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BMW i5 M60 xDriveツーリング(4WD)

一点の曇りあり 2024.09.16 試乗記 サトータケシ 「5シリーズ」に「ツーリング」があれば、電気自動車(BEV)版の「i5」に「i5ツーリング」があるのは自然の摂理。現時点では希少なBEVのステーションワゴンである。システム出力601PSを誇るMパフォーマンスモデル「i5 M60 xDriveツーリング」を試す。
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基本骨格を共有するがゆえに

「うーん、おかしい、アングルが決まらない……」

斜め前方から、いわゆるシチサン(7:3)の角度でレンズを向ける向後カメラマンが呻吟(しんぎん)している。「いつものビーエムならこんなことはないのに」というボヤき声が続く。

アングルが決まらない理由は、フロントのオーバーハングが長いことだった。新しい5シリーズは、従来型に比べて全長が85mm長くなっているのに、ホイールベースは20mmしか伸びていない。差し引きの65mmは、前後のオーバーハングに吸収される計算だ。

すでに報道されているように、BMWはひとつの基本骨格でBEVとエンジン車(ICE)の両方を開発する方針。両者それぞれに専用の基本骨格を用意するメルセデス・ベンツとは異なる戦略を採っている。新型5シリーズも、BEVとICEの基本骨格は共通だ。

オーバーハングが長くなっている理由は、プレス資料のi5の構造図を見るとなんとなく推測できる。車体の床下に薄型のバッテリーを敷き詰める構造になっていて、できるだけ多くの容量を確保するために、底面ほぼ目いっぱいにバッテリーを配置している。重たくて、衝突などの危険からなるべく遠ざけたいバッテリーがこれだけの面積を占拠していることが、オーバーハングが長くなったことにつながっているように思える。

BMWの方針は、一粒で二度おいしいから効率的だともいえるけれど、いっぽうで、ことデザインに関しては多少のひずみが出ている。オーバーハングが間延びして見えるだけでなく、床下にバッテリーを積むことによる腰高感を消すためにサイドシルから下の部分をブラックアウトするなど、苦心の跡がうかがえる。ただし後席の居住性や荷室の広さなどは、事実上ICEとBEVで変わらないあたりは、称賛されてしかるべきだ

カメラマンが苦労して撮影した「BMW i5ツーリング」。この試乗車は上位グレードの「M60 xDrive」で、より安価な後輪駆動の「eDrive40」もラインナップされている。
カメラマンが苦労して撮影した「BMW i5ツーリング」。この試乗車は上位グレードの「M60 xDrive」で、より安価な後輪駆動の「eDrive40」もラインナップされている。拡大
全長×全幅×全高=5060×1900×1505mmのボディーサイズは「セダン」と同じ。サイドやリアバンパーの下部をブラックで処理することでボディーを薄く見せようとしていることがうかがえる。
全長×全幅×全高=5060×1900×1505mmのボディーサイズは「セダン」と同じ。サイドやリアバンパーの下部をブラックで処理することでボディーを薄く見せようとしていることがうかがえる。拡大
フロントマスクはバンパーよりもボンネット側が突き出たように見えるシャークノーズデザイン。フロントオーバーハングの長さがちょっとスバルっぽい。
フロントマスクはバンパーよりもボンネット側が突き出たように見えるシャークノーズデザイン。フロントオーバーハングの長さがちょっとスバルっぽい。拡大
タイヤは前が245/40R20、後ろが275/35R20の「ピレリPゼロ」を履く。オプションで21インチも選べる。
タイヤは前が245/40R20、後ろが275/35R20の「ピレリPゼロ」を履く。オプションで21インチも選べる。拡大
「BMW i5」の透視図。オーバーハングの長さがよく分かる。(画像=BMW)
「BMW i5」の透視図。オーバーハングの長さがよく分かる。(画像=BMW)拡大
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大型車なのに小回りが利く

抜群に掛け心地のいい運転席に座り、2枚の大きな液晶パネルを連ねたカーブドディスプレイが鎮座するインテリアを見渡す。スイッチやダイヤルが減り、さらには空調の吹き出し口を見えなくしたことですっきりとした景色になっている。すっきりはしているけれど寂しくならないのは内装素材が上質なことと、ダッシュボードを横断してドアの内張りにまで伸びるインタラクションバーのおかげだろう。この光の帯は単なる飾りではなく、間接照明や空調操作のインターフェイスもつかさどる。

駐車場を出ようとして真っ先に感じるのは、意外と取り回しがいいということ。全長5050mm、ホイールベース2995mmという大型ステーションワゴンではあるけれど、後輪操舵が備わるために思った以上に小回りが利く。

タウンスピードでの乗り心地は、どんと構えた重厚なもの。グレード名に「M」の文字が入ることから多少ハーシュネスが強いだろうと覚悟していたけれど、乗り心地は快適だ。後席に余裕があることから、ショーファーカーとして使ってもいいと思えるぐらい、ジェントルに振る舞う。

ちなみにリアサスペンションはエアサスで、これは普段の乗り心地に貢献するのはもちろん、後席に人を乗せ、ラゲッジスペースに荷物を満載するようないかにもステーションワゴンらしい使い方をしたときにも有効に機能するはずだ。

前後の2つのモーターを合計したシステム最高出力が600PSを超える超高性能ステーションワゴンではあるけれど、市街地を流れに合わせて走っている限りは静かでスムーズで洗練された高級車。モンスターの気配は完全に消し去っている。Harman/Kardonのサウンドシステムが、きれいな音を鳴らしている。

フロントに最高出力261PS、リアに340PSの駆動用モーターをそれぞれ搭載。システム全体では601PSを発生する。
フロントに最高出力261PS、リアに340PSの駆動用モーターをそれぞれ搭載。システム全体では601PSを発生する。拡大
最新のBMWではおなじみのカーブドディスプレイを中心としたダッシュボード。左右のドアパネルにまでつながるクリスタルのインタラクションバーには各種タッチスイッチが仕込まれている。
最新のBMWではおなじみのカーブドディスプレイを中心としたダッシュボード。左右のドアパネルにまでつながるクリスタルのインタラクションバーには各種タッチスイッチが仕込まれている。拡大
厚みがないのに掛け心地がいいシートはBMWならでは。レザーメリノの表皮はオプションで、スタンダードはアルカンターラとヴェガンザ(ビーガンレザー)の組み合わせ。
厚みがないのに掛け心地がいいシートはBMWならでは。レザーメリノの表皮はオプションで、スタンダードはアルカンターラとヴェガンザ(ビーガンレザー)の組み合わせ。拡大
全長が5m超、ホイールベースがほぼ3mもあるので後席は広い。エンジン車と基本骨格を共有するため、立派なセンタートンネルが通っている。
全長が5m超、ホイールベースがほぼ3mもあるので後席は広い。エンジン車と基本骨格を共有するため、立派なセンタートンネルが通っている。拡大

テクノロジーの勝利

新たに「マイモード」と呼ばれるようになったドライブモードセレクトを操作して「スポーツ」を選ぶと、クルマのキャラが一変する。5m超のサイズが「ゴルフヴァリアント」くらいにまでコンパクトになったと感じるのは、アクセル操作に対するレスポンスが鋭くなり、ステアリングホイールの手応えがぐぐっとビビッドに変化したからだろう。

さらには、パドルを操作して10秒間限定のブーストモードを作動させると、同乗者から間違いなくクレームがくるような加速を披露する。例えて言うなら、ジャンボ機が離陸する寸前を思わせるような、シートに体を押し付けられる加速感だ。

興味深いのは、市街地ののんびり走行では鷹揚(おうよう)な動きを見せていたサスペンションが、スポーツモードではきりりと引き締まることだ。さらに感心するのは、路面からの突き上げがキツくなることなしに、踏ん張る能力だけ高まることだ。このドライブフィールは新鮮だ。前述したエアサスや後輪操舵に加えて、ともに可変するダンピングシステムやスタビライザーなど、ハイテクが総動員で、「曲がる」と「快適」を高次元でバランスさせている。

ハンドリングはニュートラルで、ごく自然にノーズの向きを変える。上記したハイテク満載の足まわりに加えて、前後のモーターが4輪に適切なトルクを、絶妙のタイミングで供給していることもオンザレール感覚のコーナリングの理由だろう。エンジンより素早く、より緻密にトルクを制御できるモーターが、ファントゥドライブの新しい扉を開けた。

ただし、オンザレールでありながら、クルマに乗せられているのではなく自分が操っていると感じさせる。このあたりは、BMWが長年培ってきた「駆けぬける歓び」をドライバーに提供するノウハウのたまものだろう。

足まわりはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクで、リアにはエアサスを採用(フロントはコイル)。「M60 xDrive」には可変ダンパーと後輪操舵が標準装備となる。
足まわりはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクで、リアにはエアサスを採用(フロントはコイル)。「M60 xDrive」には可変ダンパーと後輪操舵が標準装備となる。拡大
センターコンソールはピアノブラックとクリスタルのきらびやかな仕立て。コンパクトモデルでは廃止されてしまったインフォテインメント用のダイヤルが残っているのがうれしい。
センターコンソールはピアノブラックとクリスタルのきらびやかな仕立て。コンパクトモデルでは廃止されてしまったインフォテインメント用のダイヤルが残っているのがうれしい。拡大
ドライブモード改め「マイモード」は「スポーツ」や「エフィシエント」などをラインナップ。どれを始動時のデフォルトにするかを選べる。
ドライブモード改め「マイモード」は「スポーツ」や「エフィシエント」などをラインナップ。どれを始動時のデフォルトにするかを選べる。拡大
ステアリングパドルは左側のみに装備。これを引くと10秒間のブースト機能が作動する(運転中かつアクセルを踏んでいるときのみ)。
ステアリングパドルは左側のみに装備。これを引くと10秒間のブースト機能が作動する(運転中かつアクセルを踏んでいるときのみ)。拡大

弱点は足の短さだけ

撮影を終えて都心に向かいながらあらためて感じるのは、高速巡航時の静粛性の高さ。タイヤからのロードノイズ、パターンノイズ、そして風切り音など、全方向的に騒音に気を配っていることが伝わってくる。

タッチスクリーンを操作して、アクセル操作に対応してSF映画の宇宙船のような音を発生させる「アイコニックサウンドエレクトリック」を選ぶこともできる。音質に関しては好みによるとしかいえないけれど、音も判断材料のひとつとして活用してきた身には、アクセルペダルを踏めば音がするというのは、しっくりくる。

昭和の時代は五感を使って運転していたわけで、まぁ味覚は使っていなかったかもしれませんが、BEVで音がなくなって、四感で運転するというのは、まだ慣れない。現時点では、音があったほうが運転がしやすい。

先進運転支援システム(ADAS)のデキは、現時点における最高到達点のひとつだと断言できる。特にハンズオフ機能付きの渋滞時運転支援機能は、ワンアクションで作動するインターフェイスといい、作動時の加減速の滑らかさといい、安心して身を委ねられるもので、渋滞時のイライラやストレスを軽減してくれた。

といった具合に、ショーファーカーからスポーツカーまで、ハンドリングマシンから半自動ハンドリングマシンまで、とにかくダイナミックレンジが広いクルマで、欠点らしい欠点は見当たらない。あえて記せば、航続可能距離がぐんぐん減るのは心臓に悪く、カタログ値だと500km(WLTCモード)とあるけれど、トリップメーターと航続距離の相関関係を見比べると、300~350kmあたりが安心できる距離か。

ただし、特に東名高速道路のPAは充電設備が充実しつつあり、アプリを活用すれば充電器の種類も空き状況も分かるので、都内と御殿場往復の移動では、それほどの不便は感じなかった。もう少しで、このクルマのような優れたBEVにストレスなく乗れるようになりそうだ。

(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

今回は都内を出発し、静岡の御殿場周辺までドライブ。帰りに東名高速・足柄PA(上り)の90kW出力器で30分だけ充電し、webCG編集部にたどり着いたときの残りバッテリーは59%だった。283.3kmを走っての平均電費は4.3km/kWh。
今回は都内を出発し、静岡の御殿場周辺までドライブ。帰りに東名高速・足柄PA(上り)の90kW出力器で30分だけ充電し、webCG編集部にたどり着いたときの残りバッテリーは59%だった。283.3kmを走っての平均電費は4.3km/kWh。拡大
ラゲッジスペースの容量は570リッター。これは2リッターディーゼルモデルの「523dツーリング」と変わらない。
ラゲッジスペースの容量は570リッター。これは2リッターディーゼルモデルの「523dツーリング」と変わらない。拡大
後席格納時のラゲッジスペースの容量は1700リッター。歴代の「5シリーズ」に備わっていたテールゲートのガラス部分だけを開閉する機能がなくなってしまった。
後席格納時のラゲッジスペースの容量は1700リッター。歴代の「5シリーズ」に備わっていたテールゲートのガラス部分だけを開閉する機能がなくなってしまった。拡大
荷室の端にはリアシートのリリースレバーと並んでコンビニフックが備わっている。使わないときは格納できる。
荷室の端にはリアシートのリリースレバーと並んでコンビニフックが備わっている。使わないときは格納できる。拡大
充電口は急速充電用(写真)が車体右側で普通充電用が左側。リッドのみできちんと水をシャットアウトしていて内蓋(ふた)がないのがスマートだ。
充電口は急速充電用(写真)が車体右側で普通充電用が左側。リッドのみできちんと水をシャットアウトしていて内蓋(ふた)がないのがスマートだ。拡大

テスト車のデータ

BMW i5 M60 xDriveツーリング

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1900×1505mm
ホイールベース:2995mm
車重:2440kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:261PS(192kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)/0-5000rpm
リアモーター最高出力:340PS(250kW)/8000rpm
リアモーター最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/0-5000rpm
システム最高出力:601PS(442kW)
システム最大トルク:795N・m(81.1kgf・m)
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)275/35R20 102Y XL(ピレリPゼロ)
一充電走行距離:500km(WLTCモード)
交流電力量消費率:192Wh/km(WLTCモード)
価格:1600万円/テスト車=1747万1000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズンピュアグレー>(44万7000円)/BMWインディビジュアル エクステンデッドレザー<メリノブラック×アトラスグレー>(0円)/エクスクルーシブメリノレザーパッケージ(47万8000円)/セレクトパッケージ(33万4000円)/ステアリングホイールヒーティング(4万4000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(16万8000円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2050km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:283.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.3km/kWh(車載電費計計測値)

BMW i5 M60 xDriveツーリング
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サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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