第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.09.02 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。
(前編に戻る)
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もともとそんなにカッコよくはなかった?
webCGほった(以下、ほった):前回は、渕野さんが「新型X5は、先代のようにはプロポーションが突き詰められていない」とおっしゃったのに対して、清水さんが「それほどでもないのでは? そもそもBMWのSUVはそんなにカッコよくなかった(笑)」と反論しかけたところで終わりました。その続きをお願いします。ファイッ!(笑)
渕野健太郎(以下、渕野):例えば、今一番美しいSUVといえばレンジローバー系ですよね。レンジローバーがなぜシンプルなのに高級に見えるかというと、すべてプロポーションに起因します。どこから見てもタイヤが踏ん張って見える。ポルシェもそう。プロポーションがしっかりしているから、スポーツカーもSUVもすべて端正に見える。BMWも元々はそうだったのに、新型X5はそこが非常にもどかしいんです。
清水草一(以下、清水):いやー。BMWのSUVって、セダン系に比べると割と適当にデザインされてたみたいに思うんですけど。「SUVだからこんなもんでいいだろ」って。歴代X5を見ても、よかったなと感じるのは初代だけで、あとは「SUVのデザインは大体でいいよ」でつくって、BMWのブランドで売ってきただけじゃないかと。先代X5もそうですよ。キドニーグリルがついてなかったら、どこにでもある中型SUVのフォルムじゃないですか?
ほった:おおっと、これは激しいカウンター。
清水:先代X5に比べると、新型は少なくとも新鮮さはあると思うんですよね。
渕野:確かに、先代の「X3」も、あまり特徴は無かったですよね。セダンやクーペと比べると、SUVに関しては個性を出すのに苦労していたのかもしれません。
清水:でしょでしょ!(笑) 「X1」も「X7」もそう。“偶数系”の、クーペSUVのモデルはちょっと違うけど。
渕野:それでもマーケットでは好評でしたよね。新型X5も、これでも受け入れられるのかな? 顔が明らかに変わったし、誰が見ても分かりやすいところはあります。ただ、やはりプロポーションの洗練度が…….。大きく見せたい欲求や空力の都合などで、バランスを悪くした感じがするんですよ。
清水:一般的には全然オッケーだと思います。自分も含め。
渕野:でも高級車ですから。
クルマを大きく見せる工夫と、その弊害
ほった:うーん。てか、新型X5って新鮮なんですかね? 大がかりに変えた割にはフロントまわり以外に個性がないじゃないですか。ワタシはむしろ、新型X5こそ顔を隠したらどこのメーカーか分からないと思いますよ。
清水:その点は先代も新型も同じと思うな。みんな「BMWのSUVだから」って買ってるわけで。
ほった:まぁ確かに、これまでのモデルも突き抜けた個性はなかったけど。
渕野:先代のX1にしろ先代X3にしろ、この世代のBMWのSUVは個性的では無かったですよね。だからこそ変えたい気持ちはわかるのですが、あのコンセプトカーのデザインを全ての車種に展開しようというのが難しかったのだと思います。
ほった:同感です。ノイエクラッセのモチーフは、SUVにはマッチしないですよ(笑)。
清水:俺も、BMWのSUVは全部現行X3系のデザインに統一してくれたらよかったのにって思うなぁ。でも外野としては、新型X5も悪くはないね、くらいです。
ほった:悪くないですか? これ。
清水:ほった君の言うとおり、顔はやせたガイコツっぽいけどね。サイドもごちゃごちゃしすぎだし。リアバンパーもディテールに走りすぎている。
渕野:確かにディテールに走ってますよね。
清水:たぶん、新しさと力強さと子供心の融合を狙ったんじゃないかな?
渕野:私としては、「ノイエクラッセはこうあるべき」というルールに縛られた結果、4輪のフェンダーを際立たせつつ、それをどうボディーと融合させるかばかりに注力したように思えます。そしてリアが絞れてない。
清水:確かにリアは絞れてないけど、ピラーから上はだいぶ絞り込んでませんか? それなりにスポーティーに見えるんじゃ?
渕野:おっしゃる通りで、日産の「キックス」(その1、その2)も似たような構成です。ただキックスは、斜め後ろから見ると、リアコンビネーションランプよりもその下のボディーのほうが外に出てるんですよ。だからプロポーションとして素直なんです。それに対して新型X5は、リアコンビランプのあたりが一番飛び出している。重心が高くて不安定に見えてしまう。
清水:これはクルマを大きく見せるためかな?
渕野:でしょうね。でもそれじゃスポーティーには見えないんです。クルマで一番大切なのはタイヤです。タイヤをどれだけ主張できるかなんです。新型X5は、タイヤよりも上の部分のボリュームが強く見える。だからタイヤが小さく見えるんです。これまでのBMWはタイヤをしっかり見せていて、スタンスよく見えたんですけど。
ほった:ボリュームのピークが上の方にあるから、サイズは大きく見えるけれど、スポーティーには見えないと。
渕野:そういうことです。
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前後フェンダーに見る新しい挑戦
清水:なるほどだけど、新型の方が先代よりカッコいいしスポーティーだと感じる人も大勢いるんじゃないかな。顔がスマートだし、ウエストラインも直線的で伸びやかに見えるので。
ほった:いやいやいやいや。“変わった感”があるからウケるとは思いますけど、素直に見てこっちのほうがカッコいいと感じるかは……。それにこれ、フェンダーまわりの表現とかは完全に「トヨタ・ランドクルーザー“300”」や「レクサスLX」の路線ですよね。それをして新しいBMWだって言われてもムリがある。そこに「グラサンかけたケツあごのドクロ」がくっついてるんだから、やっぱ理解が追い付かないですよ。
清水:ごちゃごちゃしすぎている部分はあるよね。
渕野:ほかのメーカーのデザイナーは、これを見てどう思っているんでしょうね。
ほった:いや、そんなに意識されてないんじゃないかな、このクルマ。悲しいけど、もう欧州メーカーはデザインの目標やお手本じゃなくなってきている気がします。ニューモデルの取材会で他社のデザイナーさんに「好きなブランド、参考にしているブランドはどこですか?」って聞いても、BMWの名が挙がる頻度もずいぶん減りました……。
渕野:そうでしょうね。やっぱりBMWには、「台形で低重心」という基本を貫いてほしかったな。
ほった:先代X5はスポーティーさが強めで、ボディーサイズが凝縮されて見えましたけどね。
清水:そのぶん埋没してたし、決してそんなにいいデザインじゃなかったよ。
ほった:X5が埋没したのは、初代X5からこの方、競合他車が雨後の筍みたく出てきた結果でしょう。まぁ、新しい手を打てなかったのはBMWの失策だったかもですが。
渕野:その新しい手がノイエクラッセだったのでしょうね。プロポーションや顔まわりだけじゃなく、例えばフェンダーアーチを見ても、モールをなくしてシンプルにしています。ただ、それによってボディーのボリュームの調整がさらに難しくなってしまっている。SUVにとってアーチモールは非常に重要なんですよ。例えば「マツダCX-30」にも、極端に太いモールがついているでしょう。
清水:いやー私は、あれはさすがに太すぎるなと思ってました。
渕野:確かに、もうちょっと細くてもよかったけど(笑)。とにかく「トヨタ・カローラ クロス」やキックスなんかも、これがないとデザインが成立しないんです。ここがつるっとしてたら、タイヤが小さく見えて、重ったるい印象になっちゃいます。つまりBMWは、そういうセオリーに挑戦してきたわけですが……。
清水:新型X5では、アーチモールの代わりにフェンダーにえぐりを入れたってことでしょうかね。
渕野:前回も触れたとおり、そのえぐりがまた逆効果なんです。やはりこれは実車を見て、実車の前で検証したい。
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なんだかんだ言ってもBMWは面白い
渕野:まとめますが、私はBMWが今後のデザインをどういう方向に持っていきたかったのか、最新の市販車からその意図が見えないのがもどかしいんです。
ノイエクラッセのコンセプトカーには「軽快さ」や「低重心感」が表現されていた。そのためのデザイン手法だったはずです。しかし市販車では目的より手法の方に目がいってしまい、目的を感じられなくなった。デザインでは“あるある”な話ですけどね。
ほった:SUVが主流の時代にセダンやクーペで最初のコンセプトを練っちゃった弊害が出てるんじゃないですか? 結局、辻褄が合わなくなって、コンセプトが薄まって、ワケのワカランものになってしまう(参照)。
渕野:コンセプトカーの段階でもっと煮詰めるべきでしたね。最も重要なショルダーを後から付け足したことで、デザインが破綻してしまったんだと思います。
清水:ノイエクラッセはコンセプトとしては崩壊し、フロントマスクだけが残っている状態ってことですね。シンプルにしたいという志向はあるものの、それもうまくいかず、ディテールがごちゃごちゃであると。それでも多くのユーザーは「おっ、カッコいいじゃん」と受け入れて、売れ行きは好調を維持するだろう、という結末かな。
ほった:それはカッコいいと思うからじゃなくて、BMWの新型車だからでしょう。
渕野:でもやっぱり、最新のBMWからはデザインの根本をどうしたいのかが見えてこない。その迷いはお客さんにも伝わるんじゃないかな? 今後の販売動向を注視したいです。
清水:確かに今のBMWのデザインは世界の一級品じゃないし、ドイツ御三家全体もデザイン面で地盤沈下してるけど、それでもやっぱり御三家のブランド力は盤石でしょう。
渕野:まぁそうなのでしょうけどね。私自身、BMWが好きだからこそ、こんなに熱くなってしまうんです。かつてはデザインのお手本でしたから。
ほった:ワタシらがピュアすぎるんですかねぇ。
渕野:どうでしょう。しかしBMWは話題が尽きないですね! アルピナもリボーンしますし(その1、その2)、とにかくいろいろなバリエーションが出てくる。この開発力はやっぱりスゴいですよ。
ほった:確かに、こうして話していて一番面白いメーカーがBMWだってことは、間違いないですね。
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=BMW、ジャガーランドローバー、トヨタ自動車、日産自動車/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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