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「ビートル」は消えMINIはEVブランドに 電動化戦略の分岐点を探る

2023.10.12 デイリーコラム 山崎 元裕
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対照的なMINIとビートルの電動化戦略

長きにわたって、庶民の足として活躍したモデルといえば、まずイメージされるのは英国BMCの「Mini」である。2001年には、BMW傘下の「MINI」としてさらなる進化を遂げ、現在に至るのはご存じのとおり。ドイツに目を向ければ、そのMiniよりも早く1938年に生産を開始したフォルクスワーゲンの「タイプ1」、すなわち「ビートル」も思い出されるだろう。

BMWが開発した初のFF車となったMINIは、その後さまざまなバリエーションを追加し、現在では第3世代へと進化。ボディーサイズや多彩な装備内容、そして何より運動性能を考えれば、すでにBMC時代とは一線を画するモデルに進化したともいえる。

一方のフォルクスワーゲンとて、初代モデルのタイプ1と比較すれば、ビートルは着実に進化を遂げてきた。ビートルは1970年代にFFの新型車「ゴルフ」が誕生するまでフォルクスワーゲンの主力車種として同社を支える存在だった。1998年にはそれまでのRRからFFへと基本設計が変更された復刻版たる「ニュービートル」が登場。これを2代目とするのなら、さらに3代目として「ザ・ビートル」が2013年にデビューした。その生産が2019年に終了したことでビートルの歴史にはいったん終止符が打たれた。

いまどきは自動車メーカーの歴史や伝統を象徴するアイコニックなモデルの生産終了、あるいは世代交代が行われるタイミングになると、必ず話題になるのはその電動化だ。

企業平均でCO2排出量が95g/km以下という、厳しいレギュレーションを考えれば電動化は必要不可欠であり、各社ともセールスボリュームの大きなモデルにCO2排出量の少ないモデルを投入するという戦略を採るのは当然のところだろう。だが実際のところ、BMWとフォルクスワーゲンが打ち出したMINIとビートルに対する電動化の戦略は対照的だ。その理由はどこにあるのだろうか。ここでは両社の動きを探ってみたいと思う。

欧州で販売が開始された新型の電気自動車「MINIクーパー」(写真右)と歴代モデル。BMWグループのプレミアムコンパクトブランドであるMINIは、2030年に新車販売を100%電気自動車にすると発表している。
欧州で販売が開始された新型の電気自動車「MINIクーパー」(写真右)と歴代モデル。BMWグループのプレミアムコンパクトブランドであるMINIは、2030年に新車販売を100%電気自動車にすると発表している。拡大
1959年の誕生から、実に41年もの長きにわたり愛され続けた英国を代表するコンパクトカー「Mini」。BMCグループが1959年にモーリスとオースチンの両ブランドで送り出した。写真は「モーリス・ミニ」。
1959年の誕生から、実に41年もの長きにわたり愛され続けた英国を代表するコンパクトカー「Mini」。BMCグループが1959年にモーリスとオースチンの両ブランドで送り出した。写真は「モーリス・ミニ」。拡大
1938年にドイツの国民車「KdF」として登場した「フォルクスワーゲン・タイプ1」。旧西ドイツでは「ケーファー(Käfer=カナブンやなどの甲虫類)」、日本では「ビートル」や「カブトムシ」と呼ばれ親しまれた。この自然発生的な愛称が後にメーカーの正式名称として採用された。
1938年にドイツの国民車「KdF」として登場した「フォルクスワーゲン・タイプ1」。旧西ドイツでは「ケーファー(Käfer=カナブンやなどの甲虫類)」、日本では「ビートル」や「カブトムシ」と呼ばれ親しまれた。この自然発生的な愛称が後にメーカーの正式名称として採用された。拡大
1994年の米デトロイトモーターショーで発表された「コンセプト1」を経て、1998年に市販モデルとして登場した「フォルクスワーゲン・ニュービートル」。
1994年の米デトロイトモーターショーで発表された「コンセプト1」を経て、1998年に市販モデルとして登場した「フォルクスワーゲン・ニュービートル」。拡大
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電動MINIを中国でも生産

BMWの電動化戦略は、すでにその方向性がしっかりと固まっているようだ。その象徴的な存在がMINIである。BMWは2021年に、MINIを2030年初頭にはBEVブランドとする計画を発表した。ICE(内燃エンジン)のみを搭載するMINIは2025年には姿を消し、2030年までにはBEVブランドとしてのラインナップを完成するというのが、その電動化戦略の概要であった。

BEV仕様のMINIは、すでにヨーロッパでは販売がスタートしている。日本にも間もなく「MINIクーパー」と、「MINIカントリーマン」の2モデルが上陸する予定。いずれもMINIというネーミングながら、堂々としたパッケージングが目を引く。

BEVとなったことで、走りにもさらなる快適性や安定感が生み出されていることも確かだろう。現在の段階では日本仕様の一切のスペックは発表されていないが、ドイツ本国で販売されている「MINIクーパーSE」は最高出力が218PS、一充電航続距離は377~402km(WLTP複合モード)と発表されている。一方のカントリーマンは電動パワートレインの最高出力は未発表ながら、395~433km(WLTP複合モード)の同航続距離を持つ。通常時でも460リッター、最大で1450リッターにまで拡大できるラゲッジスペースと5人乗りを両立させているのも、カントリーマンの特徴であり魅力だ。

BEV戦略が本格化するなかでも今すぐICEが完全廃止されるわけではなく、何らかのかたちで生き残っていきそうだ。ディーゼルエンジンに関しては早々に設定がなくなる可能性が高いが、ガソリンエンジンは2025年以降生産されるモデル以降でも、PHEVなど何らかの電動システムとの組み合わせで残されると予想している。

BMWは中国の長城汽車との提携で、BEV仕様のMINIを同社の中国工場で生産するとも発表している。それが実現すれば、一気にその生産ボリュームが拡大することになる。

電気自動車として生まれ変わった「MINIクーパー」(写真左)と「MINIカントリーマン」(写真右)。EVになっても、ひと目でMINIとわかる内外装のデザインが特徴だ。
電気自動車として生まれ変わった「MINIクーパー」(写真左)と「MINIカントリーマン」(写真右)。EVになっても、ひと目でMINIとわかる内外装のデザインが特徴だ。拡大
欧州における新型「MINIクーパー」の価格は、先代モデルより安い3万2900ユーロ(約525万円)から。全幅、全高、ホイールベースはわずかに大きくなったが、全長は3.86mとコンパクトなままだ。
欧州における新型「MINIクーパー」の価格は、先代モデルより安い3万2900ユーロ(約525万円)から。全幅、全高、ホイールベースはわずかに大きくなったが、全長は3.86mとコンパクトなままだ。拡大
新型「MINIクーパー」のインテリア。ダッシュボードのセンターに置かれた標準装備の9.4インチ有機ELタッチスクリーンが目を引く。クラシックなトグルスイッチも引き続き採用されている。
新型「MINIクーパー」のインテリア。ダッシュボードのセンターに置かれた標準装備の9.4インチ有機ELタッチスクリーンが目を引く。クラシックなトグルスイッチも引き続き採用されている。拡大
新型「MINIカントリーマン」のリアビュー。2024年春に販売がスタートし、価格は4万3500ユーロ(約695万円)からとアナウンスされる。電気自動車となった新世代のMINIでは、販売台数の3分の1をカントリーマンが占めると見込まれている。
新型「MINIカントリーマン」のリアビュー。2024年春に販売がスタートし、価格は4万3500ユーロ(約695万円)からとアナウンスされる。電気自動車となった新世代のMINIでは、販売台数の3分の1をカントリーマンが占めると見込まれている。拡大

かつてはBEV仕様のビートルも検討

フォルクスワーゲンがBEVブランドとして「I.D.」を立ち上げていることはすでに知られているとおり。そのファーストモデルとして2022年3月に発表されたのが、かつての「タイプ2」をモチーフに現代的にそのデザインを再解釈したBEVの「I.D. BUZZ」だった。I.D. BUZZはフォルクスワーゲンのファンにとっては実に魅力的で未来を感じさせる一台だったのだが、私を含め多くのファンが疑問に思うことがひとつだけあった。

それはなぜI.D.のファーストモデルがタイプ1、すなわち80年もの長きにわたって親しまれたビートルをベースとしたものでなかったのか、ということだった。

フォルクスワーゲンは、ザ・ビートルに続く新世代のビートルとして、4ドアのBEVをI.D.からデビューさせることも検討していたという。それは実際に同社がBEV用に新開発したプラットフォーム「MEB」を用い、ビートルの特徴ともいえるフロントマスクなどのモチーフを巧みに受け継いだ2017年のコンセプトカー「I.D.Crozzコンセプト」として、またさらにさかのぼれば、2012年にはザ・ビートルをベースとしたBEVの「Eバグスター コンセプト」も発表しているのだ。フォルクスワーゲンは決してBEV仕様のビートルに興味がなかったわけではないのだ。

だがそれに前後して、社内ではビートルの将来に関する議論が徐々に活発なものになってくる。いわゆるレトロフィットモデルをニュービートルとザ・ビートルという2世代にわたって生産し、さらにそれ以上この路線を引き継ぐ理由があるのかどうかという議論である。

結論を先に言えば、新たなヘリテージモデルはタイプ2の流れをくむBUZZが選ばれ、BEV版ビートルの計画は霧散した。フォルクスワーゲンのアイコン的なBEVはビートルではなく実用性も加味したBUZZが、ゴルフの流れをくむポピュラーなBEVは「ID.3」や「ID.4」が担うということだろう。

実際に誕生したI.D. BUZZは(正式なプロダクションモデルの車名は「ID.Buzz」に変更された)のスタイルはどこか愛らしさを感じる、そして現代のワンボックス車らしい優れたエアロダイナミクスを表現したものだ。コンパクトカーやSUVが主流となる現在のBEV市場にあって、ID.Buzzを手に入れたらライフスタイルはどう変わるだろうか。本格導入が楽しみに思えてくる。

(文=山崎元裕/写真=BMW、フォルクスワーゲン/編集=櫻井健一)

2023年3月に国内導入が正式発表されたフォルクスワーゲンの新型電気自動車「ID.Buzz」(写真中央)。導入時期は2024年の年末以降とアナウンスされている。
2023年3月に国内導入が正式発表されたフォルクスワーゲンの新型電気自動車「ID.Buzz」(写真中央)。導入時期は2024年の年末以降とアナウンスされている。拡大
「ザ・ビートル」をベースとした電動モデル「Eバグスター コンセプト」は、2012年1月のデトロイトモーターショーで発表された。モーター出力は115PSで、0-100km/h加速は10.9秒を誇る。容量28.3kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電航続距離は180km。
「ザ・ビートル」をベースとした電動モデル「Eバグスター コンセプト」は、2012年1月のデトロイトモーターショーで発表された。モーター出力は115PSで、0-100km/h加速は10.9秒を誇る。容量28.3kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電航続距離は180km。拡大
2022年11月に導入されたフォルクスワーゲンの電気自動車「ID.4」。BEV専用のプラットフォーム「MEB」が採用される。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4585×1850×1640mmで、ホイールベースは2770mm。
2022年11月に導入されたフォルクスワーゲンの電気自動車「ID.4」。BEV専用のプラットフォーム「MEB」が採用される。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4585×1850×1640mmで、ホイールベースは2770mm。拡大
2023年3月に発表された電気自動車「フォルクスワーゲンID.3」の改良モデル。内外装デザインや運転支援システムのアップデートが行われている。
2023年3月に発表された電気自動車「フォルクスワーゲンID.3」の改良モデル。内外装デザインや運転支援システムのアップデートが行われている。拡大
フォルクスワーゲンのスポーツモデルを象徴する「GTI」の名を冠した最初の電気自動車が「ID.GTIコンセプト」だ。2023年9月の「IAAモビリティー2023」(ドイツ・ミュンヘン)で初披露された。
フォルクスワーゲンのスポーツモデルを象徴する「GTI」の名を冠した最初の電気自動車が「ID.GTIコンセプト」だ。2023年9月の「IAAモビリティー2023」(ドイツ・ミュンヘン)で初披露された。拡大
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