BMW X3 20d xDrive Mスポーツ(4WD/8AT)
これぞ当世ビーエム流 2025.02.17 試乗記 BMWのベストセラーSUV「X3」がフルモデルチェンジ。どこかアニメチックに生まれ変わったエクステリアの内側は、果たしてどんな進化を遂げているのだろうか。2リッターディーゼルモデルの仕上がりをリポートする。飽きられないための努力
7年ぶりに生まれ変わったX3は、かなりヘンテコなカタチになった。しかして、つくりは精緻で、ボディーのチリは小さく、品質感は高い。クリス・バングル時代を私たちは知っているし、「iX」や「XM」という、もっとキテレツなデザインの現行モデルを目の当たりにしてもいる。3次元の立体彫刻だから、ピカソの『泣く女』みたいなぶっ飛んだ感じはしない。アートっぽいカッコよさがある。
であるにしても、2023年の自社ベストセラーモデルに、マーベルのヒーローものとか日本のアニメにだって出てきそうにない斬新なスタイルを採用しちゃったのだから、BMWってのはどうかしている……ぢゃなかった、勇気がある。自動車ビジネスはユーザーを飽きさせてはいけない。ほかとは違っていることが重要で、この新しいデザイン言語は、このクルマのドライビングダイナミクスや長距離の快適性、デジタル化、運転アシスト等における先進性を反映している、というメーカーの主張にもうなずける。
ボディーは先代よりもちょっとだけ大きくなっている。欧州仕様の数値で、全長は34mm長く、全幅は29mm広い。全高を25mm低めているのは空気抵抗を小さくするためでもあるだろう。2865mmのホイールベースは先代と不変ながら、トレッドは前が16mm、後ろは45mm広がっている。ちなみにホイールベースの数値は「3シリーズ セダン」比で15mm長く、前後トレッドはそれぞれ30/60mm幅広い。
冒険心が湧き上がる
日本仕様のパワーユニットはいまのところ、2リッター直4のガソリンとディーゼル、それに高性能版用の3リッター直6ガソリンからなる。これらはすべてマイルドハイブリッド化されている。第4世代のX3の最大のテーマが電動化なのだ。
今回借り出したのは「X3 20d xDrive」、すなわちディーゼルのフルタイム4WDで、ディーゼルは「Mスポーツ」仕様のみとなる。Mスポーツの脚は例によってMスポーツサスペンションとなり、ガソリンの「20 xDrive xライン」より1インチアップの19インチホイールを標準装着する。サスペンションは純メカニカルで、可変ダンパーは装備しない。タイヤのサイズは245/50で、M仕様としては偏平率はさほど低くない。
運転席に着座すると、見慣れた長方形の大型ディスプレイに囲まれる。アンビエントライトの使い方(写真参照)も含め、SUVっぽくはない。ところが、センターコンソールの四角いスタートボタンを押すと、エンジンがディーゼルっぽいガラガラ音をたて始める。微妙な振動もあるようにも感じる。試乗を始めた山梨県・富士河口湖町あたりの一般道の路面は荒れており、そういう路面だとバネ下が若干バタバタする。セダンとは異なるSUVっぽさ、BMW用語でいうところのSAV(スポーツ・アクティビティー・ビークル)っぽさだととらえれば、冒険心が湧き上がりこそすれ、改善を願うようなレベルではない。
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さすがエンジン屋っ!
路面が滑らかだと、たちまちにして路面が滑らかであることが分かる。そういうとき新型X3 20d xDrive Mスポーツは、さながらBMWの最新セダンに乗っているみたいなスムーズネスとリファインメント、洗練を味わわせてくれるからだ。
「ちょっと、ざらつきがある」とアイドリング時に感じた1995ccの直列4気筒ディーゼルターボユニットは、そのざらつきが味わいになっていると走るほどに思えてくる。不思議なことにそのうち、ざらつきなんてあったっけ? と、そう感じた自分のことを忘れる。最高出力197PS/4000rpm、最大トルク400N・m/1500-2750rpmを発生するこのディーゼルは、11PSと25N・mという、「フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI」の19PSと56N・mよりはるかに控えめなモーターのアシストを得てか得ずともか、いよっ、バイエルンのエンジン屋っ! と声をかけたくなる。
ディーゼルゆえレッドゾーンは5000rpmと低いものの、そこまでに至る回転フィールはスムーズで気持ちがいい。400N・mもの最大トルクを1500rpmの低回転から生み出し、2750rpmまで維持。そこから先はパワーがモリモリ出てきて、さすがエンジン屋っ! と、再び声をかけたくなる。ボア×ストローク=90.0×84.0mmのショートストロークと、シーケンシャルのツインターボがこの軽やかなフィールの物理的、基礎的要因、ということに違いない。
燃費も極めて優秀
もちろんBMWはエンジン屋なだけではない。SUVらしく、最低地上高216mm、全高は先代より低められたとはいえ、1660mmある。なのに、「駆けぬける歓(よろこ)び」を堪能させてくれるのだから、恐れ入谷の鬼子母神(きしもじん)。べらぼうによく曲がる。車検証にみる前後重量配分は980kg:970kgと、BMWの理想とする50:50を完璧に実現している。それを基本に、バリアブルスポーツステアリングと後輪駆動偏重のxDrive、Mスポーツサスペンション等が、セダンとほとんど変わらぬドライビングプレジャーを与えてくれるのだ。
参考燃費は、東京~河口湖往復+αで407.0km走って26.2リッターの軽油を消費。満タン法で15.5km/リッター、車載燃費計はそれに極めて近い15.6km/リッターと表示した。車重2tのミドルサイズSUVの値としては優秀で、これこそマイルドハイブリッド化の成果といえる。
運転して楽しくて快適で、実用的。経済的でもある新型X3 20d xDrive Mスポーツにこれ以上なにを望む。もうちょっとまっとうな外観デザイン? いやはや、エキセントリックなエクステリアとマジメな中身とのギャップ。これぞ、当世ビーエム流なのだ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW X3 20d xDrive Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1920×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:197PS(145kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1500-2750rpm
タイヤ:(前)245/50R19 105Y XL/(後)245/50R19 105Y XL(ミシュランeプライマシー)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:858万円/テスト車=927万6000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズンピュアグレー>(32万円)/Mアルカンターラ×ヴェガンザコンビネーションインテリア<ブラック>(0円)/コンフォートパッケージ(15万7000円)/パノラマガラスサンルーフ(21万9000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1814km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:407.0km
使用燃料:26.2リッター(軽油)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/15.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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