第302回:私は完全に間違っていた
2025.01.27 カーマニア人間国宝への道スタートボタンはありません
「次回の首都高試乗、『ボルボEX40』はいかがですか」
担当サクライ君からのメールに、一瞬「え~~~……」と思った。だいたいEX40ってのは初めて聞く車名だ。EVっぽい名前だけどEVなのか?
まあいいや。乗せてくれるものはなんでも乗っておこう。そう思って「乗る乗る~!」と返信しておいた。
当日夜。私はサクライ君に尋ねた。
オレ:これがEX40なの?
サクライ:そうです。
オレ:これって「CX40」じゃなかったっけ。
サクライ:CXはマツダで、ボルボはXCです。以前は「XC40リチャージ」でしたけど、名前が変わったんです。
オレ:そうだったのね!
考えてみると、ボルボに試乗するのは久しぶりだ。最後に何に乗ったか覚えてないくらい。
ボルボは2030年までの100%BEV化を宣言していた。最近それを撤回して「90%以上」に修正したが、あの宣言以来、私はボルボに対する興味を失った。ボルボは数年前、ディーゼルエンジン車の販売もやめており、今や個人的な視界からは消えている。
しかし「己を知り敵を知れば百戦あやうからず」という。何事も知らなくては始まらない。私はEX40の運転席に乗り込み、スタートボタンを探した。
サクライ:あ、スタートボタンはないんです。鍵を持って乗り込むだけで自動的にONなので。
オレ:そうだったのね!
いつのまにかボルボは、テスラに寄せてきたようだ。それとも最初からだっけ?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スイッチはデカイほうがいい
ボルボEX40は、杉並の路地へ乗り出した。さすがBEV。超絶スムーズだ。
オレ:これって速いほうのヤツ?
サクライ:はい。「EX40ウルトラ ツインモーター」です。
オレ:ウルトラ速いの?
サクライ:ウルトラ速いですけど、ウルトラは装備がウルトラ(豪華)ってことなんです。
オレ:そうなのね! じゃツインモーターのほうが速いって意味?
サクライ:そうなります。前後にモーターを積んでいます。
もちろん杉並の路地でウルトラ速いツインモーターの加速力を試せるはずもなく、EX40ウルトラ ツインモーターはただ滑るように走る。
オレ:これ、回生ブレーキがまったく利かないね。
サクライ:あ、いま回生をAUTOにしてるんです。ONにします?
オレ:お願いします~。
サクライ君は中央の巨大なタッチパネルをパパッと操作し、回生をONにした。
サクライ:このクルマ、「One Pedal Drive」の項目設定で回生ONとAUTO、それとオフも選べるんです。
オレ:そうなのね!
私はアクセル、ブレーキ、ハンドル以外の操作をすべてサクライ君に任せ、要介護状態で運転を続けた。実際のところ、運転中の複雑なタッチパネル操作は危険。介護者が必要だ。そんなものを、なぜ多くの自動車メーカーが競って採用するのだろう。
私は突如として怒りがこみあげてきた。
テスラは物理ボタン排除の先駆者なのでいいが、老舗メーカーが続々とそのマネをするのはどうなのか。テスラと同じことをしていたらテスラを超えられないだろう。
テスラに勝ちたいならテスラの真逆をやるべきだ。タッチパネルを一切排除して、すべて物理ボタンに置き替えるくらいの気骨ある自動車メーカーはないのか。昔のブレーカーみたいなでっかいスイッチいっぱい付けるとか! 意外にウケると思うのだが。昭和レトロがブームだし。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
働き者のヨメは大人気
私はそのまま要介護状態で首都高に乗り入れ、EX40ウルトラ ツインモーターのウルトラ加速も体感し、辰巳PAに滑り込んだ。ウルトラ加速はさすがに速かったけど、特に感動はなかった。
夜の辰巳PAには、いつものようにクルマ好きがチラホラ集まっていた。奥にはR34型「日産スカイラインGT-R」が鎮座ましましている。私はうれしくなって、その近くにEX40ウルトラ ツインモーターを止めた。
しばらくすると、どこからか外国人観光客が10人ほどR34の周囲に集まってきて、記念写真を撮り始めた。
オレ:サクライ君、ガソリン車がウルトラ大人気だよ!
サクライ:すごいですね。
オレ:BEVは人気ないね!
サクライ:ゼロですね。
R34型GT-Rが出た時、私はそのブサイクさに失神しそうになった。そして開発陣の「ボディー剛性命」的な説明に憤った。体が丈夫で働き者ならそれでいいなんて、いつまで江戸時代の農家のヨメ選びみたいなこと言ってんだ、と。
しかし、私の考えは完全に間違っていた。26年後の今、働き者のヨメの周りには人だかりができ、ブサイクすぎるルックスは時空を超えたすごみが漂って見える。逆に、ウルトラ加速のスタイリッシュなBEVには、誰ひとり関心を示さない。
EX40ウルトラ ツインモーターはいいクルマだった。でも、他のBEVと比べて、特段優れたところや個性的な部分はなかった。テスラと違ってテスラスーパーチャージャーも使えないし、タッチパネルは絶望的に使いづらかった(ボルボに限りませんが)。次作はでっかい物理スイッチをいっぱい付けて差別化してください。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=ボルボ・カー・ジャパン)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第346回:EVかいわいで辰巳かいわいへ 2026.10.12 清水草一の話題の連載。日産の「サクラ」と「アリア」、そしてホンダの「スーパーONE」と、国内メーカーがリリースする3台のEVに立て続けに試乗した。三者三様の走りを味わい、リアルに感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第345回:10秒ごとの快感 2026.9.28 清水草一の話題の連載。実に16年ぶりのフルモデルチェンジとなった日産の新型「エルグランド」が狙うのは、圧倒的な強さを誇るトヨタのミニバン「アルファード」と「ヴェルファイア」の牙城だ。早速、首都高でエルグランドの走りを確かめた。
-
第344回:アンパンマンよりばいきんまん 2026.9.14 清水草一の話題の連載。メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」が気になってしかたがない。理由はその特徴的なフロントフェイス。左右の目玉(ヘッドランプ)がつながったデザインがたまらない。果たして実車の印象は?
-
第343回:おやじ、涅槃で待つ 2026.8.31 清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない?
-
第342回:どうしてこんなに高いんですか 2026.8.17 清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。









































