ホンダ・フリードe:HEVエアーEX(FF)/トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(FF/CVT)
膠着する戦線 2024.08.27 試乗記 「ホンダ・フリード」と「トヨタ・シエンタ」を徹底比較。後編では2列目・3列目の乗り心地をはじめ、ドライバーズカーとしての性能や200km超をドライブしての実燃費などをリポートする。運転席まわりのユーティリティーを比較
(前編からの続き)
前編の最後にも書いたが、ドライビングポジションについてはフリードのほうが目線が高くてミニバン的で、シエンタのそれはミニバンというより、普通のハッチバックに毛が生えたハイトワゴンに近い。
シエンタは運転席から前方ボンネットの峰が見えるので安心感はある。いっぽう、フリードも視界自体はノイズのないすっきりとした水平基調で、Aピラーの根元をタイヤの内側面の真上にレイアウトするなど、慣れれば車両感覚はつかみやすい。最小回転半径はフリードが5.2m、シエンタが5.0mだ。
ハードなシボ樹脂に布をあしらうダッシュボードの仕立て手法は2台でよく似る。ただし、質感表現は、最近この方面に力を入れているホンダが、後発ということもあって、シエンタを一歩リードする。助手席前にアッパー開閉ボックスを備えるなど収納もフリードに後発らしいキメ細かさがうかがえるものの、シエンタの前席ドリンクホルダーわきに、ご丁寧にペットボトルのフタ置きまで用意されるのは「日本車だなあ」としみじみせざるをえない(ただ、筆者の記憶が確かなら、フタ置きの元祖は日産だったような……)。
今回のパワートレインはどちらも1.5リッターのハイブリッドとなる。エンジンやモーター単体のスペックはホンダのほうが高いが、実際の体感動力性能に大きな差を感じないのは、フリードの車重がシエンタのそれより約100kgも重いせいもあるだろう。
フリードのハイブリッド「e:HEV」には、上級車種にある「スポーツ」モードの用意はない。シエンタにはトヨタハイブリッド伝統の「パワー」モードがあるが、どちらも山坂道などで活発に走りたいときは「B」レンジにするとよい。同レンジは減速Gが強まって荷重移動にメリハリがつくうえに、エンジンが高回転気味になるので加速レスポンスも自然と向上する。
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ドライバーズカーとしての操縦性
静粛性は音質でも音量でも、はっきりとフリードに軍配が上がる。エンジンがトヨタの3気筒に対してホンダは4気筒なので、パワートレインノイズの音質にも1クラス上級感がある。また、ロードノイズの遮断や車体の剛性感もフリードが一枚上手といっていい。荒れた路面でも高い剛性感が印象的なフリードと比較すると、シエンタはときおり低級音とともにシートに強めの突き上げが伝わってくる。
こうしてフリードと比較すると、少しばかりガタピシ感が強めのシエンタだが、自分で運転するドライバーズカーとして好事家目線で見ると、いやいや、シエンタにもフリードに負けず劣らずの魅力がある。
フリードの操縦性は昨今のホンダらしく、かつてのチャキチャキした俊敏系から、正確ながらもじわりとマイルドな落ち着き系にシフトしている。それでもシエンタと比較すると、パリッと張りのある身のこなしである。ただ、そのぶん5ナンバーの背高グルマらしいナロートレッドで踏ん張っている硬さ感が、少しだけ残っている。
これと比較すると、シエンタはドライビングポジションからしてはっきり低い。そういえばシエンタの基本骨格となる「GA-B」プラットフォームは低重心と低慣性マスにこだわった設計が売りで、シエンタにもその恩恵は如実。実際の乗り味は、全高などの見た目以上に低重心に感じられる。サスペンションの調律も、それに合わせて素直にソフトでしなやか。剛性感ではゆずるが速やかに荷重移動するので、接地感も濃厚。いわゆる“ネコアシ”と形容されるような乗り味が好きなら、フリードよりシエンタに共感をおぼえるだろう。
まあクリッピングポイントのようなピンポイントをねらうステアリングの正確性は僅差でフリードに軍配を上げたいが、シエンタとて大きく劣るわけではない。
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2列目と3列目の乗り心地
フリードの開発責任者が「ミニバンとしてつくり込んでいる」と語るように、3列目の乗り心地はフリードのほうが快適だ。見るからに座面が厚く、空間も広いだけでなく、路面からの突き上げも軽くて丸い。上下動も少ない。これと比較するとシエンタはときおり衝撃が強めで、細かく揺すられる。
3列目の壁際にはどちらもヒジやドリンク、スマホなどが置けるようになっているが、アームレストとしての機能性では明らかにフリードが優れる。フリードのそれは、シートに座ってヒジがぴたりとフィットするので、長距離でも疲れにくい。また、ドリンクを置いたままでもアームレストとして使えるのも良い。
とはいえ、ミニバンとしての特等席は、やはり2列目だろう。キャプテンシートとなる今回のフリードと比較すると、シエンタのベンチシートは平板というほかない。クッション自体はソフトなので静的な座り心地は悪くないものの、カーブや車線変更などの横G下ではどうしても身体が動いてしまうのだ。
しかし、乗り心地や快適性まで総合的に見ると、それぞれ一長一短がある。静粛性が高く、路面からの突き上げが丸められているのはフリードでも、そのぶん細かい上下動が多い。対してシエンタの2列目は突き上げこそフリードより鋭いのだが、上下動そのものは少なくフラット感ではフリードの上をいく。
また、前編でも書いたように、フリードのキャプテンシートはヒール段差(座面とフロアとの高低差)が小さめだ。新型で座面前端を高くするなどの工夫を加えてはいるが、長く座っていると、体格によっては、脚を伸ばしても逆に折り曲げても、どうにも落ち着かない。その点、シエンタのベンチシートは着座姿勢そのものはアップライトなので、横Gヘの対応にだけ気を配れば、意外に疲れにくい。身長178cmの筆者が2列目で長距離を乗せてもらうなら、着座姿勢が疲れやすいフリードより、健康的に座れて高速でもフラットなシエンタを選ぶかもしれない。
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200km超をドライブしての実燃費
フリードとシエンタはハタから見ると、真正面からのガチのライバルだが、なるほど、実際に買うとなると迷うことは意外なほど少なそうだ。基本的に3列目を出しっぱなしにしたミニバンとして使いたいなら、オススメは間違いなくフリードだ。シエンタはお盆や年末年始、あるいは大型連休などで人が集まるときなど、いざというときに緊急ミニバンとして使えるが、普段は3列目をきれいに隠したハイトワゴンとして使うのが似合う。
よって、3列目の居住性や快適性はフリードの圧勝というほかないが、せいぜい月に1回程度の、1~2時間の移動と割り切れれば、大柄な男性でもそこまで不快な思いをせずに移動できるのはシエンタの美点でもある。
運転手としては、昔スポーツカーでブイブイいわせた系なら剛性感が高くてステアリングも正確なフリードを好ましいと思うだろう。フリードは静粛性が高く高級感もある。シエンタはそこまで剛性感は高くないが、トレッドが広めで重心も低く、しなやかで、かつ、ほどほどに正確なのが心地よいのだ。
ちなみに、試乗グレードのWLTCモード燃費は、フリードが25.4km/リッターで、同じくシエンタが28.2km/リッターとなっている。しかし、高速道の比率が高く、またゴリゴリのワインディングも多めだった今回の試乗の平均値は、フリードが19.5km/リッター、シエンタが19.3km/リッターで、フリードの逆転勝利となった。ホンダのe:HEVは山坂道のような高負荷運転を得意とするだけでなく、高速道路ではより高効率なエンジン直結モードとなるのも効果大と思われる。今回も高速や幹線道路を走っていて、ふと気がつくとエンジン直結モードになっていることが多かった。実際、e:HEVは世代を追うごとに、エンジン直結モードになる速度や負荷の範囲をどんどん広げているのだという。
フリードとシエンタは、実際に触って座って走ってみると、意外と迷うことは少なそうだが、燃費だけは本当にガチンコのバチバチである。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ホンダ・フリードe:HEVエアーEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1695×1755mm
ホイールベース:2740mm
車重:1480kg
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:25.4km/リッター(WLTCモード)
価格:304万7000円/テスト車=357万1700円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドミストパール>(3万8500円)/マルチビューカメラシステム+LEDアクティブコーナリングライト+アダプティブドライビングビーム+後退出庫サポート(11万9900円) ※以下、販売店オプション Honda CONNECTナビ9インチ(20万2400円)/ナビ取り付けアタッチメント(9900円)/ナビフェイスパネルキット(5500円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(8800円) フロアカーペットマットプレミアム(5万2800円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2544km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:240.2km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.5km/リッター(車載燃費計計測値)
トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm
ホイールベース:2750mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
システム最高出力:116PS(85kW)
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.2km/リッター(WLTCモード)
価格:291万円/テスト車=338万4100円
オプション装備:185/65R15タイヤ+15×5 1/2Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(5万5000円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(9万3500円)/ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ>Plus(8万9100円)/天井サーキュレーター+ナノイーX(2万7500円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W/2個/非常時給電システム付き>(4万4000円)/ドライブレコーダー<前後方>+ETC2.0ユニット(3万1900円)/コンフォートパッケージ<UVカット・IRカット機能付きウインドシールドグリーンガラス[合わせ・高遮音性ガラス]+スーパーUV・IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス+スーパーUV・IRカット機能付きプライバシーガラス[スライドドア+リアクオーター+バックドア]+シートヒーター+ステアリングヒーター+本革巻き3本スポークステアリングホイール[シルバー加飾付き]>(7万9200円)/ファンツールパッケージ<カラードドアサッシュ+カーキ内装>(0円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(4万2900円)/ラゲージボード(1万1000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1万4597km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:208.0km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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