第10回:「日豪混血プレステージサルーン」マツダ・ロードペーサーAP(1975〜77)(前編)
2006.09.13 これっきりですカー第10回:「日豪混血プレステージサルーン」マツダ・ロードペーサーAP(1975〜77)(前編)
1970年代半ば、オイルショックなどの荒波にもかかわらず、社運を賭して実用化したロータリーエンジンの可能性を信じていたマツダは、それを搭載したさまざまな車種を送り出した。日豪混血のプレステージサルーン、ロードぺーサーもそのなかの1台だった。
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■ショーファードリブン用3ナンバー車
来たる2002年8月をもって、マツダそして世界で唯一のロータリーエンジン搭載車であるRX-7の販売が中止される。後継モデルとなるRX-8の登場が噂されてはいるが、1967年5月にコスモスポーツを発売して以来連綿と続いてきたマツダロータリーの歴史が、35年をもっていったん途切れてしまうことになる。
マツダロータリー史第一部のアンカーとなったそのRX-7(FD3S)の心臓は、13Bターボと呼ばれるターボチャーチャージド・ロータリーエンジンだが、これのベースとなったNAの13B型は、そもそもは今から30年近く遡った1973年に(2代目)ルーチェロータリーAP用として登場したエンジンである。
この13B型はロータリーの主力エンジンとして、ルーチェやコスモをはじめさまざまなモデルに搭載された。なかには小型ボンネット・トラックのプロシードにこれを積んだ対米輸出専用の"ロータリーピックアップ"や、"パークウェイロータリー26"という26人乗りの小型バスといった異色のモデルもあったが、今回取り上げたこのロードペーサーAPもそのうちの1台である。
ロードペーサーAPが登場したのは、1975年3月のこと。そのちょっと前、60年代末から70年代初頭にかけて、公用車や社用車といったショーファードリブン用の国産3ナンバー車のマーケットは、日産プレジデントとトヨタ・センチュリーの2車に独占されていた。この図式はそれから30年経った今でもあまり変わりないといえばそうなのだが、それはともかくとして、当時、いくつかのメーカーがこの状況に風穴を開けようと試みた。
とはいえ、三番手以降のメーカーにその種の少量生産車を新規開発する力はない。そこで資本提携関係にある外国メーカーの大型車を輸入し、自らの販売網で売ることにしたのだった。72年から73年にかけて発表された三菱クライスラー318、いすゞステーツマン・デビルがそれである。いずれも日本の交通事情に合わせ右ハンドルである必要性からオーストラリア産で、前者はクライスラー・オーストラリアの、後者はGM傘下のホールデンの、アメリカ車でいうところのインターミディエート(中間)クラスのV8エンジン搭載セダンだった。早い話が「右ハンドルのアメ車」というわけだ。
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■国際分業の先駆け
先の2社と同様に「持たざるメーカー」であったマツダも、提携先のフォードから……とはいかなかった。マツダとフォードが資本提携を結んだのは79年。当時 "フリー"のメーカーだったマツダは、三菱やいすゞのような完成車輸入ではなく、外国メーカーから既存の車体を輸入し、それと自社の看板であるロータリーエンジンをドッキングさせるという手法によって、ロードペーサーAPを作り上げたのである。
いわば国際分業の先駆けというわけだが、ボディその他の供給元はオーストラリアのホールデン。つまりロードペーサーはステーツマン・デビルの兄弟車とも言えたわけだが、ステーツマン・デビルがホールデンの最高級モデルであったのに対し、ロードペーサーはその下に位置するホールデン・プレミアをベースとしていた。
ロードペーサーは、アメリカ車でいえばコンパクトに相当する大きさの4ドアセダンで、ボディサイズは全長×全幅×全高=4850×1885×1465mm、ホイールベース2830mm だった。参考までに当時のセンチュリーのサイズは4980×1890×1460mmだから、それと比べ全長はやや短いが幅と高さはほぼ同じだったわけだ。
これに搭載されるエンジンは、ルーチェAPグランツーリスモ用をやや中低速重視にチューンし直した13B型2ローター・ロータリーエンジン。昭和50年排ガス規制をクリアしたユニットで、これが車名にあるAP(Anti Pollution―反公害の頭文字)の由来ともなっている。総排気量654cc×2から最高出力135ps/6000rpm、最大トルク 19.0kgm/4000rpmを発生、やはりルーチェ用と基本的に同じJATOCO製の3段ATと組み合わせられた。(以下、後編に続く)
(文=田沼 哲/2002年7月10日)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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