クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22 デイリーコラム盗難対策は「待ったなし」
「通勤しようとガレージを見たらクルマがない!」「いつもの駐車場から、愛車の姿がこつぜんと消えている……」――自動車のユーザーにとって車両盗難は、交通事故と並ぶ、“悪夢中の悪夢”だろう。
それが、決して少なくはない。一般社団法人日本損害保険協会がまとめた「自動車盗難事故実態調査結果」によれば、国内の車両盗難の発生件数は、だいたい年間2500件ほど(2022年は2656件、2023年は2597件、2024年は2499件)。ただし、この数字はあくまで「保険金が支払われた事案の数」で、全体の一部にすぎない。警察庁が2025年3月に発表した“2024年の認知件数”が6080台というから、認知されていない悲劇も含めたらどれほどの数字が積み上がるのか、推して知るべしである。
そこで腰を上げたのが、大手自動車メーカーのトヨタだ。「ランドクルーザー」や「アルファード」をはじめ、レクサスも含めた“窃盗団に人気の8車種”だけでも、2024年の被害は3146台。新車だけでなく、年式がやや古いモデルも本命のターゲットにされているというから問題の根は深く、対応は急務となっている。
2025年12月18日に、トヨタ系販売車両への装備後付け&アップデートサービス「UPGRADE SELECTIONS by KINTO FACTORY」の名称が「TOYOTA UPGRADE FACTORY」「LEXUS UPGRADE FACTORY」へと変更されたのに合わせ、トヨタとKINTOは盗難防止アイテムの提供を本格化。新たな後付けセキュリティーシステム「Smart Upgrade Switch(スマートアップグレードスイッチ)セキュリティシステム」の展開をスタートした。
これは、ユーザー所有のスマートフォンを“第2のキー”とし幅広い盗難行為に対応するシステムで、ユーザー以外がクルマを始動できなくなるのはもちろん、音声で侵入者を威嚇したり、不正アクセスがあったことをスマホプッシュ通知などで即座にユーザーに報告したりと、車両盗難を未遂にするための機能が盛り込まれている。
工賃を含めたシステムの価格は、主要なアルファード/ヴェルファイア、ランドクルーザー用で、だいたい7万円前後。グレードや年式によっては取り付けの作業時間や費用には差が出てくる。とはいえ、無線通信機器メーカーのユピテルなどが扱う上級セキュリティーシステムが10万円~30万円くらいであることを考えると、比較的導入しやすい価格設定だといえる。そもそも、車両をよく知るトヨタの手になる製品という安心感も大きい。
ユーザーファーストで普及を目指す
実際のところ、Smart Upgrade Switchセキュリティシステムの価格は、企業努力によるリーズナブルなものといえそうだ。
“正しい取り組み”とはいえ、会社の事業である以上、採算性は無視できない。で、窃盗は多発しているわけだから、ビジネスとしては結果的に、かなりの売り上げにつながるのでは……? 製品説明会の場で開発・企画の方々に聞いてみると、「企業としてのもうけは一切考えていません」と異口同音に返された。
「せっかく買っていただいたクルマが、これほど頻繁に盗まれている状況は、メーカーとしてもお客さまにご迷惑をおかけしているわけで、申し訳ないの一言に尽きる」
「企画からして『システムを普及させて車両盗難をしっかり防ぎたい』というのが第一の願いなので、販売価格もお客さまの手が届くところ、ギリギリに設定しています」
そんな言葉の端々に、盗難撲滅への決意と熱意がにじみ出る。
ところで、Smart Upgrade Switchセキュリティシステムの操作は、スマートフォンのアプリ経由となっている。オーナーの認証も、システムのオペレーションも、ステータスの確認も、すべてスマホ。とにかく“スマホありき”で、端末を肌身離さず持つことはしない、あるいは、所持はしても操作が苦手という人には使ってもらえないのではないかという不安がよぎる。
その点、開発陣も「解錠・始動のたびにスマホを出すのは面倒くさい」と認識していて、「例えば、朝夕の通勤時間帯は防犯ロックを無効にするなど、工夫次第で手間を減らすことはできる」とアドバイスする。「そもそも想定されるターゲットユーザーは“スマホを使いこなせる方々”だし、認証(=ロック解除)用のサブアイテムをもうひとつ所持するよりも、“いつものスマホ”をツールにするほうがいいという人は多い」そうだ。
それでも難色を示す向きには? より上級のセキュリティーシステム、その名も「セキュリティシステム プレミアム」が用意されている。
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多様化により被害をなくそう
セキュリティシステム プレミアムでは、あえて“もうひとつのサブアイテム”(=セキュリティーキー)を持つのが重要なポイント。「認証できないとエンジンがかからない」のは同じだが、スマホの操作は一切要らず、車両のメインキーとセキュリティーを携帯してさえいればいい。
これまで車両メーカーは、車両側のセキュリティーシステムのレベルアップだけに注力してきたため、それを破ろうとする犯人との間で“いたちごっこ”になっていた。その点、セキュリティシステム プレミアムは、エンジンとイモビライザーの間にさらなる暗号キーを入れる、つまり、車両側とは異なる防犯メカニズムを構築しシステムそのものを独立させているため、犯人が車両側のシステムを標的にしている限り、防御が破られることはない。実際、2025年10月に同製品を発売して以来、搭載車の盗難報告はゼロという。
窃盗団の手口については随時、警察とも連携して研究しているが、盗難防止システム自体はあくまで独自開発で、ユピテルのような社外メーカーとの提携や協業、システムの共有はないそうだ。いわく、「セキュリティーシステムを開発しているほかのメーカーは、ライバルではなく仲間。お互いに全く違うコンセプトの商品を提案して、ユーザーの選択肢を増やし、盗難件数を減らしていくのが大事です」とのことだ。
それでも、開発上の難点は「さまざまな犯罪手口への対応」という。製品の性質上、「抜け穴がありました」は断じて許されない。「満遍なくカバーしなければなりませんから」という説明スタッフの表情は真剣だ。
それに、クルマのつくりがどんどん変わっていくなかで、ひとつの製品をさまざまな車種・異なる世代に搭載できるようにするのも困難がともなうとか。“トヨタ純正”ともなれば、「間違いなく搭載できて、しかも壊れない」というレベルで品質を保証する必要がある(両システムとも3年・6万kmの保証付き)。開発に際してはクルマをすべて分解して配線から検討するので、対象となるモデルをひとつ増やすだけでもコストがかさむ。
しかし開発陣は、今後の対応車種拡大に意欲的だ。取材では、「認知症の家族の運転を防止するのにも役立っていると感謝された」というエピソードも耳にした。利益を追求する話ではないにせよ、誰だって、悲劇や悪夢と縁のないクルマを積極的に選びたいと思うもの。この先、KINTOに限らず業界全体でこの取り組みが発展していくことを願うばかりだ。
(文と写真=webCG 関 顕也)
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関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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