レクサスLC500“ピナクル”(FR/10AT)/LC500コンバーチブル“ピナクル”(FR/10AT)
家宝にしてほしい 2025.07.24 試乗記 レクサスの「LC500/LC500コンバーチブル」に特別仕様車“ピナクル”が登場。台数限定モデルなのはもちろんのこと、5リッターV8エンジン自体の存続も怪しくなっており、お求めの方は急いだほうがよさそうだ。レクサスのテストコースで乗った印象をリポートする。終わりが迫るレクサスのV8
“ピナクル”とは頂点の意。その名をいただくレクサスLCの限定車が登場した。それに合わせてベースモデルもマイナーチェンジを受けている。
自ら頂点と申すのなら、LCもいよいよ終了なのかと思われる方も多いだろう。折しもLC500が搭載する2UR-GSE型5リッターV8を搭載するモデルの身辺がこのところ騒がしい。
「RC F」は限定200台の“ファイナルエディション”を売り切り、他グレードも2025年11月までの生産枠が埋まっている。「IS500」は限定500台の“クライマックスエディション”を8月に販売開始……とされるが、下馬評では受注残はわずかとされている。
そしてLCの“ピナクル”はクーペとコンバーチブルがおのおの100台ずつの限定車となる。が、うち半分は既納ユーザーとの先行商談枠とされており、一般ユーザーへの割り当ては実質50台ずつということになりそうだ。抽選の申し込みは店頭にて8月7日まで受け付けられ、8月18日には当選者に商談の案内が届くという仕組みになっている。
地味ぃーな改良ポイント
レクサス側に尋ねてみたところ、この“ピナクル”の販売終了をもってLC500の販売を終了するわけではなく、カタロググレードは販売を継続するという。一方で、2UR-GSE搭載車はCO2やエミッションの規制というよりも、設計年次によるADASやサイバーセキュリティーの規制対応の限界が迫っており、生産終了に猶予はなさそうでもある。
これらに鑑みると、個人的な読みではおそらく最後のマイナーチェンジとなるLC。その内容はドアストライカーの肉厚を1mm増やしたというかなり地味なものだ。従来は4mm厚の鋳鉄台座に1mmの樹脂板でお化粧していたところを、その1mm分を使って肉増しした鋳鉄むき出しの土台に化粧のための塗装を施したという。ちなみにこれ以上肉厚を上げると衝突安全要件を検証し直す可能性も出てくるがゆえの、ギリギリの割り出しだったそうだ。
これによってドア支持の結合度が高まるだけでなく、ストライカー自体がドアヒンジやインパクトビームと直線的につながる部位となるため、車体剛性的にも向上が見込めるという。ちなみに同じ車台の「LS」でも試してみたが、ドアの小さいセダンはインパクトビームが斜めに通るため、変化がみられなかったという。他のレクサスもしかりとはいえ、とにかくLCとLSはちまちました仕様変更を積み上げまくって、なんとか自分たちの味わいをつくり出そうという努力を重ねてきた。下山テストコースの運用以降は特にこういう小ネタが増えているから、開発と実験が一体化した環境が奏功しているところもあるのだろう。
クーペには後輪操舵も搭載
このストライカー変更に合わせてダンパーチューニングを加えたカタロググレードをベースに、“ピナクル”ではフロントカナードとリアウイングを採用。ちなみにコンバーチブルのウイングは幌(ほろ)屋根の開閉機能との干渉を防ぐ形状が求められるため、“ピナクル”用に新たに起こされている。
搭載する2UR-GSE型は部品や組み付けの高精度化を施したほか、リアデフもバックラッシュを抑えるべく熟練工による手作業の擦り合わせが加えられた。これらはRC Fの“ファイナルエディション”でも採られたプロセスだ。さらにクーペにはリアサスメンバーのアルミ中空化やダイナミックリアステア=DRSの採用など、運動性能を意識した仕立ても加えられる。と、これらの仕様に合わせるかたちでサスチューニングを改めたというのが“ピナクル”のメニューとなる。
内外装の仕様はクーペが専用カラーの朧銀(おぼろぎん)で内装はブラック&ホワイトのコンビ、コンバーチブルはIS500“クライマックスエディション”と同じニュートリノグレーで内装はサドルタン&ホワイトのコンビとなる。幌屋根は銀糸を織り込んだ専用のブラウンだ。いずれもピナクル感をやんわりと主張する渋めな仕立てだ。
もう出会えないかも
乗り味はこの1、2年のスペックでもすでに極まったのではという思いも抱いていたが、乗ってみるとさらなるピナクル感が加わったことが伝わってきた。意外にも一番効果が大きく感じられたのは、くだんのドアストライカーだ。試乗機会ではその有無を比べることもできたが、微小な操舵にリニアに応答するゲインの高精細ぶりや、大きなドアの揺れが減ったことによる低周波のこもり音の減少など、たかが1mmがクルマのすっきり感をこんなに高めるものかと感心させられた。もちろんこれは、カタロググレードでも感じられる進化となるはずだ。
登場から8年の間に、ライバルは続々とエンジンをスイッチし、周囲はバカ力をホイホイ引き出せるターボ化へと突き進んだ。対すればLCのパワーは今や牧歌的な類いかもしれない。でも、それが落胆につながるかといえば全くのノーだ。3000rpmまでの静かで滑らかな回転感から、快音を響かせて7000rpm向こうまでスカッと吹け上がる、そのエンジンの多様な表情や、カムに乗るように2次曲線的にパワーを高めていく手応えに、自然吸気でしか味わえない高揚を感じないわけがない。
アメリカンV8のようなドロンとしたよどみも、シングルプレーンV8のようなパリパリしたビート感も、そして高すぎず低すぎない独特のサウンドもと、走り方次第で幾重もの表情をみせる2UR-GSEは、レクサスにとって数値ではない文芸的な滋味をもたらす源泉だったのだなぁとあらためて実感する。おそらくこれが最後になるだろうLC500を幸運にも手に入れることのできた方には、ぜひ大事にしていただきたい。こんな妖艶なクーペに出会えるのは、この先そうそうあることではないだろう。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスLC500“ピナクル”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1345mm
ホイールベース:2870mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:477PS(351kW)/7100rpm
最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)245/40R21 96Y XL/(後)275/35R21 99Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:8.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1780万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
レクサスLC500コンバーチブル“ピナクル”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1350mm
ホイールベース:2870mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:477PS(351kW)/7100rpm
最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)245/40R21 96Y XL/(後)275/35R21 99Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:8.0km/リッター(WLTCモード)
価格:1780万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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