ボルボXC70 3.2SE(4WD/6AT)【試乗記】
普段のアシ 2007.12.13 試乗記 ボルボXC70 3.2SE(4WD/6AT)……760万8000円
ボルボの主力ワゴン「V70」とともに一新された、オフロードテイストの「XC70」。日本上陸をはたした新型を、北東北の道でさっそく試した。
さらに豪華に逞しく
1996年にボルボは「クロスカントリー」という呼び名の、エステートと本格的オフローダーとの中間に位置する実用本位の車種を発表した。これこそもっともボルボ的なクルマとして評価され、「XC」は新たなセグメントを開拓した。今回新しくなったV70シリーズにも当然ながら「XC70」として君臨する。
今度はS80がベースとなり、ひとまわり大きくなったV70であるが、XC70の方はさらにたくましく、かつ豪華な装いを持つ。ラジエーターグリルは開口部をより大きくし、格子も粗く豪壮さを強めている。チンスポイラーを兼ねるプロテクターなども、材質や色の違いなどから、V70より派手にみえる。
内容の改良点で大きいのはエンジン。5気筒から6気筒になった。この直列6気筒はボルボの手で新設計されたもので、これまでの5気筒より全長で3mm長いだけのコンパクトサイズを特徴とする。
と言っても、魔法が使えるわけもなく、ボアピッチ91mmはBMWなどと一緒。NA3.2リッターの排気量を得るピストン径は84mmのものが6個並び、シリンダー壁の厚みはちゃんと7mm確保されているから、耐久性も十分に考慮されている。排気量の確保はロングストロークに頼ることになり、中低速トルクの確保という実用上有利な特性を得ている。
補器類をギアボックスの上に集めたり、クランクケースの中に内蔵させたりしたのが、エンジン長を抑えるための“裏技”だ。
長い6気筒エンジンは横向きに置かれる。衝突の際に受け止める間口が広く、縦置きに比べてクラッシュ時にエンジンが室内に侵入する度合いが低い。ボルボの安全面重視の哲学は、よく知られることだ。
進化した心臓に、マル
直6エンジンはイイ音を奏で、期待が高まる。すこし前の時代のエンジンはコグドベルトでカムシャフトを回していたせいか、フーとかヒューとか風を切るような音質のものが多かったが、コレは金属的な硬質の音が戻ってきたように感じる。十分に押し殺されてはいるが、クアーっというような“歯車集団の合唱”となり、加速時には心地よい高音が聞こえる。独特な波長の5気筒とは違って、滑らかで落ちついたリズム感もあわせもつ。
パワー的には、現代のエンジンらしい。特定のピークは持たないが、出力はまんべんなく豊富で、6段ATの細分化されたギア比も手伝って、右足の力のこめ方に従って供給される。穏やかで経済的な運転をしたい時には、2000rpm程度でシフトアップさせることも可能だし、深く踏み続ければ6500rpmまで引っ張って、強引に高速域まで誘うこともできる。
すこしずつ重くなってきたとはいえ、1880kgの車重はこのクラスではいまだ軽い方で、強固なボディ剛性とあいまって動きは軽快にしてソリッドな振る舞いに終始する。パワステの操舵力は3段階にアシスト量を切り替えられる。全体に軽められたのは歓迎されるところながら、やや反力感に欠け路面フィールまで薄くなってしまったのはやりすぎだ。
電子制御サスペンション「Four-C」の、ダンパー減衰力の制御は巧くできている。操縦安定性と乗り心地のバランスもよく、フラットで快適な乗り味はボルボの常道。しかし、本革表皮のシートはやや滑り気味でコーナーではホールドしないし、減速時には前にずれがちで腰が安定しない。
![]() |
光る実用性の高さ
AWDシステムはこれまで通りハルデックス・カプリングを使用する。「ランドローバー・フリーランダー2」や「アウディTT」のシステムと基本的に同じである。後輪に伝えるトルクの大小に違いはあれど、フリーランダー2(30%)とTT(15%)はフルタイム4WDと称する。
他2車ほどのトルク差ではないが、ボルボもプリチャージによりほぼ発進時から後輪にも5%のトルクが伝わり、前輪が空転する区間は事実上なさそうである。
ただ、両者にどれだけの違いがあるかは、実際にいろいろな場面でじっくり乗り較べて試してみないとわからない。
![]() |
V70とXC70で日常的な使い勝手の違いを見ると、ロードクリアランスが45mm上がって190mm確保されている。おかげで、躊躇せずにラフロードや段差に踏み込めるのはもちろん、乗り込みの際に腰を落とさずに横移動でスッと楽に座ることができる。いったん腰を落ちつけてしまえば中はまったくの乗用車だし、高い視点による外の見晴らしもいい。だからむしろ、一見特殊なXC70を普段のアシと考える方が実用性は高いといえる。
XC70の価格は625万円、V70 3.2SEとは50万円差でしかないから、このクラスの富裕層にとっては、XC70の方が普段のアシとしても使い途は広いだろうと思われる。
![]() |
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)

笹目 二朗
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか?