おめでとう勝田貴元選手! WRCでの日本人34年ぶりの優勝に至る、14年の足跡
2026.03.26 デイリーコラムラリーデビューから14年での快挙!
全国1億2000万人のラリーファンの皆さま、お久しぶりです。為替や世界情勢などもろもろありまして、2025年のベルギー選手権イープル・ラリー以降は、まったく取材に行けていないヤマモトです。
さっそくですが、やりましたね勝田貴元選手! 2026年世界ラリー選手権(WRC)第3戦サファリ・ラリー・ケニアでの優勝。日本の選手のWRC優勝は、もう34年ぶりのことですよ。ボクが海外ラリーの取材を始めたのが2014年。勝田選手(以降は親しみを込めてタカで)がフィンランドで武者修行を始めたのが2015年。ほぼ同時期に海外に飛び出したんですね。そんなこともあって、トヨタのチャレンジプログラムの1期生だったタカとヒロキ(新井大輝選手)を追いかけることから、ボクの海外ラリーの取材は始まりました。
じいちゃん、父ちゃんともラリードライバーという勝田家に生まれながら、カートがバックボーンのタカ。その後はF3で活躍し、2012年の全日本ラリー選手権最終戦、新城ラリーにて「トヨタ86」でラリーデビューします。父である範彦選手とも組んでいた、北田 稔選手とのコンビで挑んだ人生初ラリーはSS3でリタイア。さっそくラリーの洗礼を浴びる結果になりました。翌2013年も新城ラリーに参戦するも、またまたリタイア。レーシングドライバーらしく高速セクションの走りには光るものがあったけど、ペースノートを使って走るラリーという競技自体への順応がまだまだかなあと、当時思った覚えがあります。
タカが初めて表彰台の頂点に立ったのは、コ・ドライバーを永山総一郎選手に変更して臨んだ2014年シーズンのこと。この年のハイランドマスターズで、ラリー参戦4戦目にして早くもクラス優勝! ただ、その後も2015年の途中までコンビを組んだ永山選手は、2018年に病気で亡くなってしまいます。ラリーのイロハを教えてくれた永山選手へ感謝の言葉と、チャンピオンになるという誓いを語ったタカの姿が、今も記憶に残っています。
武者修行を経てWRCのトップカテゴリーへ
2015年からは、フィンランドをベースにトミ・マキネンレーシングでのラリー漬けの毎日。フィンランド選手権のほかにも、欧州各国の国内戦やヨーロッパラリー選手権(ERC)、そしてWRCに参戦します。思うようなリザルトが残せないラリーが続き、暗い表情を見せるときもあったりして、ボクもどう声をかけていいか悩んだりしました。それが、2017年のWRCサルディニアで、WRC2クラス3位に入賞し、ついに海外で初ポディウムに立ちます。タフなグラベルラリーで知られるサルディニアでの3位が自信につながったのか、続くフィンランド選手権もクラス3位、総合4位でフィニッシュ。そして2018年のWRCスウェーデンで、WRC2優勝! WRCでの日本のドライバーのクラス優勝は、2007年のニュージーランドで新井敏弘選手が優勝して以来のことでした。
ここから順風満帆なラリー人生が送れるかと思いきや、一発の速さは見せるけれどクラッシュしたりマシンにトラブルが発生したりと、ラリーの神様は優しくはありませんでした。それでも2019年のフィンランド選手権SM-Itäralli(イタラリ)に、「トヨタ・ヤリスWRC」で参戦するチャンスが訪れます。初のWRカーでの実戦でしたが、ティーム・アスンマー選手やエミル・リンドホルム選手といった地元のバカっ速な若手との勝負を制して総合優勝! WRカーでの参戦はタカだけで、アスンマーやリンドホルムはR5だったから、マシン的には有利だけど、先頭走者だったタカはラリー途中から降り出したドカ雪でラッセル役に。明らかに不利な出走順だったので、ハンディはチャラってことやね、と現場で雪まみれになりながら撮影していたボクは思ったのでした。
次いで、同じくフィンランド選手権のRiihimäki-ralli(リーヒマキ・ラリ)にもヤリスWRCで参戦。このラリーにはヒョンデの育成ドライバー、ヤリ・フッツネン選手も「i20クーペWRC」で参戦しており、この育成ドライバー同士の一騎打ちはタカが勝利します。そして、この年のWRCドイツにヤリスWRCで参戦。ついにWRカーでトップカテゴリーへ挑むこととなります。このときはクルマに慣れるとともに完走して経験値を稼ぐことをテーマとして10位で完走。直前の3戦を連続リタイアしていたこともあり、最初はナーバスな表情をしていたタカでしたが、徐々に明るい顔も見せてくれました。
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テレビをつけてびっくり仰天
2020年からはWRCにトップカテゴリーからの本格参戦となりました。徐々に完走率も上がり、「一発の速さはあるけれど」という枕詞(まくらことば)は不要に。むしろ安定した走りを見せるようになります。それでも、一時はシートを失いかけるような時期もありました。
その頃、ボクはヨーロッパの国内戦やERCを中心に取材していて、WRCにはあまり通わなくなっており、タカと直接会う機会も減っていました。ぶっちゃけ、WRCへの興味も失いつつあり、「やっぱりGr.Aっしょ!」とヒストリックラリーに通ったりしていました。それでも、やっぱりどこかでタカのリザルトは気になっていて、表向きは興味ないフリをしながらリザルトやコメントを追っていました。まあなんて天邪鬼(あまのじゃく)なんでしょ。
そんなタカが、ついにWRCで優勝。本当は直接謝ったほうがいいと思うんだけど、その瞬間は、自宅でラジオを聴きながら肉じゃがつくってました。20分煮ている間にケーブルテレビのチャンネルをガチャガチャやってたら、表彰台の映像が。あー、そうだ。今週はサファリやったね、どれどれ、とよく見たら、てっぺんにタカとアーロン(コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手)の姿が。おおおお~、ごめんよ。この週末は忙しくてまったくリザルト追ってなかった。っていうかサファリがあることすら忘れてた。マジすまん! と、肉じゃがの味見をしつつ、テレビを見ていました。
フィニッシュ後、まずチームや家族への感謝を述べたのち、かつてのチームメイトでありライバルであり友人でもあるオット・タナック選手への感謝を表したタカ。その場に自分がいない悔しさを感じつつ、おいしくできた肉じゃがを食べながら、後追いで映像やリザルトを確認しました。
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速いだけで勝てる競技じゃない
今回の(今回も)サファリ・ラリーは、トップドライバーが次々に脱落するサイバルな展開となっていた様子。口の悪い方々は今回の優勝も「タナボタやろ」とか言っているんだろうけど、ラリーってのは生き残らないとダメな競技。ラリーを始めた当初のタカみたいに、一発の速さだけあってもダメなんです。速くて生き残らないと勝てない競技です。そして、あとは運。もともとサファリとは相性のいいタカだったので、きっと自信もあったんだろうなあ。映像を通して見る表情もこれまでになく落ち着いたものでした。ただひとつだけ、あえて注文するとすれば、次はサファリのような耐久的要素の強い特殊なラリーじゃなく、純粋に速さで勝つところも見てみたいな。
1992年のコートジボワールで、篠塚健次郎選手が「三菱ギャランVR-4」で勝利して以来の、日本人ドライバーのWRC優勝。わが阪神タイガースが惜しくも準優勝だった1992年のコートジボワールは、まごうことなきWRCではあるんだけど、実は主だったワークスチームは参戦していませんでした。そう、カンクネンやサインツやビアシオンは参戦していなかったんです。だからって篠塚選手の偉業がかすむわけではなく、とんでもない偉業であることは間違いありません。が、今回のタカの優勝は、オジェやエバンスやオリバーといった最強のチームメイトや、ヌービルといった他チームの猛者たちが参戦するなかでの勝利なのです。すごく価値があることなんです。
もちろん、どっちがエラいとかスゴいとかじゃない。タカのこの快挙には、篠塚センパイだけじゃなく、志半ばでラリーを去ったかつてのコンビ、永山選手も天国できっと喜んでくれてる思います。ああ、またWRC行きたくなってきたなあ。とにかく、タカとアーロン(彼にとってもトップカテゴリー初勝利!)めちゃくちゃおめでとう!
(文=山本佳吾/写真=山本佳吾、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

山本 佳吾
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