マツダMX-30ロータリーEVエディションR(FF)
ロータリーファンへの贈り物 2023.12.18 試乗記 11年ぶりに復活したマツダの市販ロータリーエンジン搭載車「MX-30ロータリーEV」の発売記念特別モデル「エディションR」に試乗。「8C」型と呼ばれる新開発の1ローターエンジンが発電に徹する、新たなシリーズ式プラグインハイブリッドの走りやいかに。シリーズハイブリッド機構を同軸に配置
このロータリーエンジンを使ったプラグインハイブリッド=ロータリーEVがMX-30に搭載されるのは、そもそもMX-30がマツダにおける電動車の先兵役というポジションの商品だからだ。以前からマイルドハイブリッド車(MHEV)とバッテリー電気自動車(BEV)を用意するMX-30には、ほかのマツダ車同様のエンジンルームのほか、駆動用電池を搭載できる床下構造もすでにある。
実際、今回のロータリーEVは、エンジンからモーター、ギアボックス、発電機などを同軸配置するシリーズハイブリッド機構をフロントのエンジンルームに搭載すると同時に、床下にはリチウムイオン電池を積む。ただ、電池の量はBEV仕様より少なくなって(35.5 kWh→17.8kWh)おり、もともとの燃料タンク用スペースは空いている。ロータリーEVでは、そこに50リッターというMHEV仕様と同等容量の燃料タンクも置く。
今回の取材はマツダの横浜R&Dセンターを拠点としたメディア試乗会によるもので、取材車はバッテリーがほぼ満充電された状態で供された。許された取材時間は撮影も含めて3時間だった。純粋な試乗にあてられた時間はこのうちの約1時間半で、走行ルートは首都高速と東京湾アクアライン、そして横浜周辺の市街地。ご想像のとおり、外部充電された電力を使い切るようなコンディションではなかったことを、最初にご報告しておく。
さて、ロータリーEVといっても、内外装に特別なところはとくにない。外観でそれと分かるのはバッジ類のみ。メーター表示項目のいくつかはロータリーEV特有になるが、クラシカルな三眼式という基本レイアウトは変わりない。また、リアシートの床が少し高くなっていて、平均的な身長以上の大人だと、太ももが少し持ち上がるのはBEV仕様と同じだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
発電に徹するロータリーエンジン
MX-30ロータリーEVのセンターコンソールのスイッチでは、デフォルトの「ノーマル」、そして「EV」に「チャージ」という3つの走行モードが選べる。ノーマルモードは、電池残量があるうちは基本的にBEVとして走り、電池残量が半分を切ってからはエンジンを適宜かけながら、バランスのいい高効率な運用になるという。いっぽうのEVモードは電池残量ぎりぎりまでBEVとして走る。
いずれのモードでも、エンジンを停止したまま走るMX-30の動力性能は、このクラスのBEVとしては“穏当”といったところで、遅くはないが、特筆するほど速くもない。駆動モーターはロータリーEV専用だが、最高出力や最大トルクはBEV仕様のそれと大差ない。ただ、車重はロータリーEVのほうがBEV仕様より100kg以上重いので、それが体感的な動力性能にも影響しているのだろう。
パワートレインのしつけはBEV仕様と基本的に同じで、なかなかうまい。アクセルをガバ開けしてもギアのバックラッシュに起因するような衝撃はほぼ感じさせず、しかしアクセル操作と実際の加速レスポンスに不自然なズレがあるわけでもない。このあたりは、さすが“人馬一体”を絶対社是とするマツダらしい仕上がりといえる。
ノーマルモードやEVモードでも、アクセルペダルを従来のエンジン車でいうキックダウンスイッチ領域まで深く踏み込むと、自動的にエンジンが始動する。エンジンが発電に徹するロータリーEVでは、システム上の最高出力はエンジンなしでも発生できるようになっている。しかし、全開領域では最高出力を継続的に発揮できるように、エンジンをかけて電力を供給する制御となるわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
電気ドリルのような音
電池残量が十分にあるかぎり、アクセルペダルを緩めて低負荷になるとエンジンも停止するが、このあたりのエンジンの出入り制御もシリーズハイブリッドらしく、とても滑らかだ。エンジン音も「無意識でいるとエンジンの存在に気づかない」なんてことはいわないが、走っていればロードノイズにまぎれるくらいの静粛性は確保されている。物理的な遮音・吸音に加えて、エンジンをかけるタイミングなども、できるだけ静かに感じられるように工夫しているという。また、ロータリーのコンパクトさを生かして、すべての回転機構が同軸配置されていることも、この滑らかさに奏功しているのかもしれない。
これまで経験したロータリーエンジンは往復運動でエネルギーを生み出すレシプロエンジンとは別次元の滑らかさだったから、今回もそうなのか……と思ったら、この8C型にかぎってはそうでもないらしい。
8C型はシングルローターなので、偏心運動による振動をマルチローターのように打ち消すことはできないし、1ローターあたり830ccという排気量も大きめだ。この取材で開発担当氏に「8C型の振動騒音処理のむずかしさを、レシプロでたとえると?」と質問したら、彼は「2気筒くらい」と率直に答えてくれた。つまりは今回のロータリーEVは、エンジン自体は静かな部類ではないということだ。
実際、電池残量を10%きざみで選べるチャージモードで、あえて積極的な発電を要する設定にしてみると、ロータリーはこれまで以上に高回転で稼働しはじめる。そのエンジン音はコンパクトカーで高回転まで回したかのような音量で、「ロータリーが特別に好きではないが、エンジン音自体は嫌いではない」という平均的クルマ好き(?)の筆者には、正直いってあまり心地よいサウンドには感じられない。それはこれまで経験したことのある2ローターや3ローターの音とも明らかに異なり、欧州の某メディアにあった「電気ドリルのような音」という表現に、思わずヒザをたたきたくなったりもした。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ちょっと面白いアシグルマ
実際、MX-30ロータリーEVには、スピーカーで雑音や音色を制御するノイズキャンセラーやサウンドコントロールの類いは備わっていないが、個人的にはぜひとも追加してほしいと思った。生粋のロータリーマニアはともかく、そうでない人間にとっては、今のままでは、正直ちょっと耳ざわりにすぎるからだ。
もっとも、前記のように外部充電をうまく活用しながら運用するかぎりは、静粛性も低くなく、パワーフィールも穏やかであつかいやすい。操縦安定性もほどほど穏当で、回生協調としてはブレーキタッチもリーズナブルだ。
しいていえば、コーナーやジャンクションにツッコミ気味に進入してしまったりすると、リアがちょっと不安定になる尻軽感がある。これは他モデルより重い車重に、ほぼ6:4というノーズヘビーな重量配分、そしてシンプルなリアのトーションビームサスペンションがあいまったものと考えられる。マツダの主力モデルであれば重量配分の改善、あるいはリアサスペンションの独立マルチリンク化も望みたいところだが、このクルマが大量に売れるとはマツダも想定していないだろう。
最近の世界動向を見るに、プラグインハイブリッド車が思ったより長く生き残る可能性も出てきたが、このロータリーEVがマツダの主力パワートレインに据えられる可能性は低そうだ。以前ご報告した8Cの生産ライン(参照)も、ロータリー技術を継承するのが第一義で、大量生産を見越したものには見えなかった。
というわけで、悪いデキではないがクセもあるロータリーEVは、MX-30というくせ者マツダ(?)に搭載されることからも分かるように、マツダの未来を担うゲームチェンジャーというより、生粋のマツダファンやロータリーファンへの贈り物的存在……と考えたほうがよさそうだ。伝統のロータリーを今に残すには、現実としてこのカタチしかない。
売れ筋グレードで500万円弱の価格は、たとえば「トヨタRAV4 PHEV」と比較すると安くはない。ただ、本体価格でほぼフル装備だし、今なら購入時に55万円のCEV補助金(東京都ならそこに45万円追加)が出る。実質400万円台前半なら、ちょっと面白いアシグルマとして射程内という向きもおられよう。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マツダMX-30ロータリーEVエディションR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1595mm
ホイールベース:2655mm
車重:1780kg
駆動方式:FF
エンジン:0.83リッター1ローター
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:72PS(53kW)/4500rpm
エンジン最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:170PS(125kW)/9000rpm
モーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/0-4481rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:491万7000円/テスト車=491万7000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2137km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.26 1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。
-
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.24 「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。
-
マツダCX-30 25エアエディション(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.23 マツダのコンパクトクロスオーバー「CX-30」に、一部改良で2.5リッターガソリンモデルが登場。新たなパワートレインを得た最新型は、過去のモデルからどのような進化を遂げているのか? 装備全部盛りの最上級グレードで確かめた。
-
フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ(FR/8AT)【海外試乗記】 2026.10.21 MT車が長らく不在となっていたフェラーリ。そこに突如として現れファンを驚かせたのが、MT車と同じ変速動作で運転できる「12チリンドリ マヌアーレ」だった。果たして、その乗り味は? 名コースで試乗した西川 淳の第一報。
-
NEW
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
NEW
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
NEW
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。



















































