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【スペック】全長×全幅×全高=4215×1830×1830mm/ホイールベース=2700mm/車重=1460kg/駆動方式=FF/1.6リッター直4DOHC16バルブ(105ps/5750rpm、15.1kgm/3750rpm)/価格=229万8000円(テスト車=233万7800円/マルチルーフレール=3万9800円)

ルノー・カングー 1.6(FF/4AT)【試乗記】

草食系ビークル 2009.10.05 試乗記 サトータケシ ルノー・カングー 1.6(FF/4AT)
…233万7800円

「Bleu Volga=ボルガ川の青」という洒落たネーミングのカラーに塗られた新型カングーは、なんとも味のあるキャラクターを備えていた。
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エバリやステイタスとは無縁のルックス

2009年9月に日本への導入が始まった新型「ルノー・カングー」に試乗しながら “草食系男子”という言葉が頭に浮かぶ。自分と同年代のギラついたアラフォーおじさんからのウケは悪いけれど、個人的には“草食系男子”ってちょっといいなぁと思うのだ。仕事仲間にも“草食系”っぽい青年が何人かいて、みんな知的でやさしい。ガツガツした上昇志向とは無縁だけれど、真面目に仕事や人生に取り組んでいるし、お金をかけずに暮らしをエンジョイしている。

そもそも、優秀でマッチョな“肉食系”だけが競争に勝ち抜いて幸せになれる、という仕組みは結構しんどいです。もちろん、“肉食系”のみなさんのおかげで社会が発展したという側面もあるでしょう。でも、いろんな人がいたほうが世の中楽しいじゃないですか。獲物の奪い合いは苦手だけれど絵や料理やサーフィンは得意、そんな人もいるほうが面白い。それはクルマだって同じじゃないかと、カングーは教えてくれたわけです。

まず、カングーのノホホンとしたルックスは、エバリやステイタスとは無縁だ。「クリオ(邦名ルーテシア)」をベースにした先代よりも、ひとクラス上の「セニック」をベースにする新型のほうが大きくて、全長で180mm、全幅で155mmも拡大している。全幅が1800mmを超えているので使い勝手が心配だったけれど、意外と小回りがきく。資料をあたってみると、最小回転半径は先代の5.2mから5.1mへと、ボディが拡大したにもかかわらず小さくなっている。エライ。

ドア下方の使いにくい位置にあったパワーウィンドウのスイッチが常識的な位置に移動したり、リアウィンドウが全開できるようになるなど、目立たない改良点もいくつか。L字のサイドブレーキレバーの形状はデザイン上のものではなく、1日で300回もの解除を繰り返すフランスの郵便局(La Poste)からのリクエストで使いやすさを追求したものだという。
ドア下方の使いにくい位置にあったパワーウィンドウのスイッチが常識的な位置に移動したり、リアウィンドウが全開できるようになるなど、目立たない改良点もいくつか。L字のサイドブレーキレバーの形状はデザイン上のものではなく、1日で300回もの解除を繰り返すフランスの郵便局(La Poste)からのリクエストで使いやすさを追求したものだという。 拡大
先代では両サイドにあった収納ボックスは、カーテンエアバッグの採用により後席の頭上に移動された。3つのボックスのように見えるが中は繋がっているので、長いものも収納可能。ボックス容量は24.4リッター。
先代では両サイドにあった収納ボックスは、カーテンエアバッグの採用により後席の頭上に移動された。3つのボックスのように見えるが中は繋がっているので、長いものも収納可能。ボックス容量は24.4リッター。 拡大
左右スライドドアと観音開きのリアゲートが備わるのは従来型と同じ。外寸は、従来型に比べて全長で180mm、全幅で155mm、全高で20mm拡大した。オプションのマルチルーフレールは、ルーフレールの一部を可動することでクロスバーとしても使える。写真はその状態。
左右スライドドアと観音開きのリアゲートが備わるのは従来型と同じ。外寸は、従来型に比べて全長で180mm、全幅で155mm、全高で20mm拡大した。オプションのマルチルーフレールは、ルーフレールの一部を可動することでクロスバーとしても使える。写真はその状態。 拡大
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ロールが楽しい、フランス車らしい乗り味

乗り込んでみると、ボディ同色の鉄板がむき出しになっていた先代よりも、かなり乗用車っぽくなっていることに気付く。工具箱っぽかった先代のほうがポップでよかったと思うけれど、そうした好みの話を除けば相変わらず質素で、ムダなものや飾りが一切ない。そのかわり、見た目は平凡なのに腰から背中にかけてをホッコリ包み込むシートの掛け心地は抜群。“シート・オブ・ザ・イヤー”というのがあれば、文句なしに1位に推したい。そういえば、華美に飾ることを嫌い、本当に必要だと思えることにお金を使うのも“草食系男子”の特徴らしい。

走り始めるとすぐに、先代からいろいろな面でリファインされていることがビンビン伝わってくる。まず、乗り心地が飛躍的によくなった。先代は時としてピョコタンすることがあったけれど、新型カングーの乗り心地はあらゆる場面でソフトだ。路面からの鋭い衝撃は、タイヤ→サスペンション→ボディと伝言ゲームを続けるうちにどんどん角がとれて、ドライバーに伝わる頃にはスーパーボールのように丸くなってしまう感じ。少し湿り気を帯びた乗り味は、かつての「ルノー・キャトル」を思わせる。

そこそこ背が高くて、しかもこれだけ乗り心地がやわらかいクルマなのに、コーナリングフォームが実に安定しているのは立派だ。ちなみに先代に比べるとホイールベースが100mm延び、トレッドもフロントで115mm、リアで125mm広がっている。状況に応じてアシスト量を16段階で自動的に変化させるという電動パワステの手応えが良好なことも手伝って、こんなカッコのクルマなのにコーナーが楽しい。ぺたーんとロールしながら、それでも4本のタイヤがきれいに地面をとらえているという、いかにもフランス車っぽい乗り味が愉快だ。

新型カングーの助手席は、座面を足元にスライドさせることでフラットな状態に倒すことができる。写真をクリックすると助手席が倒れたさまがみられます。
新型カングーの助手席は、座面を足元にスライドさせることでフラットな状態に倒すことができる。写真をクリックすると助手席が倒れたさまがみられます。 拡大
ボディ拡大に伴い、後席の居住空間は前後方向に40mm拡大。社内の計測では、最上級セダンの「ルノー・ヴェルサティス」(日本未導入)と同程度の居住を実現したという。
ボディ拡大に伴い、後席の居住空間は前後方向に40mm拡大。社内の計測では、最上級セダンの「ルノー・ヴェルサティス」(日本未導入)と同程度の居住を実現したという。 拡大
セニック用の電動パワステをベースにすることで、操舵に要する力が従来型から40%も減ったとのこと。実際に操作してみると、ステアリングが軽くなったことよりも作動がスムーズになったことが印象的だった。社内計測値では、従来型よりも走行時のノイズが50%減ったとのことだけれど、確かに静かになっていた。
セニック用の電動パワステをベースにすることで、操舵に要する力が従来型から40%も減ったとのこと。実際に操作してみると、ステアリングが軽くなったことよりも作動がスムーズになったことが印象的だった。社内計測値では、従来型よりも走行時のノイズが50%減ったとのことだけれど、確かに静かになっていた。 拡大

まさにお値打ちプライス

エンジンの排気量は先代と同じ1.6リッターなので、速さは期待できない。というか、はっきり言って遅い。それなのに遅さが気にならなくなったのは、4ATのセッティングが洗練されたからだろう。新型カングーでは、ATの存在感がいい意味で薄くなった。先代では、「変速は遅い」とか「ショックが大きい」とか、ATが“悪目立ち”していたのだ。正直、追い越し車線で他人と競うような場面ではキックダウンのレスポンスが悪いといった不満も感じる。でも、ま、速さを競うようなクルマじゃありませんから。のんびり走るぶんには、まったく不満は感じないし、どうしても気になる方は5MTを選ぶという手もある。

というわけで、乗り心地、シート、安定性、トランスミッションと、新型カングーのモデルチェンジはいいことばかり。唯一の気がかりは1800mmを超えた全幅だけど、ボディ拡大によって後席の足元スペースが4cmも増え、後席居住空間はヘタな高級サルーン顔負けの広さだ。力の入れ具合にちょっとしたコツと慣れが必要だけれど、「8歳の子どもの力で扱える」というコンセプトで設計されたシートアレンジは確かによくできている。これだけのプラス査定にもかかわらず、お値段は従来型からほとんど据え置き。これをお値打ち価格と言わずなんといいましょうか。と、ジャパネットたかたみたいになっていますが、ホントにそう思います。

ルノー・カングーで走行車線をのんびり流していると、「パワーゲームからは降りました」と白旗を掲げているような気分になってくる。で、見栄を張るための消費はバカらしいとか、本当に欲しいものを見極める賢さを身につけようとか、草食系男子の見習うべき点について考えていてハッとする。草食系男子のそういう姿勢って、「ルノー・キャトル」や「ルノー・エクスプレス」や「シトロエン2CV」を愛したフランス車乗りと共通しているのではないか。ここに、「フランス車好き=元祖・草食系」という新(珍?)説を唱えて、本稿の締めとさせていただきます。

(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

荷室の最大積載重量は530kg、トノカバーにも50kgまでの重量ならモノを置くことができる。
写真をクリックするとトノカバーのアレンジがみられます。
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ルノー・カングー 1.6(FF/4AT)【試乗記】の画像 拡大
1997年のデビュー以来、初代カングーは全世界で250万台を売るスマッシュヒットとなった。日本市場でも2002年の導入以来、延べ9000台が販売され、ルノー・ジャポンの売り上げ台数の約50%を占めている。世界的に商用ユースと乗用ユースの比率はほぼ50対50とのことで、ファミリーカーとしての利便性を向上させるために新型はボディサイズを拡大。プラットフォームは先代のクリオからセニックへと、1階級“格上げ”された。
1997年のデビュー以来、初代カングーは全世界で250万台を売るスマッシュヒットとなった。日本市場でも2002年の導入以来、延べ9000台が販売され、ルノー・ジャポンの売り上げ台数の約50%を占めている。世界的に商用ユースと乗用ユースの比率はほぼ50対50とのことで、ファミリーカーとしての利便性を向上させるために新型はボディサイズを拡大。プラットフォームは先代のクリオからセニックへと、1階級“格上げ”された。 拡大
サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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