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MINIクーパーSE(FWD)

大人の小さな高級車 2024.05.27 試乗記 渡辺 敏史 新世代「MINIクーパー3ドア」の最大のトピックは、電気自動車(BEV)バージョンが中核モデルとしてラインナップされたことにある。果たして、どんなクルマに仕上がっているのか? スペイン・バルセロナで試乗した。
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量販MINIでは初のBEV

MINIとBEVの歴史、それをたどってみると2009年にさかのぼる。2代目R56系をベースにコンバージョンされた「MINI E」は大都市での実証実験用に開発され、一般ユーザーにも半年くくりで積極的に貸与された。日本でも2011年に20台が導入され稼働していたことを覚えている方もいらっしゃることだろう。そこで得られた知見は、当然ながら後の「i3」の性能要件の決定などにフィードバックされたわけだ。

このMINI Eは容量35kWhのバッテリーをリアシート部に搭載、前軸に最高出力200PS、最大トルク220N・mのモーターを搭載し、当時の欧州計測モードで240kmの走行距離を実現したものだった。また、MINIらしさの表現の一環として回生減速を生かしたワンペダルドライブを提案している。数値化される性能は現在のBEVに比べても著しい見劣りがあるわけではない。が、いかんせんパッケージは実験車だから許される、お話にならないレベルだった。

その後、3代目F56系をベースとしたBEV版MINIが2019年に正式に商品化されるが、日本ではMINIを含むBMW全体でPHEVの訴求が優先的になされていたこともあり、上陸することはなかった。つまり、今回のモデルがBEV版MINIとしては初の正式販売となる。

2023年9月に世界初公開され、日本でも2024年3月に発売された、第4世代の「MINIクーパー 3ドア」。今回はこのうち、目玉となる電気自動車バージョンに試乗した。
2023年9月に世界初公開され、日本でも2024年3月に発売された、第4世代の「MINIクーパー 3ドア」。今回はこのうち、目玉となる電気自動車バージョンに試乗した。拡大
「ジョンクーパーワークスシート」と呼ばれる、スポーティーなデザインの前席(オプション)。電動調節機構やヒーターも備わっていた。
「ジョンクーパーワークスシート」と呼ばれる、スポーティーなデザインの前席(オプション)。電動調節機構やヒーターも備わっていた。拡大
どっしりと安定感のあるたたずまいを見せる、新型「MINIクーパーSE」のリアビュー。点灯パターンを変えられるリアコンビランプも特徴のひとつだ。
どっしりと安定感のあるたたずまいを見せる、新型「MINIクーパーSE」のリアビュー。点灯パターンを変えられるリアコンビランプも特徴のひとつだ。拡大
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車台は新規の専用開発

そのグレード構成は「クーパーE」と「クーパーSE」の計2つ。それぞれの違いはバッテリー容量に明確に現れていて、Eは40.7kWh、SEが54.2kWhとなる。航続距離は欧州WLTPモードでEが305km、SEが402kmだ。アウトプットはEが184PS/290N・m、SEが218PS/330N・mとなり、動力性能を示す0-100km/h加速はEが7.3秒でSEが6.7秒、最高速はEが160km/hでSEが170km/hと、人によっては大差なく見えるかもしれない。ゆえに、主たる選択のポイントは航続距離の差となりそうだ。ちなみに日本仕様の充電性能は未発表だが、CHAdeMOを介してのV2H(Vehicle to Home)が可能となる見込みだ。

日本ではこのBEV版MINIと並行して内燃機版MINIのフルモデルチェンジも発表されたが、内燃機版が前型の車台をリファインして用いるのに対して、BEV版は専用設計の新しいアーキテクチャーが用いられる。生産はBMWが長城汽車と完全折半の出資でつくった光束汽車が担当。2023年に完成したばかりの張家港工場を通して全仕向け地に出荷される。

内燃機版とBEV版、車台は異なれどサイズにはほぼ差がない。具体的には内燃機モデルに対して全長が15mm短く、全幅が10mm広く、全高が5mm高いといった構成だ。寸法差で最も大きいのは、BEV版のホイールベースが内燃機版に対して30mm長いことだろうか。体格が小さいこともあって、その差はたたずまいにもうっすらと感じ取れる。具体的には内燃機モデルに対してBEVは、わずかながらショートノーズ&ロングキャビンで、エアフローを意識してかサイドからリアウィンドウにかけての絞りが強い。結果的にフェンダーが強調されるかたちとなり、後ろからの眺めは往年の「ルノー5ターボ」あたりを思い出す台形型となっている。

MINIのEVは「クーパーS」「クーパーSE」の2車種構成。今回はこのうち、より高性能なモデルと位置づけられる後者に試乗した。
MINIのEVは「クーパーS」「クーパーSE」の2車種構成。今回はこのうち、より高性能なモデルと位置づけられる後者に試乗した。拡大
3858mmの全長に対して、2526mmのホイールベースが確保された「MINIクーパーSE」。サイドビューは、MINI 3ドアとしてはやや胴長な印象だ。
3858mmの全長に対して、2526mmのホイールベースが確保された「MINIクーパーSE」。サイドビューは、MINI 3ドアとしてはやや胴長な印象だ。拡大
MINIのアイコンである丸目は新型にも継承された。点灯パターンは3種類から選べ、リモコンキーを持った人が近づくとウインクするように点滅する機能も備わっている。
MINIのアイコンである丸目は新型にも継承された。点灯パターンは3種類から選べ、リモコンキーを持った人が近づくとウインクするように点滅する機能も備わっている。拡大
「MINIクーパーSE」が0-100km/h加速に要する時間は6.7秒。最高速は170km/hと公表される。
「MINIクーパーSE」が0-100km/h加速に要する時間は6.7秒。最高速は170km/hと公表される。拡大

機能を高めMINI感は強調

内装は4つのトリムが用意され、グレードに応じて、意匠の違いとともに装備の充実も図られるパッケージオプションとしての選択も可能だ。加飾や表皮等の素材にはリサイクルファブリックや人工レザーなどが積極的に用いられるなど、今日的な価値観でしつらえられているのも特徴のひとつだろう。

速度やインフォテインメントなどの各種情報はダッシュボードのセンターに配される直径240mmのOLEDタッチパネルスクリーンに一括表示される。ドライブモードはスポーツモードに相当する「ゴーカート」、ノーマルモードに相当する「コア」、エコモードに相当する「グリーン」の3つにより応答性や回生制動量などを違えるほか、スクリーンの表示テーマや走行時の疑似サウンドなどに特徴をもたせた3つのモードが搭載されており、それらはスクリーン下部に据えられたトグル調のスイッチで切り替えが可能だ。

同様にシフトレバーもトグル型に改められたほか、イグニッションのオンオフには鍵型の丸いレバーをひねるかたちとなっている。さまざまな操作系をタッチスクリーンに内包したことには賛否が分かれるところだが、一方でインパネ全体が往年のオリジナルMiniのようにシンプルな形状となったことは好ましく受け止められるのではないだろうか。

インフォテインメントのOSはBMWの最新モデルと同様に第9世代となり、Android Automotive OSをベースに構築されている。サードパーティーからのさまざまなアプリ供給にも対応が可能だ。加えてMINI専用にデザインされたグラフィックや、対話型コマンドの使用時にはMINIのブランドキャラクターであるスパイク(犬)がアニメーションでアシストするなど、MINIならではの演出が随所に施されている。

車内のスイッチ類の多くは、大きな円形センターディスプレイ内のメニューに置き換えられている。
車内のスイッチ類の多くは、大きな円形センターディスプレイ内のメニューに置き換えられている。拡大
極めてシンプルな造形のインテリアは、ローバー時代のオリジナルMiniを連想させる。
極めてシンプルな造形のインテリアは、ローバー時代のオリジナルMiniを連想させる。拡大
鍵穴に挿し込んだキーのような形の始動スイッチや、シフトセレクター、走行モードのセレクターなどはコンパクトなスペースに集約されている。
鍵穴に挿し込んだキーのような形の始動スイッチや、シフトセレクター、走行モードのセレクターなどはコンパクトなスペースに集約されている。拡大
後席(写真)は2人掛け。「MINIクーパーSE」の定員は4人である。
後席(写真)は2人掛け。「MINIクーパーSE」の定員は4人である。拡大

意外と大人仕立て

試乗車はオプション扱いとなるであろう、18インチの大径タイヤを履いたSEだが、まず驚かされたのは乗り心地の良さだ。突き上げや揺すりといった直接的な要素もさることながら、バネ下のバタつきはほとんど感じられず、スタスタと凹凸をいなすサマはBセグメント級の車格、そしてMINIの3ドアというイメージとは一線を画する洗練ぶりだった。

そもそも重量増は快適性方面に好ましく作用するうえ、重心の低さやフロア剛性の向上など、BEV化に伴う構造の違いが乗り味に大物感を加えている。これはかつて「ホンダe」などでも経験していることだ。

そのうえで、BEV版のMINIは足まわりからの入力音やタイヤからのロードノイズなど、雑音関係も丁寧に取り除かれている。デザイン的な好みはあれど、造作にも、およそ隙はない。ポップな存在感から若者向け的なイメージが強いが、それだけじゃあもったいない。これは渋めの内外装に仕立てれば大人の小さな高級車としても全然通用するんじゃないか。そんな動的質感を備えている。

と、そんなムシのいい話ばかりではもちろんないわけで、ハンドリングは従来からのMINI 3ドアが受け継ぐゴーカートフィールに対しては、さすがにレスポンスが緩い。なにせ1.6tを超える重量に横力を加えるとあらば、さすがに応答もルーズにはなる。

BEV版MINIがうまくやったなと思うのは、この物理特性に足固めやカッチリ剛性のタイヤや操舵レシオなどの複合技であらがわずに、あくまで自然な運転感覚の範疇(はんちゅう)でアジリティーを追求していることだ。ゆえに初期応答は多少もやっとしていても、操舵量が大きくなるほどにきっちりとアングル相応の旋回Gが立ち上がる。ここでも思い浮かぶのは、意外と大人仕立てということだ。

子供も手離れした持ち家のクルマ好きのオジさんが、日々のアシとして奥さんと共有する。そういう使われ方はさすがに想定されていないかもしれない。でも、小さいながらも大人4人はきちんと乗れるパッケージや、小家族のV2Hのバッファ役としても適切な電池容量や、さらには走りの仕様やモデルの歴史……と、アウトラインを追えば追うほどに、これはそういう向きにぴったりではないだろうかと、そんな思いが募ってくる。BEVというソリューションがMINIというクルマを思いがけず大人に育ててくれたと、さしずめそういうことなのかもしれない。

(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=関 顕也)

試乗車のホイールは、オプションのうち最大サイズとなる18インチの「スライドスポーク2トーン」ホイール。タイヤはミシュランの「eプライマシー」が組み合わされていた。
試乗車のホイールは、オプションのうち最大サイズとなる18インチの「スライドスポーク2トーン」ホイール。タイヤはミシュランの「eプライマシー」が組み合わされていた。拡大
ゴーカートと形容されるMINIならではのきびきびとしたハンドリングは、車重のかさむフル電動モデルとあって、やや緩慢になった。ただし、自然な運転感覚の範囲内で敏しょう性は追求されている。
ゴーカートと形容されるMINIならではのきびきびとしたハンドリングは、車重のかさむフル電動モデルとあって、やや緩慢になった。ただし、自然な運転感覚の範囲内で敏しょう性は追求されている。拡大
試乗車の「スポーツステアリングホイール」。形状としては2スポークタイプで、3本目としてベルトをあしらっているのがデザイン的に新しい。
試乗車の「スポーツステアリングホイール」。形状としては2スポークタイプで、3本目としてベルトをあしらっているのがデザイン的に新しい。拡大
「harman/kardonサラウンドサウンドシステム」のドアスピーカー。MINIらしいデザインへの気づかいが伝わってくる。
「harman/kardonサラウンドサウンドシステム」のドアスピーカー。MINIらしいデザインへの気づかいが伝わってくる。拡大
「MINIクーパーSE」の国内価格は531万円。購入に際しては、国や地方自治体の定める補助金制度が利用できる。
「MINIクーパーSE」の国内価格は531万円。購入に際しては、国や地方自治体の定める補助金制度が利用できる。拡大

テスト車のデータ

MINIクーパーSE

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3858×1756×1460mm
ホイールベース:2526mm
車重:1605kg(DIN)/1680kg(EU)
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:218PS(160kW)/7000rpm
最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92V XL/(後)225/40R18 92V XL(ミシュランeプライマシー)
一充電走行距離:402km(WLTPモード)
交流電力量消費率:14.7-14.1kWh/100km(WLTPモード)
価格:531万円/テスト車=--万円 ※価格は日本仕様車のもの
オプション装備:--

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

MINIクーパーSE
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荷室の容量は後席乗車時で210リッター。最大800リッターにまで拡大できる。
荷室の容量は後席乗車時で210リッター。最大800リッターにまで拡大できる。拡大
後席の背もたれは60:40の分割可倒式。写真は、その片側を倒した様子。
後席の背もたれは60:40の分割可倒式。写真は、その片側を倒した様子。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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