ホンダ・シビックe:HEV RS プロトタイプ(FF)
これぞ、爽快シビック 2026.04.23 試乗記 一部情報が先行公開され、正式な発表・発売を2026年6月に控えた「ホンダ・シビックe:HEV RS」のプロトタイプにクローズドコースで試乗。2ドアクーペ「プレリュード」と同じ制御技術「ホンダS+シフト」が移植された、新たな2ペダルハイブリッドスポーツの走りやいかに。なぜか売れないハイブリッド
「シビック・タイプR」の評判がいい。販売も上々だ。1997年に6代目シビックの追加車種として登場して以来、ホンダのスポーツイメージを象徴する存在であり続けている。ニュルブルクリンクで独仏の強豪とFF量産車最速の座を争い、現行モデルは2023年に7分44秒881の記録を打ち立てた。世界最高レベルの性能を持つタイプRに憧れるユーザーが今も多いというのはとても喜ばしい。
ただし、商売として考えると手放しでは喜べないのも事実である。硬派なスポーツモデルを好む層はメインストリームではない。シビックはもともと安価ながらよく走るベーシックカーとして開発された。カジュアルでポップなキャラクターを持ち、世界170カ国以上で販売されてきた世界戦略車でもある。“普通のモデル”がたくさん売れてくれることが望ましい。
日本で販売される11代目シビックはガソリン車のみでデビューし、2022年にハイブリッド車の「e:HEV」が追加された。売れ筋になることが期待されたはずだが、販売は伸び悩む。2024年に6段MTのガソリン車「RS」が追加されると人気となり、2ペダルで安楽なハイブリッドモデルを上回る売れ行きを示すようになる。乗用車の市場全体ではハイブリッド比率が6割なのに、タイプRを含めたシビックでは2、3割という異常な低さになっているのだ。
新たに投入されるシビックe:HEV RSは、困難な状況を打開する使命を担っている。燃費のいいハイブリッドでありながらスポーティーな走りが楽しめるという、いいとこ取りの欲張りなモデルだ。2ペダルだからMTが苦手なユーザーも取り込める。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「プレリュード」と同じ制御技術
MT感覚で運転できるハイブリッドスポーツというフレーズは、なんとなく聞き覚えがあるだろう。2025年に復活したプレリュードと同じコンセプトだ。パワーユニットは共通である。2モーターハイブリッドのe:HEVにホンダ初となる制御技術、ホンダS+シフトを組み合わせ、疑似的な変速を感じさせるシステムだ。さらに「アクティブサウンドコントロール」によってスピーカーから音を発生させて高揚感を高める。
プレリュードは1980年代に最強のデートカーとして人気を得たモデルであり、新型も流麗なスタイルのスペシャリティークーペだ。感性に訴える音や走りの演出が効果的である。もう少し実用寄りのシビックにも、同じような仕立てが成立するとホンダは考えたわけだ。日常での機能性を確保したうえで、走りの気持ちよさをプラスするのがシビックe:HEV RSということになる。
試乗会場は伊豆・修善寺のサイクルスポーツセンター。発表前ということでクローズドコースとなった。中低速のコーナーとアップダウンが続き、長めのストレートもある。走りの実力を試すには格好のコースだ。RSの前に、比較対象としてノーマルのシビックe:HEVが用意されていた。2リッター直4エンジンに2モーター内蔵のCVTを組み合わせたホンダが誇るハイブリッドシステムを搭載している。
ゆっくりと発進し徐々に加速していく過程では、モーターのみで走行する。上り坂でアクセルを踏み込んでいくとエンジンが発電してバッテリーに電気を送るようになるが、スムーズさは変わらない。ストレートでスピードが乗ると、エンジンが駆動力として使われる。よくできた仕組みで、快適性を保ちながら心地よい速さを提供する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
S+シフトはシンプルに
そこそこスポーティーであり、特に不満はない。ファミリーカーとして高い完成度を持ち、走りだって十分な実力だ。これで売れないのはなぜだろうと思ってしまう。特に欠点がないのはいいことだが、キャラが立っていないと受け止められているのかもしれない。良くも悪くも優等生的なのだ。
RSはそこに際立った要素を加えて魅力を高める狙いがあるに違いない。とはいえ、見た目で明確な差異をつくろうとはしていないようだ。「東京オートサロン2026」に出展されていたモデルは鮮やかなボディーカラーが目を引いたが、あれはあくまで展示用。市販モデルはノーマルとさほど変わらない。「RS」のエンブレムが付き、ヘッドランプリングやバンバーロアガーニッシュ、シャークフィンアンテナなどがブラックに塗られる程度の変更である。内装ではインパネが赤いピンストライプで飾られ、ステアリングホイールやシートに赤ステッチが施される。
e:HEV自体はノーマルモデルと同じであり、低速でモーター走行なのは同様だ。楽しくなってくるのは山岳セクションに入ってから。センターコンソールに設けられたボタンを押し、S+シフトをオンにする。エンジン音にスピーカーから発生する効果音が混ざり合い、心地よいサウンドが車内に充満する。力強い加速の後にブレーキを踏むと、自動的にエンジンの中吹かしが入って絶妙なタイミングでシフトダウン。疑似だとわかっていても気持ちいい。
S+シフトはシビック用にチューニングされ、プレリュードとは異なる仕様になった。プレリュードは「SPORT」「GT」「COMFORT」「INDIVIDUAL」のそれぞれのモードでS+シフトを選択できるようになっていたが、シビックはボタンを押すとSPORTモードのS+シフトが発動する。シンプルでわかりやすい。SPORTモードのカバーする範囲を広げ、市街地からワインディングロードまでを一手に引き受けるのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実用性に走りをプラス
プレリュードは運転が楽しくて、本気で欲しくなった。シビックe:HEV RSも自分のドライビングテクニックが向上したように感じさせるのは変わらない。プレリュードは2ドアで後席は実質的には物置きスペースとしてしか使えず、諦めざるを得なかった家族持ちも多かったと考えられる。シビックなら実用性は折り紙付きであり、これならファミリーカーになると言い張ることもできるだろう。価格も低く抑えられるはずで、ユーザーの幅は広がりそうだ。
もちろん、いいことばかりではない。乗り心地はノーマルに比べて明確に硬い。路面からの突き上げがダイレクトに伝わってくる。サスペンションは専用のチューニングを受けており、ハンドリングや旋回フィールを向上させる代わりに快適性は二の次になっているのだろう。タイヤもノーマルの「ミシュラン・パイロットスポーツ2」から「グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック6」に変更されている。シビックのスポーティーなモデルは、伝統的にグッドイヤーを採用しているそうだ。
かつてミニバンの「オデッセイ」には「アブソルート」という走りのグレードがあり、走り指向のお父さんたちに支持されていた。しかし2列目3列目の乗り心地はいまひとつで、子供たちやおじいちゃんおばあちゃんから不満の声が上がったという。その経験があるからなのか、シビックe:HEV RSはクレームが出るほどの苦痛は発生しないレベルに収まっていると感じた。
ノーマルのe:HEV同様、オールマイティーなモデルである。でも、優等生ではない。走りのキャラを際立たせ、ドライバーが積極的に選ぶクルマへとポジションチェンジを図った。すっかり忘れていたが、11代目シビックのキャッチコピーは「爽快シビック」である。e:HEV RSの登場で、このフレーズにふさわしいモデルになったと思う。
(文=鈴木真人/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
◆関連記事:ホンダが「シビックe:HEV RS」の情報を先行公開 先行予約の受け付けも開始【ニュース】
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ホンダ・シビックe:HEV RS プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1800×1410mm
ホイールベース:2735mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500pm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y XL/(後)235/40R18 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック6)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。




















































