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日本が憧れ、世界が手本としたスポーツセダン「BMW 3シリーズ」の50年

2025.08.01 デイリーコラム 鈴木 真人
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今もBMWの基幹車種……なのか?

BMWの「3シリーズ」が今年(2025年)で50周年を迎えるそうだ。実に半世紀にわたってスポーツサルーンの象徴的存在であり続けたことは驚異的であり、敬意を抱かざるを得ない。「02シリーズ」の後継として3シリーズがデビューしたのは1975年のフランクフルトショー。ピンとこないが、同年はベトナム戦争が終結し、日本では佐藤栄作元首相が死去した年だ。そう思うと、はるか歴史のかなたという印象になる。

縦置きの直列エンジンで後輪を駆動するスポーティーな乗用車で(4WDもあるが)、剛性の高い軽量ボディーに吹け上がりのいいエンジン、俊敏なハンドリングを追求。多くのクルマ好きを魅了したのは当然だろう。BMWの「駆けぬける歓(よろこ)び」というスローガンを体現するモデルであり、そのブランドイメージを大いに高めてきたのだ。セダンからステーションワゴン、カブリオレとラインナップを広げていき、累計販売台数は2000万台を超えているという。

概括的な説明だけでは伝わらないから、具体的に感想を述べるべきだろう。最近乗った3シリーズは何だったっけな……。と記憶をたどってみた。なかなか思い出せない。調べてみたら、最後に試乗したのは2017年である(参照)。2019年に登場した7代目モデルには、筆者は乗っていなかったようだ。BMWに縁がなかったわけではなく、SUVの試乗は多い。BMWでは2000年に「X5」を発売しており、いまやこの車形が販売の主力になっているのだ。2004年には3シリーズをベースとした「X3」もデビューしているが、現在では新しい技術が、3シリーズより先にX3に使われることも珍しくなくなった。

1975年に登場した初代「BMW 3シリーズ」(E21)。
1975年に登場した初代「BMW 3シリーズ」(E21)。拡大
今日のモデルにも面影を残す4灯のヘッドランプだが、初代のころは上級モデルのみに許される豪華装備だった。
今日のモデルにも面影を残す4灯のヘッドランプだが、初代のころは上級モデルのみに許される豪華装備だった。拡大
初代「3シリーズ」のインストゥルメントパネルまわり。センタークラスターが運転手側に向けられた、ドライバーオリエンテッドな運転環境を備えていた。
初代「3シリーズ」のインストゥルメントパネルまわり。センタークラスターが運転手側に向けられた、ドライバーオリエンテッドな運転環境を備えていた。拡大
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六本木を闊歩したステータスシンボル

3シリーズの思い出は、やはり1980年代にさかのぼってしまう。あの頃のBMWはピカピカに輝いていた。トヨタの「マークII」3兄弟や「日産スカイライン」「ホンダ・アコード」などの国産セダンも人気だったが、BMWの特別感とは比較にならない。キドニーグリルは憧れで、エクステリアもインテリアも、やぼったい日本車とは一線を画していた。速度無制限のアウトバーンで追い越し車線を激走しているというウワサが想像力をかき立てる。エンジンもサスペンションも先進的で、日本車にとって追いつくべき目標だと捉えられていたのだ。

運転の楽しさを求めるユーザーから支持を集めたのには正当な理由がある。ツーリングカーレースで好成績を挙げており、確かにメカニズムでは一歩先を行っていた。50:50の前後重量配分というのも、クルマ好きのハートには魔術的響きとなる。自動車評論家からの評価も高く、走りのよさがBMW 3シリーズの代名詞となっていった。

販売台数も増え、東京などでは街角でごく普通に見かけるようになる。喜ばしいことなのだが、ありがた迷惑なあだ名を付けられてしまった。「六本木のカローラ」である。「トヨタ・カローラ」は最も成功した大衆車であり、1970年代には年間販売台数が40万台に達することもあった。要するに、どこでも走っているクルマということだ。上述のあだ名は、好景気の六本木ではBMW 3シリーズが珍しくもない存在になったということを意味している。

さすがに誇張表現であり、実際に六本木で圧倒的に多かったのは日本車だ。このあだ名が流行したのは、バブル時代に向かう当時の世相が背景にあったのだと思う。金まわりがよくなったことで輸入車ブームが加速し、クルマがステータスシンボルとみなされるようになっていた。見えのためにクルマを持つタイプのユーザーも増えていく。メカニズムの優秀性や走りのよさとは関係なく、モテアイテムとしてクルマを選ぶのだ。

1982年に登場した2代目「3シリーズ」(E30)。バブル期の日本において、異常な人気を博した。
1982年に登場した2代目「3シリーズ」(E30)。バブル期の日本において、異常な人気を博した。拡大
豊富な車形が用意されたのも2代目の特徴。1987年には、今日に受け継がれるステーションワゴン「ツーリング」がデビューしている。
豊富な車形が用意されたのも2代目の特徴。1987年には、今日に受け継がれるステーションワゴン「ツーリング」がデビューしている。拡大
従来モデルと同様、「E30」世代の「3シリーズ」はレースでも活躍した。写真はグループAのホモロゲーションモデルとして登場した初代「M3」。DTMを含むツーリングカーレースや、ラリーなどで奮闘した。
従来モデルと同様、「E30」世代の「3シリーズ」はレースでも活躍した。写真はグループAのホモロゲーションモデルとして登場した初代「M3」。DTMを含むツーリングカーレースや、ラリーなどで奮闘した。拡大
1990年に登場した3代目(E36)。従来型よりさらにサイズが拡大したいっぽうで、3ドアハッチバックの「ti」なるモデルも設定された。
1990年に登場した3代目(E36)。従来型よりさらにサイズが拡大したいっぽうで、3ドアハッチバックの「ti」なるモデルも設定された。拡大

「3シリーズ」が育んだBMWのブランドイメージ

「アッシー君(送り迎え係)」などという言葉が流行したのもこの時代である。ひどい言いようだが、クルマを持っていなければその屈辱的な役割さえ与えてもらえない。国産車では相手にされないので、“ガイシャ”を手に入れる必要がある。彼らにとってちょうどよかったのが、5ナンバーのBMW 3シリーズだった。エントリーグレードの「318i」は320万円ほどだったので、ローンを組めば手が届いたのだ。

メルセデス・ベンツからも「190E」が発売され、コンパクトなプレミアムセダンが存在感を示すようになる。こちらも「小ベンツ」なる失礼な呼び名が流通したが、モータースポーツでは3シリーズの好敵手でもあった。バブルはBMWやメルセデス・ベンツにとって不本意な時代でもあったが、日本で輸入車が一般化する過程で通らなければならない道だったともいえる。

一時の狂騒が収まると「ストレート6」の滑らかさや足まわりの優秀性に焦点が当てられ、本来の価値が理解されるようになった。1990年代に入り、3シリーズはプレミアム性を高めていく。ボディーは大型化してかつてのようなコンパクトで軽快なセダンというイメージからは離れたが、世界の自動車メーカーが開発の基準に定めるスタンダードであり続けた。

現在のBMWは、SUVが人気となって販売を伸ばしている。他メーカーとの差別化が成功しているのは、SUVであってもスポーティーというイメージがあるからだ。それは間違いなく3シリーズによって育まれたものである。新しい“ノイエクラッセ戦略”のなかで、次の3シリーズは電動化とデジタル化に重きが置かれることになるのだろう。どんな未来が構想されるにしても、3シリーズはブランドを支える柱であり続けるはずだ。

(文=鈴木真人/写真=BMW/編集=堀田剛資)

1998年に登場した4代目(E46)。この頃にはバブルの余韻もすっかり失(う)せていたが、すでにBMWのセダンは、日本でも根強い支持層を獲得していた。
1998年に登場した4代目(E46)。この頃にはバブルの余韻もすっかり失(う)せていたが、すでにBMWのセダンは、日本でも根強い支持層を獲得していた。拡大
2005年登場の5代目「E90」系は、日本人デザイナーの永島譲二氏が意匠を手がけた。
2005年登場の5代目「E90」系は、日本人デザイナーの永島譲二氏が意匠を手がけた。拡大
2011年発表の6代目「F30」系では、「3シリーズ」として初めてハイブリッド車が設定された。
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2019年発売の7代目「G20」系も、今年でデビューから満6年。最近のモデルサイクルをみると、そろそろモデルライフも終盤といえそうだが……次期型「3シリーズ」は、どんなクルマになるのだろう?
2019年発売の7代目「G20」系も、今年でデビューから満6年。最近のモデルサイクルをみると、そろそろモデルライフも終盤といえそうだが……次期型「3シリーズ」は、どんなクルマになるのだろう?拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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