマを走らせられる? 運転の楽しさとの関係は? 現在のシステムの到達点や開発の難しさについて、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】
2026.5.12試乗記イタリアの名門が放つ、ミドシップのオープンスポーツ「マセラティMCプーラ チェロ」。スーパーカーの走りとグランドツアラーのゆとり、そしてぜいたくなオープンエアドライブを同時に楽しめる一台からは、マセラティがクルマに込める哲学が、確かに感じられた。 -
第335回:水平尾翼が効いてるのかな
2026.5.11カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。フルモデルチェンジで2代目となった「シトロエンC5エアクロス」で、夜の首都高に出撃した。最新のデザイン言語を用いて進化した内外装とマイルドハイブリッドの走りに、元シトロエンオーナーは何を感じた?













































