アストンマーティンDBX S(4WD/9AT)
血沸き肉躍る 2026.06.24 試乗記 「SUVの形をしたGT」こと「アストンマーティンDBX」が、さらに高性能な「DBX S」に進化。より機敏なフットワークと、よりパワフルなエンジンを得たハイパフォーマンスSUVは、どのような体験を提供してくれるのか? 飛ぶがごとく走る英国の巨獣の実力に触れた。よりパワフルに、スポーティーに
夜明け前の首都高速をアストンマーティンDBX Sで疾走していた。エアサスペンションがもたらす乗り心地はフワリフワリの浮遊感とソリッド感が同居している。浮いているのに、タイヤの硬さは感じる。前285/35、後ろ325/30、ともに23インチの、超極太極薄、超大径サイズの「ピレリPゼロ」が甲殻類的ソリッド感の要因だろう。あ、シートもめちゃんこよい。
サスペンション自体、2024年のマイナーチェンジで改良済みだそうで、エアスプリングと電子制御ダンパーのキャリブレーションが見直され、過渡的なボディーコントロールが向上しているという。筆者の記憶のなかの小改良前の「DBX 707」より、ストローク量が減っている気がする。707はもっと、ふわり感があった。そういう意味では、よりファームになっている。
タイヤの存在感、路面からのショックが控えめになっている。と感じるのは、この個体がSUVセグメント初のマグネシウムホイールを装着していることもある。軽量で堅牢(けんろう)なマグホイールにより、バネ下重量が約19kg軽減されるという。前後でリム幅が異なるから単純に4で割る話ではないけれど、無視して割ると1輪あたり4.75kg軽い。それもあって、巨大だけど軽いシューズをそっと地面に下ろしている感じがする。
ボディーは全長5m超、全幅ほとんど2m、全高1680mm、ホイールベースは3mを超える巨体である。それが運転しているうちに、もっと小さいもの、せいぜいミドルサイズのSUVを操っているように思えてくる。ステアリングのギアレシオがDBX 707より4%、クイックに仕立てられていることもある。
なによりDBX Sの4リッターV8ツインターボは、DBX 707の707PS以上のパワーを秘めている。メルセデスAMGの「M177」型を源流とするエンジンに、先般発表された限定999台の、プラグインハイブリッドのミドエンジンスーパーカー「ヴァルハラ」で用いられたターボ技術が移植され、727PSもの高出力を、707のV8より250rpm余分に回って絞り出す。
メーカー公表値の0-200km/h加速はDBX 707比で0.3秒縮めているけれど、3.3秒の0-100km/h加速と310km/hの最高速は707と同一だとされる。してみると、727PSは「フェラーリ・プロサングエ」の725PSを上回るため、なのかもしれない。
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その加速には浮遊感すら覚える
DBXはアストンファミリーにあって、特別な存在である。数字を並べると、「DB12 S」は最高出力700PSで0-100km/h加速は3.5秒。「ヴァンテージS」は680PSで3.4秒である。DBX SはDBX 707で得た世界最速の量産SUVの一台たる称号を、さらに強固にしていることは疑いない。もっとも、そういうことは声高には主張しない。それが万事控えめをモットーとする英国流なのだ。
高層ビルに囲まれた江戸橋JCT付近の、下って上る左コーナーに進入し、エイペックスを過ぎたところでアクセルを軽く踏み込む。9段オートマチックが瞬時にギアを3つばかり落とす。それまで1300rpm程度で粛々と回っていたV8ツインターボがグオオッと雄たけびをあげる。排気システムの改良によって、V8サウンドの雷鳴ぶりは磨きがかけられている。ということだけれど、少なくとも「GT」モードでは、ちょっぴり紳士的になっている気もする。それでいながら、車重2280kgの巨体がふわりと加速する。
と、脳内に1980年の大ヒット曲が浮かんだ。♪空を飛ぶ。……スーパーSUVが舞い上がる。「TOKIO」。作詞・糸井重里。歌うはもちろん沢田研二。DBXの新たな旗艦にして、DBX 707のさらなる高性能バージョン、DBX Sは、浮遊感だけではなくて、金ピカの80年代的富裕感、高揚感をもたらす。ジュリアナ東京のお立ち台で踊っているような、じつは行ったことないのですけれど、そうじゃないかなーという、ああ、これぞウルトララグジュアリーがもたらす効能か。これぞ、SUVの形をしたスーパーカー。お金持ちってステキ。
高速クルーズは1500rpmを超えない。法定内の巡航は静かで穏やか。ひとたび右足に力を込めると、ヴァルハラゆかりの大型化されたコンプレッサータービンがひゅうんと回って圧縮した空気をエンジンに送り込む。ターボが効き始めてからのパワーの盛り上がりも強烈で、ぶおっと爆発してボディーを瞬間移動させる。このエンジンがものすごいのはワープゾーンに入ると、宇宙の果てまで続きそうなことだ。
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ナチュラルに物理法則を逸脱する
山道に至りて挙動を試す。DBX SはDBX 707比、オプションの活用で最大47kgの減量が可能になる。18kg減となるカーボンファイバー製ルーフと、19kg減となるマグネシウムホイールがその主役だ。カーボンファイバー製ルーフは低重心化を同時にもたらす。マグネシウムホイールを選ぶと自動的にルーフレールが取り外され、さらなる軽量化が図られる。軽量のポリカーボネート製ハニカムグリルも選択に含まれる。これはフロントのオーバーハング部分の軽量化につながり、すなわち運動性能を向上させる。
モードを「スポーツ」「スポーツ+」に切り替えると、足まわりがキリキリと引き締まり、エンジンのレスポンスがより敏感になる。なにより雷鳴音が大きくなる。少なくとも公道では、GTがちょうどよい。
20PSアップ、47kgのダイエットが実感できたか? といえば、う~む。わからない。というのが正直な答えだ。だけど、少なくとも小改良前のDBX 707より、重心の低いGTカーに近くなっている。もうちょっと大げさに表現すると、アストンマーティンが大型のホットハッチをつくったらこうなる、という感じ。全高が1680mmもあるのに、加減速時のノーズダイブ&スクワットも、コーナリング時のロールも、ごく穏やかで、ボディーは終始フラットに保たれる。それでいて、物理の法則にあらがっているような違和感、不自然な感じがまるでしない。そこがすごい。
カーボンセラミックブレーキの威力も、2.2tの車重を意識させることなく、たやすく減速させる。加速、減速、コーナーに進入、そして脱出! を繰り返していると、象のごとき巨体を操っていることを忘れる。これぞサラブレッド。血沸き肉躍る、スーパーSUV。いま、あなたが欲しいクルマはなんですか? と問われなば、アストンマーティンDBX S、と答えたい。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=アストンマーティン ジャパン)
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テスト車のデータ
アストンマーティンDBX S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(DIN空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:727PS(535kW)/6250rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/3000-5250rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y XL/(後)325/30ZR23 109Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:14.3リッター/100km(約7.0km/リッター、WLTPモード)
価格:3590万円/テスト車=--円
オプション装備:ボディーカラー<マコーブルー>/ブレーキキャリパー<ゴールド>/グリルフィニッシュ<軽量>/2×2ツイルカーボンファイバールーフ/リアプライバシーガラス/スモークドテールライト/グロスフィニッシュ2×2ツイルカーボンファイバー 上部パッケージ/グロスブラック 下部パッケージ/エンバイロンメント<Sレザーデュオトーン>/ヘッドライナー<Qアークティックブルー>/セカンダリーカラー<ブルーヘイズメタリック>/プライマリーカラー<Qアークティックブルー>/シートロゴ<アストンマーティンウイング>/シートベルト<ブラック>/インテリアジュエリー<ダークサテンクローム>/ステッチ<拡張コントラスト>/ステアリングホイール<スポーツホイール[ヒーター付き]>/トリムインレイ<Qグロスフィニッシュ2×2ツイルカーボンファイバー>/カーペット<オブシディアンブラック、720gsm>/刺しゅうステッチカラー<Sculpted AML wings>/ステアリングホイールカラー<Qアークティックブルー>/ステッチ<Qコートダジュールブルー>/23インチマグネシウムホイール<チタニウムグレイ>/Bowers&Wilkinsオーディオシステム/ヒーテッドシート/バッジ<エナメルウイングバッジとスクリプト>/アストンマーティン・デザイナーキー/パワーテールゲート/ワイヤレス充電/タイヤ修理キット/16方向電動調整シート/テレビチューナー/サマータイヤ/アンブレラとホルダー
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:4272km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:382.4km
使用燃料:55.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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