シトロエンDS3 シック(FF/4AT)【ブリーフテスト】
シトロエンDS3 シック(FF/4AT) 2010.06.29 試乗記 ……272.0万円総合評価……★★★★
シトロエンのプレミアムライン「DS」シリーズのコンパクトハッチ「DS3」。4AT搭載のベーシックグレード「シック」の使い勝手、走りを細かくチェックした。
フランス車らしさより、フランスらしさ
朝の東名高速を東京から西へ向かっていると、パリのオフィスへとオートルートを走るフランスのビジネスマン気分になってきた。なぜそんな錯覚を抱いたのか。この日ドライブしていた「シトロエンDS3」のためだ。
「アンチレトロ」をコンセプトに掲げているとおり、DS3は半世紀前に誕生した名車「DS」のリメイクではない。フローティングルーフはDSからのフィードバックというが、それ以外はモダンでクールなデザインに統一されている。
走りのシトロエンらしさも、同じプラットフォームを使った「C3」より薄味だ。それ以前に、あらゆる路面で快適な乗り心地、高速道路での盤石の安定性、粘り強いロードホールディングなど、基本性能の高さが印象に残る。
でも個性がないわけじゃない。たしかにシトロエンっぽさはあまり感じないが、いまのフランス、いまのパリの雰囲気は、デザインにも走りにも漂っている。だからパリに通勤するフランス人になったような錯覚を抱いたのだろう。
そもそも「シトロエンらしさ」や「フランス車らしさ」は、過去に基づく判断であることに注意しなければいけない。DS3がアンチレトロを掲げたのは、旧来のイメージときれいさっぱり決別し、いまの視点でのブランドイメージを構築したかったからじゃないだろうか。
手法は異なるにせよ、現状からの脱却を図ったという点では、半世紀前のDSも今回のDS3も変わらない。フランス車好きよりもフランス好き、それも現代美術や最新クラブ事情などに興味を持つ人のほうが、このクルマに引かれるのではないかという印象を持った。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「DS3」は、シトロエンのプレミアムラインを担う「DS」シリーズ第一弾として登場した、3ドアハッチバック。プラットフォームを「C3」と共用するが、足まわりは、よりスポーティにしつけられており、装備も含めてC3より上級という位置づけとなる。エクステリア/インテリアカラーやディテールを、カスタマイズできることもアピールポイントの一つ。
グレードは1.6リッターNAエンジン+4ATの「シック」と、1.6リッターターボ+6MTの「スポーツシック」の2種が用意される。
(グレード概要)
ATのDS3に乗ろうとすると、自然とベーシックグレードの「シック」を選ぶことになる。1.6リッター直4エンジンはC3と同型で、最高出力120psと最大トルク16.3kgmを発生する。「スポーツシック」に比べ、外装のクロームデコレーションやインテリアのアルミペダルが省略されるほか、テールパイプは1本出し、シートはファブリック地、16インチタイヤ採用という違いがある。ただし試乗車はオプションとなる「レザーパッケージ1」を選ぶことで、形状の違うレザーシートが装着されていた。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
C3と同じインパネは、本来DS3のためにデザインしたものだ。シャープな造形、黒と白というメリハリのある配色のおかげで、クールな雰囲気。メーターやスイッチをコンパクトにまとめた点も現代的だ。シルバーやピアノブラックを効果的に配したためもあって、質感はかつてのフランス車とは別次元にある。収納スペースが豊富なのは最近のシトロエンの美点だが、日本のユーザーはカップホルダーの不備を不満点に挙げるかもしれない。
(前席)……★★★★★
「シック」はサイドの張り出しがおだやかなファブリックシートが標準装備だが、試乗車にはオプションのレザーシートがついていた。タイトなシェイプは「スポーツシック」用に近く、太ももから背中までをカチッとホールドし、背もたれの張りもしっかり確保したうえで、分厚いクッションはもっちりした着座感が心地いい。世界に数あるスポーツシートのなかでも快適性では1、2を争う逸品であり、それが250万円級のハッチバックについていることを評価したい。
(後席)……★★★★
C3の後席に似た作りで、ルーフが低いDS3のキャビンに対しては、着座位置が高めになる。座面や背もたれの傾きは少なく、直角座りに近い姿勢になる。身長170cmの筆者が座ると、ひざの前は約10cmの空間が残り、頭上はギリギリ。ただ前席より硬めではあるが、座面の厚み、もっちりした着座感は共通で、事前の予想よりはるかに快適に過ごせる。前席との乗り心地やロードノイズの差も、驚くほど少なかった。3名掛けである点もライバルに対する優位点。もちろん中央席には3点式ベルトとヘッドレストが装備される。
(荷室)……★★★★
285リッターという容積は、兄弟にあたる「C3」の300リッターには及ばないが、「フォルクスワーゲン・ポロ」の280リッターを上回る。それを証明するように、プレミアムコンパクトとしてはかなり深く、幅や奥行きも欧州Bセグメントの平均以上。惜しむらくは後席の折り畳み方法で、6:4分割で背もたれを前に倒すだけなので高めの座面はそのまま残り、大きな段差が生じてしまう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
エンジンは静かでなめらか。3000rpmあたりでトルクが盛り上がる、回すことを好む性格だが、それ以下でも不満のない加速を演じる。音は5000rpm以上でうるさくなるけれど、そこまで使うことはめったにない。ATはC3よりスポーティなセッティングを施してあるようで、4段にもかかわらず出足はいい。トルコンのスリップが大きめなこともあり、ギア比が離れていてもシフトアップやキックダウンはスムーズにこなす。100km/hでは3000rpm近くに達するものの、静粛性が高いので回している感覚は薄く、ロードノイズも抑えられているので、快適なクルージングが堪能できた。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
街中での乗り心地は重厚だ。はるかに大きいクルマのような落ち着き感がある。なのにショックの吸収をフランス車らしく、時間を掛けてやり過ごすのが不思議である。他のシトロエンのような演出めいたフンワリ感はない。現代のコンパクトカーとして最良の快適性を突き詰めた感がある。高速でも印象は変わらず、直進性や安定性は文句なし。クルーザーとしてもクラス最良といえる。山道での身のこなしはおだやかで、加減速や操舵(そうだ)による姿勢変化は大きめだが、4本のタイヤはねっとり路面をとらえて離さない。楽しさはほどほどだが速くて安全なハンドリングだ。ドライビングプレジャーを求める人は、足を固めたターボMTの「スポーツシック」がおすすめ。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2010年6月1日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:2115km
タイヤ:(前)195/55R16(後)同じ(いずれも、ミシュラン ENERGY SAVER)
オプション装備:レザーパッケージ1(23.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:282.2km
使用燃料:25.3リッター
参考燃費:11.2km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
NEW
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。





























