メルセデス・ベンツGL550(4WD/7AT)【試乗記】
巨大SUVのドイツ的解釈 2007.01.13 試乗記 メルセデス・ベンツGL550(4WD/7AT)……1280.0万円
2006年10月4日に発売された、メルセデス・ベンツの新型SUV「GLクラス」。すでにSUVモデルを揃えるベンツが新たに追加した3列シート7人乗りの大型ラクシャリーモデルに試乗する。
よりオンロード向きな高級SUV
大きいとは聞いていたけれど、荒天の箱根山中、霧の中から現れたうすらでかいシルエットが次第にクルマの形になってきたとき、ちょっと不気味な感じがした。
ここのところ狂ったように上下左右にモデルレンジを広げているメルセデスの中で、「Rクラス」よりさらに大きなプレミアムSUVというか、巨大クロス、それが「GL」である。最初は「Gクラス」、つまりゲレンデバーゲンの近代化なのかと思ったが、狙いは違う。Gが最高級クロスカントリーであるのに対し、GLはフルサイズ・ラクシャリーSUVというのがメーカーの説明である。
つまりより乗用車的、よりオンロード向けで、加えてより豪華なモデルと受け取ればいい。
5ドアボディの外寸は5100×1955×1840mmと小山のように大きい。無論Gクラスよりはるかに長く幅広く、Gほどいかつくはないが、それでも威風堂々としている。
至れり尽くせりの内装
このGLの売り物はフル7シーターであることだ。本革内装の3列シートを持つが、座った瞬間に巧みな演出が施されているのに気が付いた。
通気穴付きのフロントシートはスポーティな形状になっているだけでなく、メルセデスにしてはかなりタイトでフィット感、サポートが良く、あくまでもドライバーズ・シートとしての能力を第一に追求する。
パワースイッチはメルセデス乗用車のようなドア内側のシート形状を模したものではなく、シートクッション横にあるが、ランバーサポートのスイッチをはじめとした凝った機構を操作しているうちにルフトハンザ航空のビジネスクラスのシートを思い出した。
一方、2、3列目はあくまでも快適性を重視した設計で、革の表面も通気式ではなくてソフトなグレインを出している。2列目はサイズ的にたっぷりしているし、シートヒーターも与えられる。3列目も大人二人には充分なスペースが確保される。さらにグラスサンルーフはドライバー上に加えて3列目上にも設置されているし、3列目用サイドウィンドウもパワーで開閉可能である。
無論この2、3列のクッションとバックレストを畳めばテールゲート下端に沿ったフラットで広大な荷室が生まれるが、特に3列目はリアドアから電動で畳めるようになっているのは腰痛持ちにとってはうれしい発見だった。
つまりは結構至れり尽くせりの豪華ピープルムーバーなのだ。
予想外のリファインメント
「Sクラス」のようなセレクターを操作して走り出すと、これが予想外に快適だった。5.5リッターのV8は387psと54kgmだから決して非力ではないし、特に中低速トルクは怒濤の如くとは言えないまでも、相当な力量で2.5トンの重量に対抗する。決して軽快とはいえないし、霧の山の中ではその実力はつかめなかったが、意外とハイウェイでは豪快なクルーズを演じるのではないかと感じられた。
全体的にリファインされているのも想像以上だった。振動や路面騒音は巧妙に遮断され、外の荒れた天気など全く意に介さず、乗員はまったく別世界のような豪奢な室内でくつろげる。太いタイヤがバネ下でどたばたすることもない。
一度サイズさえ掴んでしまえば、ドライバーも楽である。ステアリングはメルセデス流に多少重いし、各コントロールもそれなりにきちんと扱う必要があるが、その気になれば山の中でもちっぽけな乗用車群を追い回すことができるだろう。
結局はアメリカの巨大なSUVのドイツ的解釈で、デトロイト・アイアンに比べるなら遙かに洗練された高級SUVになっている。ただし個人的には、その価値は理解しても、どうしても好感は抱きにくかった。
(文=大川悠/写真=高橋信宏/2007年1月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。