ホンダN-BOX(FF/CVT)/N-BOXカスタム ターボ(FF/CVT)
これぞ横綱相撲 2023.11.04 試乗記 「ホンダN-BOX」がフルモデルチェンジ。3代目となる新型にも国内販売ナンバーワンの座の死守が求められていることは間違いない。シャシーやエンジンをはじめとした基本コンポーネンツはすべてキャリーオーバーとのことだが、果たしてその仕上がりは?定番ゆえに高くても売れる
N-BOXといえば今やホンダの国内販売を支える大黒柱にして、真の国民車といえる存在だ。前者はまあまあ切ないが、後者は誇るべきファクトではないだろうか。同カテゴリーでは「タント」や「スペーシア」も抑えつつ、登録車では束でかかってくる「ヤリス」シリーズも跳ねのけての1番を年次ではしっかり守り続けている。こうなってくるともう日清の「カップヌードル」やキユーピーの「マヨネーズ」。永谷園の「お茶漬け」のようなもので、軽スーパーハイトワゴンという国民的総意において、N-BOXが脊椎反射的な選択肢ということになるだろうか。
ここまでの境地に至ると、販売の側も強気に策が練れる。スーパーのチラシを見ていると、カップヌードルの値段は特売扱いでさえ同業他社の縦カップ銘柄と同等以上だ。それであっても買いたいと思わせる理由は、味や量も含めて慣れ親しんだ安心感や信頼感といったところが大きいのだろう。新しいN-BOXも抱えているたくさんのリピーターの買い替えを重視し、満足度をさらに高めるべくグレードを上位シフトしたうえで同等装備のライバルに対して5万~10万円は高めの値づけとなっている。その差は中身にしっかり反映されているとエンジニア陣は自信満々だ。こうなるとじかに前線で対峙(たいじ)するダイハツやスズキの大変ぶりもお察しするところでもある。
そんなN-BOXのフルモデルチェンジ……といわれても、発表された写真を見るにつけ、あんまり代わり映えしない印象だ。現物を目の当たりにしても、もしかして前まわりはガラス面も変わっていない、上屋もママイキ(注:そのままいってくださいという校正用語です)って感じだろうかと思いつつ尋ねてみると、ガラスは取り付け点の関係もあって厳密には型番は変わっているものの基本的には同じ、なんならルーフパネルも一緒ですとのこと。いわば「ゴルフ」が5から6になったときのような、限りなくマイナーチェンジ的なフルモデルチェンジという見方もできるのかもしれない。
面白いのは開発陣が特段それを隠す様子もないことだ。聞けば「そもそも基本車台やパッケージに関しては無理繰り変える必要もないくらいご満足をいただいているという判断がありまして、そのぶん中身の熟成に時間を費やすのがいいという話に至りました」と仰るが、その話、まさにそのとおりだろう。自分が選ぼうとしているのは、維持費もお得な軽なんだと認識している大人ならば、さすがにもっと広くと無慈悲な要求をする者もいるまい。
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薄化粧が最新のトレンド
でも、ひたすら使い勝手のいいハコが欲しいというニーズのために、なんなら「iPhone SE」のようなエッセンシャルモデルとして前型をそのまんま、ちょっとお安く売ってくれるなどすれば、むしろそっちのほうが人気が出そうな気がしなくもない。なにせ前型は新型へとバトンタッチする2023年9月まで、国内販売の頂点にいたわけである。
が、結論を先に言えば新型N-BOX、見て乗ってやっぱりうならされることになった。しかもそれは、主にわれわれのようなクルマ好きにとっての利得という面での話だ。
エクステリアは前型の面影を強く漂わせつつも、よりスキッとミニマルに仕上がった。そういう点では標準車より「カスタム」のほうが変わり幅は広く、メッキ等の加飾要素はかなり整理された印象だ。これならギリギリ辛抱できるかなというオジさんがいたとしたら、それはまんまとホンダの術中にハマっていて、実は新型N-BOXカスタム、マイカーのダウンサイジング層の嗜好(しこう)をくんでちょっと薄化粧気味に仕上げているそうだ。思えば間もなく投入されるだろう「スペーシア カスタム」も、顔面まわりの光沢加飾は控えめになった。もっと圧高めで! という向きにはディーラーオプションできっちり盛ってくださいという趣向なのだろう。
新型のN-BOXで最も大きく変わったように見えるのはインテリアではないだろうか。ダッシュまわりはガラリと一新され、前後席間や後席左右端のクリアランスなどは骨格レベルでは変わらずとも、トリム形状や臓物の移動など隅をたたいてコツコツと広げている。結果的に後席の脇には肘まわりから肩まわりにかけて余裕が生まれた。前席もメーターをステアリングのサークル内から見せる視線構成でダッシュボード形状がピシッと水平基調となったことで、視界的な開放感はうんと高まっている。加えてピラーのインナートリムや補助ミラーの形状からも死角の低減に気づかっているのがホンダのクルマらしいところだ。
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高速移動時の快適性をブラッシュアップ
最初の取材車は丸目のベースモデル。エンジンやトランスミッションは前型をキャリーオーバーしつつ、チューニングを新型向けに整えている……と、ここで個人的に気になっていたのが、新型N-BOX、ターボがカスタムのみの設定となったことだ。なんでわざわざそんな偏狭仕様にするわけよ……と尋ねてみると答えは明快。前型実績でベースモデル+ターボの比率はわずか8%だったからだという。思えばスズキのスペーシアも、ベースモデルにターボは設定されていない。これもまた多数決による総意なのだ。
諸事情で地方に行く機会が増えたものだから、個人的にはこの総意もよく分かる。郊外に流れのいいバイパスが整備される一方で、インフラがそのままの狭い市街路では、軽トラをペースメーカーに50km/hで流れればまだマシというトラフィックが大半だ。高速道路もないし、あってもバイパス走れば到着時間に大差はないからETCも要らないし……と、それが日常であれば、もはやターボは“イキリ”向けという市場の反応は、軽自動車では大勢となりつつあるのだろう。
一方で、エンジニアたちが新型N-BOXで意識したのは高速移動時の快適性だという。100~120km/hのレンジでもしっかりスタビリティーを確保しつつ快適に移動できること。果たしてそれは軽の実情に対してトゥーマッチではないか。そもそも高速とか乗らないって人も多いだろうし……と、走りだしてみたらその動的質感の伸びっぷりにびっくりした。路面からのフィードバックはきれいになましてある一方で、操舵感は手応えが増し、クルマの動きもリニアに引き出せる。リニアといえばパワートレインの側もしかりで、自然吸気でもエンジンがすぐに無駄ぼえするようなしぐさは抑えられている。そして静粛性は前型との差が最も分かりやすいところだろう。
それでも中高速域になるとさすがに苦しいだろうなと高速に乗ってみると、本線合流でも回転を抑え気味にしながらするすると速度を高めていき、周囲の流れに乗るような速度域でもエンジンが派手にうなるような癖はやはり控えめだ。さすがに80km/hを超えると車格に重量に空力的な抵抗にと、それらがモロにかぶさってくるからスイスイと前に進むというわけにはいかない。それでも乗り心地や音環境的には100km/hくらいまでは快適にクルーズできる。
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すべてがピタッと丸く収まった
取材当日は無風に近いコンディションだったので、高速道路でもスタビリティーに課題は感じなかった。そしてもうひとつ驚かされたのがコーナリングのマナーが随分と変わったことだ。以前は一定のGを超えるとロールが急に大きくなって心もとない感があったが、新型ではロールの始まりがより低速域になったものの、そこからロールの量が比例的に推移するようになったうえで、リアサスの踏ん張り感も明瞭に感じられるようになった。
要はドライバーの感覚とより相違なく車体が動くようになったことで、乗員の安心要素がぐっと増したという感じだろうか。この傾向はターボのほうがより明瞭に見てとれる。なんなら先代ではターボだろうがなんだろうがちょっと躊躇(ちゅうちょ)させられた120km/h巡航も新型のターボなら楽にこなせるだろう。でも、乗り心地や静粛性は明確に自然吸気に劣るのもまた確かだ。ターボであれ高速道路の経済速度は100km/hで、そこから向こうは車重や空力のあしかせが二次曲線的に響いて効率が低下してしまうことに鑑みれば、実は新型N-BOXの白眉(はくび)は自然吸気のベースモデルなのではないかと、自分でも想像がつかない方向に結論が転んでしまった。
2022年の先代N-BOXのインプレで書いたところがあらかた改善されていた新型N-BOX。根本的なソリューションは全部キャリーオーバーなのに、なんでこんなにガラリと進化したのか。それをエンジニアに聞いてみるも、なにか決定的な一打はないという。逆に言えば前述のとおり、初代の鉱脈をより広げるべく何もかもを刷新した先代では、やはり手数的にも詰めきれていなかったところを新型にしっかり反映できた、いわば熟成的なところが大きいという。エンジンだって抜本的な音・振動対策は加えていないファインチューンだし、ステアリングコラムなど部位ごとの増強はあれどハコ自体の剛性は大差ない。むしろそこには必死にこだわらないつくり込みを重ねてきたら、静粛性も含めたすべてがピタッと丸く収まったそうだ。
そんな奇跡の惑星直列はクルマづくりにおいてあり得ない話ではない。具体的に説明してもらえないけれども、基本は前型と同じ材料なのに、なんでこんなによくなっちゃったんだよというゴルフ6みたいな事例は自分でも幾度か体験してきた。
軽自動車としての大義はここにはないという個人的な思いは今も変わらない。やはり900kg級の車体を660ccで引っ張るという軽スーパーハイトワゴンの避けられない状況そのものがかなり不健康ではあるとは思う。でも、その限られた体積と排気量のなかでどれだけ進化を見せられるかという切磋琢磨(せっさたくま)には敬意を表するほかない。自分自身、N-BOXを買うなら自然吸気かなあと思うときがくるとは思わなかった。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ホンダN-BOX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:164万8900円/テスト車=211万0900円
オプション装備:ファッションスタイル(9万9000円)/コンフォートパッケージ<リア右側パワースライドドア、運転席&助手席シートヒーター、運転席&助手席シートバックテーブル、オートリトラミラー、左右独立式リアセンターアームレスト>(10万0100円) ※以下、販売店オプション 9インチHonda CONNECTディスプレイ(23万5400円)/フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダN-BOXカスタム ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:940kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.3km/リッター(WLTCモード)
価格:204万9300円/テスト車=244万0400円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンライトホワイトパール>(5万5000円)/マルチビューカメラシステム(7万3200円) ※以下、販売店オプション 9インチHonda CONNECTディスプレイ(23万5400円)/フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:820km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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