軽自動車の規格はどうあるべきか?
2023.12.26 あの多田哲哉のクルマQ&A軽が最も売れるクルマになっている今、ボディーサイズや排気量に関する軽の規格は、現状のままでいいのでしょうか? こう変えるべきだ、規制するならこういうレギュレーションが望ましいという多田さんの意見があればお聞かせください。
がんじがらめの規制のなか、近年の軽はものすごく進化しています。現在、最も進化スピードの速いカテゴリーといえるでしょう。
ユーティリティーや安全装備を含め、日本の道で使うぶんにはプロダクトとして何も不満もありません。車体が小さいこともプラスに働いていて、狭い道でも実に乗りやすい。私自身、かつて三河の山中で「ホンダS660」に試乗し、車幅の狭さが山道ですれ違う際のストレスを大幅に軽減してくれるのを実感したことがあります。おかげでこんなにも運転が楽しめるようになるのかと、驚いたものです。そんな軽がユーザーの支持を得て売れているのも当然です。
でも、軽規格のクルマであるがゆえに高コストになっているという側面もあります。クルマというのは、「小さくつくるほど難しい」のです。軽とはいえ、その部品点数は普通の乗用車と大きくは変わらないわけで、例えばエンジンであれば、それを小さなエンジンルームに押し込むために特殊な設計をしたり新しい部品を開発したりしています。小さいがゆえに手間もコストもかかるというネガはあるのです。
エンジンは660cc以下であるべきでしょうか? 排ガスについて優先すべきは、なんといっても「クリーンであること」で、そのためには(今の軽規格を超える)ある程度の排気量が必要です。現実的には1000ccほどに落ち着くのではないかと思いますが、最もクリーンなエンジンを実現できる排気量の選定や設計は、メーカーに任せるべきでしょう。コスト・価格のうえでももっと安くできるはずです。
どうしても軽のカテゴリー・規格を存続させねばならないというならば、空間的な大きさ、車内の広さに関わる部分だけを容積でしばるようにしたらいい。いまの「全長3400mm以下、全幅1480mm以下、全高2000mm以下」という規制値に対して、「体積」だけを決める。最適解はこれしかないのではないかと思います。ほかのクルマにも影響が大きい車幅だけは配慮したほうがいいかもしれませんが。
今の軽規格は、各自動車メーカーの都合に配慮しつつ、日本独自のなりゆきで出来上がったところがあり、ベストなクルマをつくるうえでの合理的な根拠に乏しいともいえます。今に始まった議論ではないのですが、よりグローバルな規格になったなら、もっと安くていいものがつくれて、海外展開もできるのに……と思います。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。