プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)
栄光の記憶がよみがえる 2025.07.15 試乗記 ステランティスの新開発プラットフォーム「STLAミディアム」を使用した初の市販モデル「プジョー3008」が上陸。導入されるマイルドハイブリッド車(MHEV)と電気自動車のうち、先にデリバリーが始まったMHEVに試乗し、進化した3代目の仕上がりを確かめた。オシャレなだけでは物足りない
久々に、と言っては失礼か。新型プジョー3008はヒット作になる予感がする。もちろんプジョーは今もオシャレなフランス車というイメージを保っている人気ブランドだが、かつての栄光を知る身としては物足りないのだ。2000年代初頭のプジョーの勢いは華々しかった。2001年に発売された「206CC」は日本に割り当てられた700台が瞬時に完売。クーペカブリオレというトレンドを先頭で引っ張り、その他のモデルも売れに売れてプジョー全体では年間1万台以上の販売台数を誇っていた。
あの頃とはプジョーというブランドの位置づけは変わってきているから、同じ状況が戻ってくるとは思わない。今はフレンチプレミアムのポジションにあり、カジュアルで楽しく乗れるクルマという手軽感は薄くなっている。SUVが主流になり電動化が進むなかで、プジョーが求めていた最適解に近いモデルが3008なのではないかと感じた。
フォルムはいわゆるクーペスタイルのクロスオーバーSUVである。トレンドのど真ん中だ。ライバルは多いから、独自性を出すのは簡単ではない。ボリューム感とシャープさを両立させたバランスのよさがセンスの表れである。大型フレームレスグリル、ライオンの爪痕モチーフのLEDランプ、適度な抑揚の面構成などがスタイリッシュな印象をもたらしている。ボディー下部にはSUVらしくモノクロームの樹脂が配されているが、控えめなのでワイルドさは最小限に抑えられた。
プジョー初という表から見えないタイプのサイドウィンドウモールも、スマートさの演出に役立っているのだろう。「YARI」という名のホイールは槍ヶ岳からのインスピレーションだというが、ちょっと意図ははかりかねた。いずれにしても過剰な装飾性で目を引くような品のない振る舞いとは無縁で、そこにエレガントな匂いが浮かび上がる。
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新鮮な進化形「iコックピット」
試乗車のボディーカラーは新色の「インガロブルー」。もともとあった鮮やかな「オブセッションブルー」とは違い、グレーの要素が強めの地味な色である。ほかに「オケナイトホワイト」も選べるが、レッドやイエローなどの華やかな色は用意されていない。クールなイメージで統一感を出そうという戦略なのだろうか。未来的な意匠の3008には、確かにキラキラやゴテゴテという要素はないほうがいい。
エクステリア以上に感心させられるのが洗練を極めた内装だった。ハイテク感が強いにもかかわらず、居心地のいい空間に仕立てられているのだ。プジョーが誇る先進的な室内レイアウトが「i-Cockpit(iコックピット)」である。デジタルインストゥルメントパネルを小径ステアリングホイールと組み合わせ、ドライバーにとって機能的な空間構成を実現するコンセプトだ。3008ではその進化形となる「PEUGEOT Panoramic i-Cockpit(プジョーパノラミックiコックピット)」を初採用している。
ステアリングホイールの向こうには21インチの横長スクリーンがゆるやかにカーブを描いて広がっている。ダッシュボードの上にフローティングする形で設置されているのが新鮮だ。その下に設置されているタッチセンサーの「i-Toggles(iトグル)」で機能を切り替える。ショートカットキーをカスタマイズすれば、自分好みの快適な操作性が得られるのだ。それぞれのパーツが薄く水平に配置され、ピアノブラックを多用することで高級感と洗練度をアップさせている。
未来志向のデザインは、ともすると子供っぽいガジェット性を感じさせてしまう。それを回避する効果をもたらしているのが、絶妙なファブリック使いだ。ブラックとシルバーの素材が使われているなかに、柔らかい質感のあるグレーのテキスタイルが張られている。ドアトリム、ダッシュボード、センターコンソールに配することで、リビングルームのような快適さをプラスしているのだ。ファブリック内装は数年前からクルマのインテリアに取り入れられることが多くなっていたが、これが最高傑作ではないか。
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STLAミディアムを初採用
試乗車は最上級グレードの「GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド」だったので、シートは合成皮革とアルカンターラが組み合わされていた。滑りにくい表皮で、座り心地は上々だ。実はここにも新たにハイテク装備が仕込まれている。これもプジョー初となる「アダプティブボルスター機能」で、サイドサポートを体形に合わせて調節できる。さらに多彩なマッサージ機能もあるという手厚いおもてなしがうれしい。シートの横にあるスイッチとタッチパネルのどちらでも操作できる。
初物尽くしであることに気合が見えるわけだが、ここまでは序の口。最大のプジョー初はプラットフォームである。新開発された「STLA-Medium(STLAミディアム)」が採用されているのだ。CセグメントとDセグメント向けに設計されていて、ディメンションやサスペンション形式などの自由度が高いという。BEVに最適化しているものの、柔軟性は高く、多様なパワーユニットに対応できるらしい。将来的にステランティスのさまざまなモデルで使われることになるはずだ。
3008には48Vマイルドハイブリッドシステムが搭載されていて、これはプジョー初ではない。すでに「308 GTハイブリッド」が発売されている。ステランティスではこのシステムが完全電動化までの移行期に重要な価値を持つと考えているようだ。先日試乗した「フィアット600ハイブリッド」もこのパワートレインだったので、出来のよさはすでにチェック済みだ。
マイルドと称しているが、スペックはかなりレベルが高い。バッテリー容量もモーター最高出力も、並のマイルドハイブリッドよりはるかに上だ。そのおかげで、条件付きではあるがモーター駆動のみの走行が可能になっている。1.2リッター直3ターボエンジンとの組み合わせで、システム最高出力は145PS。これはフィアット600、さらにいえば「アルファ・ロメオ・ジュニア」とまったく同一である。
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合理性を重んじるフランス流?
車重1330kgのフィアット600にはこのマイルドハイブリッドがうまくマッチしていると感じたが、ボディーサイズの大きい3008は290kgも重い1620kg。数値は同じでも何らかのチューニングが施されているのではないかと邪推して聞いてみたら、何もしていないという答えだった。そろそろと動き出すと、確かにモーターで発進する。ただ、すぐにエンジンがかかり、EV走行と表現できる状態にはならなかった。フィアット600ではしばらくモーターのみの走行が続いたのだが、やはり重量が響いているのか。試乗した日は酷暑でエアコンがフル作動していたことも影響したと思われる。
走りだしてしまえばこのシステムの素性のよさが発揮され、静粛性は高くスムーズな加速が心地よい。極度にスポーティーな走りではないが、実用車としては十分な性能である。MHEVのフィアット600と違うのは、「エコ」「ノーマル」「スポーツ」と3つの走行モードを切り替えられるところだ。フィアット600は常にスポーツモードになっているようで、もっと効率よくパワーを使いたいと考えるのが合理性を重んじるフランス流なのかもしれない。とはいえ、物理法則は非情であり、燃費性能はフィアット600を下回っているのだが。
大きなボディーを持つのだから、居住性や荷室スペースが広いのは当然である。スタイルを優先したことでルーフが後ろに向けて下がっていくものの、後席の乗員が苦痛を感じるほどではない。荷室容量は520リッターを確保しており、高さを2段階で調整できるフロアボードがあって使い勝手にも細やかな配慮がある。思い切りスタイリッシュ方向に振った内外装とは裏腹に、実用性も高いモデルなのだ。
3008にはBEV版もラインナップされていて、2025年内に日本に導入される予定だという。フィアット600は先にBEVを発売したものの、売れ行きが芳しくなかった。その反省で順番を逆にしたのかと思ったのだが、単に製造過程の事情なのだそうだ。
BEVの普及速度が予想を下回り自動車メーカーが電動化戦略を練り直しているなかで、ハイブリッドが再評価されているのは周知のとおり。絶妙なバランスのパワーユニットを手に入れたことは、ステランティスにとって強力な追い風になるだろう。そのアドバンテージを存分に生かして魅力的なモデルに仕立てたのが、新型3008なのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1895×1665mm
ホイールベース:2730mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
システム最高出力:145PS(107kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103V/(後)225/55R19 103V(ミシュランeプライマシー)
燃費:19.4km/リッター(WLTCモード)
価格:558万円/テスト車=566万4120円
オプション装備:ボディーカラー<インガロブルー>(6万6000円) ※以下、販売店オプション ETC1.0車載器(1万6060円)/電源ハーネス(2060円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:893km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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