BMW i5 M60 xDrive(4WD)/i5 eDrive40(RWD)
慣れ親しんだ“肉”の味 2023.10.02 試乗記 ライバルのメルセデスが電気自動車(BEV)専用シャシーの拡充を図るのに対し、共通シャシーでエンジン車とBEVの両立を図るBMW。新型「5シリーズ」にもBEVの「i5」がラインナップされている。ポルトガルを舞台にその仕上がりを試した。“時節柄”の試乗会
輸入車の場合、まずはワールドプレミアがあって、国際試乗会があって、各国での発表会を開催という手順を踏むのが一般的である。ところがBMWの新型5シリーズは、ワールドプレミアの後に日本国内での発表も早々に済んでしまったので、日本仕様の内容や価格を知ったうえで国際試乗会に参加するという、いつもとは勝手が違う感じになってしまった。
でもポルトガル・リスボンで開催された国際試乗会は正式には「『i5』/『i7 M70』試乗会」で、内燃機を積んだモデルは試すことができなかった。出し惜しみしているわけではないと思うけれど、時節柄BEVを特にプロモーションしたいという彼らの意図はうかがえる。
試乗会の場所にリスボンを選んだワケもあった。BMWグループは“クリティカル・ソフトウエア”といういわゆるIT企業と50%ずつ出資して“クリティカル・テックワーク”という会社を設立し、BMWグループ用のソフトウエアを開発。その本社がポルトガルのポルトにあり、近ごろリスボンにも支社を開設したからだ。BMWは独自のOSを使用していて新型5シリーズには“8.5”と呼ばれる最新版が採用されている。BMW OS 8.5は、インフォテインメント/ADAS/ドライビングにまつわる電子機器を統合制御するという。メルセデスも独自のOSを展開しているし、最近の自動車メーカーからの発信はとかくソフトウエアに関するものが極めて多い。これも“時節柄”の特徴のひとつなのかもしれない。
全長は5mの大台を突破
すでに発表されている日本仕様の新型5シリーズは、ガソリン(48Vマイルドハイブリッド)が「523iエクスクルーシブ」(798万円)と「523i Mスポーツ」(868万円)、ディーゼルが「523d xDrive Mスポーツ」(918万円)のみ、そしてi5は「eDrive40エクセレンス」(998万円)と「eDrive40 Mスポーツ」(998万円)、そして「M60 xDrive」(1548万円)の計6種類となっている。今回試乗できたのは、eDrive40とM60 xDriveの2モデルである。
新型5シリーズは日本でもすでに拝見しているけれど、あらためて見るとやはり大きい。それもそのはずで、全長は5060mm。ついに5mを超えてしまった。全幅も1900mmに達している。メルセデスの新型「Eクラス」は全長4949mm、全幅1880mmなのでそれよりも大きいことになる。ちなみに「EQE350+」の全長は4955mm、全幅は1905mmである。新型5シリーズを永遠のライバルたるメルセデスと比較して語るとき、i5の場合は相手をEクラスとするべきか、あるいはEQEにするべきか悩んでしまうからやっかいだ。
i5のホイールベースは2995mm。Eクラスは2961mm、EQEは3120mm。これらを全長に占めるホイールベースの割合に換算すると、i5は59.1、Eクラスは59.8、EQEは62.9。新型5シリーズはショートホイールベースであることが分かる。実際、後席のレッグスペースはそれほど広くない。
BEVの場合、ホイールベース=バッテリー容量なので、メルセデスのようにBEV専用アーキテクチャーのほうがバッテリーはたくさん搭載できる。内燃機と共有で、ブランドの最大の特徴である操縦性を考慮するとホイールベースはあまり長くしたくないBMWとしては、2995mmは熟考の末の数値なのだろう。バッテリー容量はEQEが90.6kWh、i5は81.2kWh、最大航続距離はEQE350+が624km、i5が582kmと公表されている(いずれもWLTPモード)。
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個体差だったらいいけれど
国際試乗会ではネームプレートを提示してキーを受け取るのが通常なのだけれど、今回渡されたのは「iPhone」だけだった。これぞ本当のキーレスである。同時に、ますますスマホのバッテリー残量が気がかりになりそうではある。
カーブドディスプレイやトリムの隙間に配して目立たなくしたエアコンの吹き出し口、フローティング型のセンターコンソールなど、インテリアの景色は「7シリーズ」に酷似している。タッチ式液晶ディスプレイに各種機能の操作を集約させるやり方は、メカニカルスイッチの数を減らせるメリットと引き換えに、運転中の操作はミスタッチが多く使いやすいとはいえない。センターコンソールに依然としてダイヤルスイッチを残しているのは、BMWの良心といえるだろう。
新型5シリーズのサスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアが5リンクだが、BEVのi5はリアのみが空気ばねを備えたエアサスペンションとなる。i5 eDrive40で走りだしてなんとなく硬めのバランスボール的な乗り心地を感じたのはおそらくそのせいだ。乗り心地そのものは総じてそんなに悪くはない。ただ、BMWにしてはばね上が少し動くかなと思った。
それよりも気になったのはステアリングフィールである。ロードインフォメーションが希薄というか、ダイレクト感が他のBMWと比べると少ない印象だった。eDrive40は後輪駆動なので、前輪が駆動していないぶん、本来ならばステアリングフィールは良好なはずであり、ちょっと不可解な事象だった。ひょっとすると個体差の可能性があるかもしれない。前車に追いつくと自動的に作動する回生ブレーキの介入もやや唐突で、予期せぬ制動Gが体にちょくちょくかかった。
高いけどお買い得
「こんなもんなのかなあ」とふに落ちないまま、M60 xDriveに乗り換えると、そこには期待どおりのBMWらしさが宿っていた。
一応“M”ということで、eDrive40と比べるとシャシーには大幅に手が加えられている。前後にはいわゆる電動スタビライザーが装着されているし、フロントのサブフレームも専用。フロントサスの取り付け部とバルクヘッドをつなぐ補強もeDrive40よりも立派な構造部材になっているし、リアのサブフレームにも補強が入っている。
xDriveなのでフロントにもモーターを配置。これだけで261PSを発生する。システム最高出力は601PS、最大トルクは820N・m。ローンチコントロールを使えば0-100km/hが3.8秒という俊足の持ち主でもある。実際、右足にちょっと力を込めると瞬時に猛烈な加速を開始する。これが内燃機でアウトバーンの速度無制限区間であれば、しばらく加速の波に乗っかる体験を楽しむところだけれど、バッテリー残量が常に気になるBEVでは恐る恐る踏み込んですぐに戻すみたいなことになる。でも、高速域におけるスタビリティーは抜群に高かった。
ステアリングフィールもよく、ドライバーとクルマがつながっている感覚はこちらのほうがずっと強い。電動スタビのおかげでロール方向の動きは巧みに抑え込まれているから、ターンイン時のばね上の動きも小さく、4輪駆動ということもあって旋回スピードも速い。あとはおそらく、xDriveの緻密な前後駆動力配分も極上の操縦性の成立にひと役買っているに違いない。参考までに、eDrive40で図らずもクルマ酔いをしてしまった某氏は、M60ではまったく酔わなかったそうだ。eDrive40については、日本導入が開始されたら個人的にあらためて試してみるつもりである。
M60に乗っていたら最近流行の代替肉を思い浮かべてしまった。お肉のような味をお肉ではないもので代用するアレである。内燃機のような味を内燃機ではないもの(=モーター)で出すBMWのBEVは、ちょっとそれに似ていると感じた。そして何より、この代替肉は価格が(高いけど)安い。eDrive40(998万円)とM60 xDrive(1548万円)に相当するEQE350+と「メルセデスAMG EQE53 4MATIC+」はそれぞれ1248万円と1922万円もするのだから。
(文=渡辺慎太郎/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW i5 M60 xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm
ホイールベース:2995mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:261PS(192kW)
フロントモーター最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)
リアモーター最高出力:340PS(250kW)
リアモーター最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)
タイヤ:(前)HL255/35R21 101Y XL/(後)HL285/30R21 103Y XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
一充電走行距離:455-516km(WLTPモード)
交流電力量消費率:20.6-18.2kWh/100km(WLTPモード)
価格:1548万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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BMW i5 eDrive40
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm
ホイールベース:2995mm
車重:--kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:340PS(250kW)
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)
タイヤ:(前)HL255/35R21 101Y XL/(後)HL285/30R21 103Y XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
交流電力量消費率:18.5-15.9kWh/100km(WLTPモード)
一充電走行距離:497-582km(WLTPモード)
価格:998万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 慎太郎
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