ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)/ムーヴRS(FF/CVT)
走れるスライドドアモデル 2025.06.28 試乗記 2年余りの充電期間(?)を経てダイハツの軽ハイトワゴン「ムーヴ」が復活。「遅れてすまん」とばかりに携えてきた手土産は、リアに備わった2つのスライドドアだ。自然吸気エンジンの「X」とターボの「RS」をドライブした。累計販売台数は340万台!
ダイハツの基幹車種となるムーヴ、そのフルモデルチェンジは実に11年ぶりだ。直近はモデルラインナップからも姿を消していたが、理由は2023年に発覚した認証不正にまつわる業務の停滞にある。社内が一連の対策やガバナンスの再構築などに全集中せざるを得なくなったぶん、ニューモデルのリリースが滞らざるを得なくなったわけだ。
この間、ライバルに客が流れなかったわけではないだろうし、メーカーも販売店もそれを食い止めるべくさまざまな施策で臨んでいたことだろう。でも一方で、どうしてもムーヴがいいからと、車検を取って買い替えを辛抱してくれたリピーターの方もいらっしゃったという。泣かせる話である。
石を投げれば「Gクラス」という東京のような場所に住んでいると、メーカーと販売店、そしてユーザーと、軽を取り巻く三角形のエンゲージメントというのは分かりかねるが、実はそのうかがい知れない関係性こそが日本の大勢であって、対すれば東京は明らかに異様なところだ。このところ実家まわりの雑務が増えて、東京と九州を頻繁に行き来するようになり、そのへんを肌身で感じている。
というわけで、そういう義理堅いユーザーにも恵まれたムーヴは、1990年代から「ワゴンR」とともにハイトワゴンというカテゴリーを築いてきたわけだ。ちなみにデビューから30年となるムーヴの販売台数は単独で累計約340万台。「ラテ」だの「コンテ」だの「キャンバス」だのと代々の派生ものを加えると、台数はさらに増える。
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買い替えが進まぬよんどころない事情
が、ここ数代のムーヴについては、販売的に上り調子というわけではない。お察しのとおり、これは魅力がなくなったというよりも、売れ筋の車型がスライドドアのスーパーハイトワゴンに移行したことが大きな理由だ。21世紀に入ったころには軽全体の7割近くを占めていたハイトワゴンの売れ行きは現在3割強といったところ。スーパーハイトワゴンは全体の5割近い数となっている。
もうひとつ、ハイトワゴンの課題となっていたのは約1000万台にのぼるという保有の代替の勢いが鈍いことだ。この主因は日本の高齢化と察せられる。齢(よわい)いくばく……と考えている年金暮らしのお年寄りにしてみれば、利便性が高いハイトワゴンに不満があるわけもなく、一度持てば冷蔵庫や洗濯機と同じ、壊れるまで使う耐久消費財という思いに至るのは自然なことだろう。平日の昼間、地方のスーパーに行くと、確かに年季の入ったハイトワゴンが散見される。
新型ムーヴの最大のトピックとなるリアのスライドドア化は、こういう市況を受けてか、社内では強い反対もなくスムーズに決まったという。ユーザーニーズのカバーとハイトワゴンカテゴリーの活性化を両取りするために、ヒンジドアは外されたというわけだ。
新型ムーヴのプラットフォームは「DNGA」へと刷新された。先出のムーヴ キャンバスをベースとしており、外形の三寸やホイールベースは同じだ。同等グレード同士で比べると重量はムーヴのほうが10kg軽い。一方で燃費はわずかながらムーヴ キャンバスのほうが優れるものの、先代ムーヴと比べれば10%程度の低燃費化を実現している。近ごろはアイドリングストップを省くモデルもあるが、ムーヴでは継続採用された。
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「このお値段でスライドドア」の価格設定
省くといえば新型ムーヴ、ハンドルのロック機構がない。パワーアシストがない重ステ状態ではあるが、イグニッションオフの状態でも据え切りでぐるりと回せてしまう。考えてみればもはや大半のクルマは電子的に幾重にもイグニッションが管理されているのだから、アナログな鍵の時代の慣習は必要ないのかもしれない。メカのシンプル化とコストダウンの両面で同様の措置をとるモデルはじわじわ増えているようです……と、ダイハツのエンジニア氏が教えてくれた。
ムーヴは全4グレードの構成で、トップのRSのみがターボとなる。最量販として想定されるのは下から2番目のXで、その豪華版が「G」、最廉価の「L」はフリート需要も想定し、色の選択肢も限られる。全グレードに4WDの用意があるところが生活本位の実用車らしい。
最量販想定のXの価格はFFで149万0500円。同等とみなされるムーヴ キャンバスの「X」よりは8万円強安いが、「タント」の最安値となる「L」とはほぼ同じ価格だ。ちなみにXの価格をワゴンRと比べてみると、先進運転支援装備(ADAS)の充実した「FX-S」にほど近い。もっとも、ムーヴで徹底的にコストを重視するなら135万8500円のLが選べる。3万円の差で客が飛ぶといわれるほど厳しい軽のコスパ競争のなかで、そのど真ん中にいるムーヴの最大のウリはやはり「このお値段でスライドドア」ということになるのだろう。
取材車はそのXとターボ付きのRSの2グレードだった。まずXに乗り込むと、オートエアコンをはじめ必要以上の装備が調えられてはいるものの、例えば樹脂丸出しのドアインナーノブなどの端々に物寂しさを感じてしまう。対して妙に立派なのはシートで、前席はサイズ感がちょっと軽離れしたもので、後席も座ってみると座面のサイズやフォームに気遣いが感じられた。
カスタムがなくなった理由
直近では帰省時のレンタカーで乗った前型を思い起こすまでもなく、乗り味の面では大きく進化している。見た目だけではなく走りもゆるふわなムーヴ キャンバスに比べると、同等に近いアタリの丸さがありながら、路面のあらから橋脚ジョイント、舗装段差など日常でよく出くわす凹凸にしっかり追従して上屋の動きもコンパクトに収めている。採用するカヤバ製のダンパーに特別な飛び道具はないというが、うまく使いこなせていると思う。
コーナリングも気持ちよくはないが、急にロール量が増えるような重心起因の不安感は小さい。このあたりは操舵フィールを煮詰めてインフォメーションが豊かになればさらに安心感を増すと思うが、タイヤ側の転がり抵抗やたわみ特性なども変えることになるため、なかなか難しい話だろう。
CVTはエンジンのうなりをできるだけ抑えてトルクでじりじりと加速するようにしつけけられており、平地では思いのほか静かに滑らかに振る舞ってくれる。が、さすがに自然吸気では首都高で出くわす程度の勾配でも高回転側を使う機会が増えてくるのは致し方ない。ターボが最もその付加価値を感じさせてくれるのはこういう場面だろう、RSは東京都心の試乗でもあらゆるシチュエーションで動力性能面での不満はまったく感じなかった。乗り心地的にはさすがに一段引き締まったものになるが、それでも突き上げなどの不快要素はうまく抑えられている。
新型ムーヴにとっての勘どころは、スーパーハイトワゴンにほど近い利便性と、それとは一線を画する動的質感の両取りだ。その点はうまくクリアできているように感じられた。ちなみに一部の好事家にとっては大事なことかもしれないが、このクルマ、いわゆる「カスタム」の設定がない。メッキ加飾のオプションを充実させることでそのニーズに対処しているというが、ダイハツのリサーチによれば、カスタム系のニーズは以前よりもしぼんでいるという。思えば直近の「N-BOX」や「スペーシア」も、以前とは雰囲気を違えたデザインにちょっと目が奪われた。ドヤ顔にもトレンドあり。そういう風向きの変化は、まず地に足のついた軽自動車から表れるものなのだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:860kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52PS(38kW)/6900rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.6km/リッター(WLTCモード)
価格:149万0500円/テスト車=167万7170円
オプション装備:6.8インチスマートフォン連携ディスプレイオーディオ<純正ナビ装着用アップグレードパック付き>(7万1500円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ>(2万9040円)/ETC車載器(2万0130円)/ドライブレコーダー<スマートフォン連携モデル>(6万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:642km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ダイハツ・ムーヴRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:890kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:21.5km/リッター(WLTCモード)
価格:189万7500円/テスト車=221万6170円
オプション装備:コンフォータブルパック(3万3000円)/ボディーカラー<レーザーブルークリスタルシャイン>(2万2000円)/9インチスマートフォン連携ディスプレイオーディオ(14万8500円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ>(2万9040円)/ETC車載器(2万0130円)/ドライブレコーダー<スマートフォン連携モデル>(6万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター値

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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