アウディR8(4WD/2ペダル6MT)【短評(後編)】
優しいけれど、易しくない(後編) 2007.10.05 試乗記 アウディR8(4WD/2ペダル6MT)……1670.0万円
アウディ初の市販ミドシップスポーツ「R8」にサーキットで試乗。その走りを試す。特別付録。「チーム・ゴウ」のドライバー、荒 聖治さんに「R8」の印象を聞きました。
サーキットにて
「アウディR8」に乗っている。レースコースに出ると、これはもう水を得た魚、サーキットのR8。70km/h、110km/h付近で、スパーン! スパーン! とギアを上げていくと、回転計の針は5600、6000rpmに落ち、さらに約2000rpm超分の加速を楽しませてくれる。メーカーが公表する0-100km/h加速は4.6秒。GT3やターボといった“特殊な”911にはかなわないが、普通のナインイレブンには後塵を浴びせられる。
6段のRトロニックは「S」モードをもち、エンジンとシフトのマネジメントはよりアグレッシブになり、ギアチェンジのタイミングは完全にドライバーに任せられる。つまり、勝手にシフトアップしない。
ツインリンクもてぎのロードコースを2周もすると、それなりにクルマに馴染んできて、「このクルマは抜群に楽しいのではないか」と思い始めた。
以前、「R8はさ、いわば大きなTTだよ」とのフレーズを耳にしていたので、「速いけれど、どこか大味」といったドライブフィールを予想していたのだが、違った。
R8はV8をミドに積むスーパースポーツなれど、深いふところで穏やかに、運転者の操作に誠実に応えてくれる。アマチュアドライバーにも、“操っている”気にさせてくれる。しかも、ことさらクイックでないステアリング、順当なギア比、(サーキットでは)穏やかな足まわりが、ドライバーをリラックスさせる。
プロフェッショナルなドライバーなら、安定していいタイムを重ねられるだろう。下手は下手なりに(リポーターのことだ!)、スロットルで挙動をコントロールする快感と緊張を手にできる。ミドシップのピーキーさは影をひそめ、4WDのスタビリティが前面に出る。フロント8本、リア4本ピストンのブレーキが黙々とスピードを殺し続ける。
「優しいけれど、易しくないミドシップ」
しょうもないフレーズが、沸騰した頭のなかに浮かんできた。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏)
「だいたいコワいじゃないですか」
2004年のルマン24時間レースで、「チーム・ゴウ」(Audi Sport Japan Team Goh)のドライバーのひとりとして総合優勝を果たした荒 聖治さんに、ロードゴーイングスポーツ「R8」の印象を聞きました。
■いいところで乗れる
市販版「R8」の開発にはかかわっていないので、先日テストコースで乗ったのが初めてです。すごくいいクルマに仕上がっていますね。
コクピットに乗ったときのポジションがレーシングカーの「R8」に似ているのが印象的でした。背中を倒し気味、寝気味のドライビングポジション、手と足の位置、全体のバランス……。空調関係の3つのダイヤルは、ルマンカーのそれらを踏襲しています。レース用では、「ターボのブースト」「ミクスチャー」「エンジンマップ」と並びます。それとパドルの配置にも共通性が感じられる。落ち着いた空間になっています。
市販の「R8」は、スタビリティ、シャシーの限界の高さ、サスペンションの追従性、接地感のよさ、なによりバランスがいい。リアが落ち着いていて、どっしりしたグリップがある。リアが安定しているなかで、フロントが入っていく。
サスペンションのメカニカルグリップが高いので安定していますけど、クルマの動きのそのものは、基本的にミドシップです。ブレーキングでしっかりフロントに荷重をかければ、回頭性もいい。
加速時にトラクションがかかり、リアから押し出すようなミドシップの感覚。「フロントがボディをひっぱってアンダーステアを出す」という“FFチックな”動きはない。ミドシップの特性をうまくバランスさせて、いいところで乗れるクルマに仕上がっています。
限界が高いですね。唐突な、危ない動きが少ないので、気がつくと「すごいスピードでコーナーに入っている」クルマ。しかも攻め込んでいったときの動きはレーシングカーのようで、非常に楽しい。
ツインリンクもてぎのロードコースをR8で走ると、レースカーのときとイメージが変わりません。もちろん速度は違いますし、限界点、タイヤとかダウンフォースは、レース用につくられたクルマと差がありますけど。
ミドシップを使い切る
アウディR8は、ポルシェ911より乗りやすいと思います。ポルシェも年々進化していますが、RRのレイアウトからくる前後ピッチのバランスとか、ちょっとフロントがフワフワしているところとか……。リアに荷重がかかればいいグリップが出るんですけど、そこまでが難しい。
R8は前後バランスがすごくいい。ハンドルの切りはじめからコーナーに入って脱出するまで、ハンドルの手ごたえや接地感が大きく変わることがない。だから、速いスピードで“オン・ザ・レール”で走っている感覚を味わえる。それは、ポルシェにはない部分だと思います。
4.2リッターV8は、低回転から本当に力があります。それでも「もっとパワーを!」と感じるのは、シャシーの仕上がりがいいからでしょう。走っていると、どんどんパワーが欲しくなる、レーシングドライバーの心境になります。
市販モデルはレーシングカーと全然ちがう、……と思うじゃないですか。
でも、レースカーのR8は、すごく乗り心地がソフトで、ドライバーへの負担がすくないクルマになっている。エンジン特性にしても、4000rpmを切ったところでも、ちゃんとトルクが出る。レース中の、周回遅れにからんだり、突然雨が降ってきたり、そうしたコンディションの変化に対応しやすいわけです。予選1発の速さだけでなく、レースになっても速い速度でずっと走っていける。
ストリート仕様のR8の、エンジン特性、スタビリティの高さ、リニアなパドルシフト、そんなところはレースカーと同じ考え方でつくられていると感じます。ミドシップを安全に使い切れる。うまくつくられています。
だいたいコワイじゃないですか、ハイパフォーマンスカーって。僕らレースやってても、たとえば「デモランやってくれ」と言われると、コワイわけですよ。すごくシビアな動きをしたりして。
ところが、アウディR8は攻め込んでいっても安心感がある。一般的なドライバーにとっても、楽しめるハイパフォーマンスカーに仕上がっていると思います。
(談・荒 聖治/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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