第64回:新型「1シリーズ」と「X3」(後編) ―“駆けぬける庭石”が示すBMWデザインの新境地―
2025.04.09 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
既存の車種とはまったく異なる、デカい庭石のようなデザインで登場した新型「BMW X3」。未来的なインテリアも昨今のトレンドを完全に無視したものだが、このぶっ飛びデザインはアリなのか? ナシなのか? 新しいBMWデザインの試金石を、識者とともに検証する。
(前編に戻る)
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シルエットも違えば面づくりも違う
webCGほった(以下、ほった):続いてX3なのですが……。
渕野健太郎(以下、渕野):オッケー、X3ですね。(タブレットで写真を見せる)
清水草一(以下、清水):うーん、やっぱりカッコイイな。写真を見ても。
渕野:ですよねぇ。
ほった:どうしたんすか? 2人して。(若干引き気味)
渕野:まず旧型と比べてみると、ボンネットが高くなり、特に顔の厚さが増したように見えますよね。そしてリアゲートが立ち気味になってる。
ほった:そうですね。こうして見ると。
渕野:プロポーションは、清水さんが好きな「XM」に近い感じがします。
ほった:ああ、はいはい(笑)。
清水:そうなんですか? 言われなきゃわかんない。
渕野:まぁとにかく、プロポーションというかシルエットに関しては、前のX3とは全然違うクルマになったっていうのがまずひとつあるわけです。次いで、このサイド面ですよね。
ほった:パーン! ですね。
渕野:これまでのBMWとは違う基本立体構成をしています。BMWに限らず、ドイツ車はひとつの断面を前後にドラッグさせたような基本立体をベースに、あとから前後フェンダーとかをくっつけるような構成が一般的なんですけど(参照)、今回はリフレクションに変化をつけるようなことをしてるんです。マツダっぽいですよね、これ。
清水:ついにBMWがマツダに寄せてきた!
渕野:あるいはトヨタあたり。
深刻な“ディテール依存症”からの脱却
渕野:要は、このX3でBMWは、日本車にちょっと近いやり方を採ってきたんだと思います。ただ表現の強弱はまだおとなしめなんですよ。その点はまだ、マツダのほうがスゴいことをやっている。
ほった:マツダのあの“うねり”にはかなわない。
渕野:そうですね。シルエットとの関連性なんかも、マツダ車のほうが意識されてます。マツダのデザインには「こういう流れのシルエットだから、断面はこう、リフレクションはこうなんだ」っていう概念があるのに対して、BMWのデザインには、まだそこまでの関連性がない。ただ、プレスラインに頼っていた今までと違って、新型X3はボリュームで見せるようになったので、以前より圧倒的に新規感が出てる。これはこれでイイんじゃなかろうかって思います。
清水:よくがんばったね、と。
渕野:フロント周りに関しては……ネットを見てると否定派が多い気もするんですけど、個人的にはちょっとファニーな感じというか(笑)、あまり斜に構えてない感じがして、いいなって思ってます。これも、これまでのBMWとはちょっと違う面の雰囲気じゃないですか。
清水:うるさいものがあんまりないですよね。
渕野:なくなったんですよ。この世代で。
ほった:まぁ、細かいところを見ていくと相変わらずエグいですけど。
渕野:それでも、「ここ最近のBMWはディテール過多で装飾だらけでどうなのよ?」って話をこの連載でも毎回してるぐらいですから、そんななかでX3は、すごく素直に見られるクルマなんじゃないですか?
ほった:まぁ、そりゃ確かに。
清水:特にボンネットがスゴいと思うんですよ。ラインがとても少なくて、一枚岩というか、庭石みたいでしょう? いやむしろクルマ全体が庭石みたい。
渕野:なるほど(笑)。
清水:なかなかいい庭石ですよ。こういう石を探してくるのも大変でしょうけど(笑)、スゴく迫力がある。
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軸感に対するこだわりを捨てた?
ほった:それにしてもこれ、先代とプラットフォームは一緒なんですよね。よくここまでイメージを変えられたなぁ。
渕野:前のX3とはパッケージがまったく違うように見えますよね。ホイールベースとか着座位置とかは多分、そんなに変わらないと思うんですけど、デザインの力ですごく変わったように見える。
清水:サイドもラインが少なくて、面で表現してるじゃないですか。面の迫力っていうか面圧がすごくて、まぁデカく感じる。実際には、思ったほどはデカくないんですけど。
渕野:ただいっぽうで、軸感に関しては「リアがどこにつながってるんだろう?」というのはちょっとあります。先代はサイドのキャラクターラインの下に強いピークがあったじゃないですか。フロントもリアもそこを補完してて、サイドとリアがそろってるような感じでしたけど、新型は……。
清水:……前後軸が後ろ下がりになってる?
渕野:というか、フロントからきた流れが、リア周りで発散しちゃってる感じがするんですよね。サイドの後ろ側にピークがないので。これは恐らく意図的なものだから、実際に走ってるのを見てどう感じるか……。そこは見どころかなと。
清水:そういう部分もあってなのか、なんかクルマじゃないような、クルマから離れたオブジェみたいなイメージだったんですよ。軸感がないんですね?
渕野:いや、ないことはないですよ。普通のドイツ車はそこをすごく重視しているのが、新型X3はちょっと離れたな、というくらいで。
ほった:はいはいはい。
渕野:で、それがすごくいい感じだとも思うんですよ、このクルマに関しては。
清水:駆けぬける庭石ですから(笑)。
このインテリアはスゴすぎる
渕野:それとやっぱね、新型X3は、内装がすげえと思います。
ほった:いろんな文法をぶっ飛ばしてますよね。
渕野:最近のインテリアデザインのトレンドは、圧迫感をなくすためにできるだけインストゥルメントパネルを薄くして、あまり主張させない方向だったんですよ。それがこのX3では、インパネの断面自体をしっかりさせて、丸太みたいに「どんっ!」と見せてる。これまでは造形や加飾で横方向に刻んでいて、断面形状も場所によって変わったりしてたんですけどね。……さらにこの、光る加飾みたいなの。これがまたスゴい(笑)。
清水:ギンギラでした。
渕野:こういうの、ほかにはないですよね。普通はイルミネーションも横方向に伸ばして広さ感を出そうとするのに、X3では、そんなのお構いなしに三角形やら四角形やらのグラフィックをドカドカ配置したりして、こんなことなかなかできないですよ。いい悪いはわかんないけど、すごい攻めてる。
清水:アンビエントライト大好きな私からしたら、光がすごく目立つんで、「うわ、スゲエ!」でした。これで音楽と同調して明滅してくれたらもっといいんだけど。(全員笑)
渕野:だいぶカウルが高い気がしたんですけど、そこはどうでしたか?
清水:高い壁に囲まれてるから、着座位置の低いスポーツカーっぽく感じました。城壁の中にいるみたいで、「俺はBMWだ、どけ!」っていう感じが強かったかな(笑)。
ほった:ゲルマンお得意のそこのけ精神(笑)。
ヨコの流れからタテの流れへ
渕野:このドアトリムのデザインにしても、こんな複雑なことってあんまりやらないじゃないですか。これ、トリムの流れを斜め上に向けているんですけど、これも普通は横向けなんですよ。「できるだけワイドに」っていう狙いがあるので。でも最近のBMWは、そこも変えてきてる。
前回触れた「1シリーズ」もそうなんですが、最近のBMWのインテリアデザインは、“縦の流れ”を結構使ってて、そこでも最近のトレンドからあえて離れてきてる。「iX」も、ドアトリムはどちらかというと縦の流れでしたけど、まだインパネは薄かった。そこからの変化をみると、BMWのインテリアデザインのテイストは、より縦方向にきてるみたいですね。ほかと違うっていうのは重要なので、X3はエクステリアよりもインテリアのほうがぶっ飛んでるって思いました。これがユーザーにはどう感じられるのか……。
ほった:細かいことは素人にはサッパリですが(笑)、とりあえずこのドア側の発光部、インパネの造形となんの連続性もないですからね。これでオッケーなのかって思いましたよ。
渕野:これは右ハン、左ハンのどっちにも対応できるようにしてるんです。だからわざとぶった切ってるんだと思いますよ。とはいえ、ここまで大胆なのなかなかないから、やっぱり普通の人がどう感じるか。
清水:うーん。一般のBMW好きは、インテリアにそれほど強いこだわりは持ってないんじゃないかな。BMWはインテリアでいろんな新しいことをやってきたじゃないですか。「iDrive」とか、主に操作系ですけど。みんな最初はとまどいつつ、結局「BMWならすべて善し」で受け入れてきてる。
ほった:ワタシはいまだに、初期型iDriveは認めてませんけど。
清水:ほった君はBMWオーナーじゃないから。
渕野:(笑)いや、操作系はそうかもしれませんが、インテリアデザインについては、BMWはずっとコンサバ中のコンサバだったと思いますよ。真ん中にセンターコンソールがあって、クラスターがちょっとドライバー寄りに傾いてるっていうのをずっとやってきてて、むしろ「個性はそこだけ!」みたいな感じだった。デジタル画面がはやりだしたときも、あんまり主張しないような、ちっちゃな画面しか付けてなかったでしょう。もちろん「i3」とか例外もありましたけど。とにかく、そういうなかでX3みたいな、主力中の主力のモデルがここまで大胆にやってきたっていうのがね。
清水:変革なんですね。
新型「X3」のデザインがBMWの主流になる?
渕野:それにしても、X3は変わりましたよね。以前のX3って、「X5」の縮小版みたいな感じだったじゃないですか。
ほった:てか、X5がBMW製SUVの先兵でしたからね。あれがすべてのはじまりだったわけで。それが今では、X5どころか「3シリーズ」すら差し置いて、X3がラインナップの旗手になってる。こうして、デザイン的にも。
渕野:X3でここまでやったんなら、次のX5はどうなるんだろう? って気になってきます。全然違う方向なのか、これのデカい版になるのか。そういうところも含めて、時代がちょっとずつ変わりつつある感覚がありますね。
清水:乗る人は、「エリートっぽければそれでいい」って思ってると思うんですけどねぇ(笑)。
渕野:いや、むしろその辺も含めて変わってきていると思いますよ。XMみたいに、スマートさより派手さを好む人、ランボルギーニまではいかないけど、アクが強いのを好むような人たちも、車種によっては取り込もうとしてるんじゃないかな? X3は主力モデルなので、今後はこういう方向が一般的になる気もします。
清水:いい兆候じゃないでしょうか。1シリーズもX3も。
渕野:前のX3は、割とどっちつかずでしたからね。
ほった:てか、そもそも印象に残ってないです。
清水:そうそう。
渕野:X5かX3かよくわかんないような感じもしたし、割と中途半端だったのかもしれない。
ほった:「形、思い出せる?」って聞かれたら、もう思い出せない。
清水:それが駆けぬける庭石になったんだから、よかったよかった。
ほった:そんな、めでたしめでたしで締めないでください(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、マツダ/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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