メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)
間違いのない選択 2025.10.01 試乗記 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。物価高に抗する苦肉の策
コロナ禍からの半導体不足に世界的インフレだの円安だのが加わって、気づけば輸入車の価格はバンバン上がり、「ガイシャ」と呼ばれていた1980年代を思い起こさせるほど、われわれとの距離が遠ざかってしまった。一概に比べられないが、実感値としては日本車が1割くらい値上がりしたのに対して、輸入車は2~3割は上がったのではないだろうか。
これはなにもクルマに限った話ではない。オリーブオイルやコーヒーなんてコロナ禍前の2倍以上の勢いで値上がりしている。その物価高騰ぶりを知るにつけ、めちゃくちゃ企業努力しているだろうと察せられるサイゼリヤですら、粉チーズは有料になった。
もはや舶来品と呼んでいた1970年代の域に達した感さえある、その離れすぎたわれわれとの距離感を補正すべく、2025年になってインポーターは、価格体系の見直しや、装備等を工夫してお値打ち感を高めたグレードづくりなど、さまざまな工夫を施し始めた。メルセデスがSUVラインに設定する新グレード「コア」はまさに後者で、内外装は人気の仕様を保ちつつ、装備を取捨選択することで求めやすさを追求しているという。
ちなみに取材車のGLE450d 4MATICスポーツ コアの場合、カタログモデルである「GLE450d 4MATICスポーツ」との価格差は147万円。車両価格にしてほぼ1割減に達していた。そのぶん省かれた装備を精査してみると、内装はAMGラインではなく標準系のパッケージとなるほか、シート表皮がレザーから人工レザーの「ARTICO」に、オーナメントもサテンフィニッシュのウォールナットになる。装備系ではドアのオートクロージャーなどが廃されるが、機能面での見劣りは無に等しい。
とあらば、選択の境目は外板色が「オブシディアンブラック」か有償色の「MANUFAKTURオパリスホワイト」の2つしか用意されていないことだろうか。要は、自分仕様的なコンフィギュレーションには対応できないかわりに、売り切る前提で見込み発注して抑えた仕切り値を、値札に反映した……というのがコアの内実だろう。
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コストカット感は皆無
そうまでした悲壮感みたいなものは、乗り込んでみると本当に全く感じられない。ARTICOのタッチはさすがにGLE450d 4MATICスポーツのナッパレザー仕様には及ばないが、吸い付くような手触りなどはうまく再現されている。そもそもメルセデスは、「MB-TEX」に代表されるように代替材の設(しつら)えには長(た)けている。ましてや、あらゆる生活環境で活躍するパートナーとしての色合いが濃いGLEであれば、気兼ねなく掃除もできるARTICOのほうを積極的に選びたいというユーザーは少なからずいるのではないだろうか。同様に、オープンポアのウォールナットウッドパネルも、オーガニックな温かみを感じさせてくれる。
コアの設えは装備も期待値に見合っていて、先進運転支援システムもフルスペックなら、インフォテインメントにはARナビゲーション付きのMBUXが標準で搭載される。もっとも、この領域はハードもソフトも日進月歩ゆえ、普遍的な価値にはなりにくい。でもいい音を楽しみたいというニーズには、Burmesterのサラウンドシステムも標準装備して応えてくれている。個人的にはお値打ちグレードという印象はみじんもないどころか、これ以上なにを望むよ? という感じだ。
コアはパワー&ドライブトレインやサスペンションといったメカニズム系もGLE450d 4MATICスポーツに対して見劣りするところはない。「OM656M」型の3リッター直6直噴ディーゼルエンジンは48VのISGも加わるマイルドハイブリッド仕様で、最高出力367PS、最大トルク750N・mと、実用的には持て余すほどのトルクを有している。モーターは始動や駆動アシストに活躍するが、どちらの駆動力だかわからないほどに低中回転域の押し出しは力強い。トルクの質がモーターかエンジンか、区別がつかないほどともに滑らか……という点からすれば、直6の恩恵はしっかり表れているといえるだろう。もちろんパワー面での不満もあろうはずもなく、ここでも直6らしい滑らかで伸びやかな加速感が、このクルマの気持ちよさに少なからず加勢している。
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グレード選びで悩んだら
走りにおいてGLE450d 4MATICスポーツ コアの外せないセリングポイントとなっているのは、エアマチックサスペンションが標準で装備される点である。個人的にはもっと小径でもいいのにと思いつつも、標準装備の21インチタイヤでもしっとりと穏やかな乗り心地をもたらしているのは、この足まわりによるところが大きい。よりシンプルで故障要素の少ないコイルサスのほうがいいという話もあるだろうが、乗降時からオフロードモードまで、4段階で切り替えられる地上高は都市部でも降雪地でもしっかり利をもたらしてくれる。
確かに価格を抑えたとはいえ、GLE450d 4MATICスポーツ コアは、金額的にも車格的にも誰もが扱えるタマではない。が、メルセデスという枠内でのエッセンシャルなモデルという立ち位置は、見て乗って触ってみて十分納得できるものだった。いまGLEを検討するなら、そして膨大なオプションの選択が面倒なら、コアを選んでおけば間違いなし……と、そういうものになっている。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4925×2020×1780mm
ホイールベース:2995mm
車重:2480kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:367PS(270kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1350-2800rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/1300-2500rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-550rpm
タイヤ:(前)275/45R21 107Y/(後)315/40R21 111Y(ピレリPゼロPZ5)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1379万円/テスト車=1394万6000円
オプション装備:ボディーカラー<MANUFAKTURオパリスホワイト[メタリック]>(15万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:915km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:111km
使用燃料:11.16リッター(軽油)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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