BMW M5(4WD/8AT)/M5ツーリング(4WD/8AT)
物理の壁を越えろ 2024.11.11 試乗記 BMWのスポーツセダン「M5」がフルモデルチェンジ。プラグインハイブリッド化によって手にしたのは、最高出力727PS、最大トルク1000N・mというとんでもないスペックだ。日本でのデリバリー開始を前に、BMWの本拠地ミュンヘン周辺で仕上がりを試した。新型はセダンとワゴンの二本立て
BMWのモータースポーツ部門を担うMが開発した「M1」は、BMWの歴史のなかでいい意味での異端としてクルマ好きの記憶に強く刻まれている。この縦置きミドシップパッケージ用に開発された3.5リッター直6のM88型をベースとするユニットを時のE28系「5シリーズ」のノーズへと収め、シャシーチューニングを施したのが1985年に登場した初代M5の成り立ちだ。Mにとっては市販車をベースに自らの名を冠するつくり込みを加えた初めてのモデルとなる。歴史的にはスポーツセダンというカテゴリーを振り返るに欠くことのできない一台ともいえるだろう。
それからほぼ40年の時がたち、MはBMW Mとして吸収され、モータースポーツや市販車との関係はより深いものとなっている。そしてM5もこのG99系が数えること実に7代目だ。途切れることなく続いてきたモデル群のなかにはBMWでいうところの「ツーリング」、すなわちワゴンボディーのバリエーションもあったが、今回はE60系以来のツーリング復活に加えて、日本市場には初の正規導入というニュースもある。
パワートレインはM5の革新のハイライトだ。V8ツインターボに駆動用モーターを加えたプラグインハイブリッド車(PHEV)……といえば思い出されるのはM1に次いでMが手がけたフルオリジナルモデルの「XM」だが、察しのとおり、M5が搭載するパワートレインのベースはXMのそれとなる。S68型4.4リッターツインスクロール・ツインターボのアウトプットは最高出力585PS/最大トルク750N・m。そこに加わるのが197PS/280N・mの駆動用モーターだ。このモーターには発生トルクを高めるプリギアリングが加えられており、小型ながらも一時的には450N・mのトルクを発生する。これはBMWの特許技術で、すでにXMのほか、5シリーズのPHEV(日本未導入)などにも採用されている。
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重さを克服するための先進デバイス
2つの動力源の合わせ技によるシステム最高出力は727PS、最大トルクは1000N・mにも達する。一方で、容量18.6kWhの駆動用バッテリーと前述の駆動用モーターによって、最高140km/hまで、距離にして最長70km(WLTCモード値)までの範囲をBEV走行でカバーできるのが新型M5の大きな特徴だ。ちなみに最高速は「Mパフォーマンスパッケージ」を装着した車両で305km/h。0-100km/h加速は3.5秒(ツーリングは3.6秒)となる。
と、虫のいい話ばかりではないのが電気モノの常で、例に漏れずM5にも明確なウイークポイントはある。それは重量だ。さすがに2.7t超えとなるXMよりは軽いが、とはいえDIN値で2.4tを超える車重は、先代のM5に対して500kg近く重いことになる。環境性能とパフォーマンスを両建てするためのPHEVとはいえ、さすがに軽快とはいかないことは数値的にも予想できる。
その物理的障害を軽減するために、新しいM5はシャシーまわりにさまざまな策を施した。電子制御のMアクティブディファレンシャルや、最大1.5度の切れ角を持つ4輪操舵システムなどはその一例だ。ドライブモードを「Mダイナミックモード」に設定すれば駆動配分がリア寄りとなり、旋回性が高められる。また、DSCをカットしたうえで使用条件や注意事項を承諾すれば完全後輪駆動の2WDモードも選択が可能だ。このあたりは先代からのロジックを引き継いでいる。
モーター走行時は快適さが際立つ
エクステリアはワイド化されたトレッドに合わせて、リアまわりが48mm拡幅している。デザインのエグみもあってそのたたずまいはちょっと異様な圧を感じるほどだ。特にツーリングについては、このカテゴリーで独壇場的なポジションにあった「アウディRS 6アバント」のそれとがっぷり四つの存在感を示すことになるだろう。が、そんなナリのクルマが音もなくすうーっと走り始めるそのギャップには思わず薄ら笑いを浮かべてしまう。
モーター走行の力感は、街なかや首都高を流れに乗って走るには十分以上のものだ。高速でも追い越し車線を頻繁に用いるような走り方でなければ事足りるだろう。急速充電は備わらないが、その必要も感じない。自宅の車庫などで夜中に充電し、実質40~50kmくらいの範囲で通勤や買い物等の用途に用いるというのがCO2もコストも低く抑えられるスマートな乗り方だ。
と、そんな乗り方をしていると驚かされるのが快適性の高さだったりする。履いているタイヤサイズに鑑みてもバネ下の動きは低速域からスムーズで、マンホールや橋脚ジョイント等の段差を乗り越える際のアタリは驚くほど滑らかだ。モーター走行の際には路面からのノイズも丁寧に抑えられていることが伝わってくる。サイズも含めてM5というより「M7」でもいいんじゃないか。そんな車格感を思わせるほどにその走りは上質だ。
重さが開いた新境地
アクセルを踏み込むと怒涛(どとう)のトルクと伸びのあるパワーとが渦になって絡み合うかのように、大きな車体をゴンゴンと空気の壁に押し込んでいくのが伝わってくる。変速時に駆動力のドロップが無に等しい、ベタッと線形的な加速感は電動パワートレイン系の分かりやすい特性といえるだろう。あきれるのはけっこうな高速巡航域からでさえ実感できる中間加速の分厚さで、アウトバーンの速度無制限区間ではあっという間に250km/hオーバーの世界へと導くその速さに驚かされた。
その法外なパワーをワインディングロードで解き放っても、トラクションに不安はない。そして、ここでも特筆すべきはフットワークの美しさだ。道幅が狭く凹凸の連続する郊外のカントリーロードでも、ライントレースそのものの正確さに加えて、適度にロールしながらアクセルやブレーキ操作、旋回Gなどに伴う荷重移動を旋回姿勢で感じさせてくれるなど、ドライバーの運転実感とクルマの動きとがきれいにシンクロしている。前述のとおり軽快とはいえないが、質量のネガをまるで感じさせないのがすごい。その重さはむしろ、M5の新たな境地を引き出しつつ、乗り味の大物感を高めることの一助にもなっているのではとも思わせる。
物理の壁を技術で克服するというのは、BMWのようなピュアネスを売りにするメーカーにとって望まれる方策とはいえないのかもしれない。でも、物量増加が著しい現在のクルマの成り立ちにおいて、いかにBMWらしくあり続けるかという問いに対する答えを用意しておかなくてはならないのも理解できる。新しいM5の化け物ぶりは、このねじれた時代だからこそ垣間見ることができたものともいえるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW M5
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5095×1970×1510mm
ホイールベース:3005mm
車重:2400kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5400pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:727PS(535kW)
システム最大トルク:1000N・m(102.0kgf・m)
タイヤ:(前)HL285/40ZR20 111Y XL/(後)HL295/35ZR21 110Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
ハイブリッド燃料消費率:9.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:70km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:75km(WLTCモード)
交流電力量消費率:310Wh/km(WLTCモード)
価格:1998万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMW M5ツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5095×1970×1515mm
ホイールベース:3005mm
車重:2475kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5400pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:727PS(535kW)
システム最大トルク:1000N・m(102.0kgf・m)
タイヤ:(前)HL285/40ZR20 111Y XL/(後)HL295/35ZR21 110Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
ハイブリッド燃料消費率:2.0リッター/100km(50.0km/リッター、WLTPモード)
EV走行換算距離:61-67km(WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:61-67km(WLTPモード)
交流電力量消費率:30.7kWh/100km(326Wh/km、WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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