メルセデス・ベンツR350 4MATIC(4WD/7AT)【試乗記】
すべては快適な移動のために 2006.05.23 試乗記 メルセデス・ベンツR350 4MATIC(4WD/7AT) ……783万4050円 「乗用車に求められるすべての要素を極めて高い次元で融合させた」と謳うメルセデス・ベンツのニューカマー「Rクラス」。スタイリッシュで大柄なボディに6座というパッケージングが目指すものとは?狙いはなんなんだ?
メルセデス・ベンツが送り出したまったくの新型車「Rクラス」は、スペック表を眺めただけでは一体どんなクルマなのか理解するのが難しい。
3列シートを備えると聞くと、ようするにミニバンなのかと思うのだが、実車を見るとルーフはグッと低く、リアドアもヒンジ式で、取りあえず一般的なミニバンにくくるのは違うかなという気になる。メルセデス版の大きな「オデッセイ」か……、そう納得しかけると、目に飛び込んでくるのはリアゲートに誇らしく付けられた「4MATIC」のバッヂである。すべてのグレードを4WDとするRクラスは、実はシャシーをMクラスと共用しているのだ。
室内をよく見ると、3列あるシートは実はそれぞれ2席ずつの計6人分しか用意されていない。全長は5メートル近くあるのに。しかも荷室だって最小限度でしかないのだ。果たして、その狙いはなんなんだ?
しかしこと走ることに関していえば、曖昧な部分は無い。Rクラスは非常に真っ当なクルマである。高いがSUVのようには高過ぎないドライビングポジションは、適度な囲まれ感と、開けた視界のバランスがちょうどいい。ステアリングコラム右側から生えるATセレクターには違和感を感じながらも、走り出してしまえば、何よりとても柔らかな乗り心地に頬が緩む。ソフトなサスペンションと235/65R17というハイトのあるタイヤのおかげで、あらゆるショックは角が丸められ、路面のうねりもゆったりと鷹揚にいなされる。場面によって多少の上下動が残ることもあるが、姿勢自体はフラットなので不快感は無い。3列目では時にややゴツゴツするが、2列目までなら至極快適。AIRマティックサスペンション付きのR500 4MATICは試していないので断定はできないが、これで十分満足できると感じた。
3列目でもハズレじゃない
ハンドリングは結構軽快だ。ステアリングの反応は穏やかだし、サスペンションもゆっくりストロークする味付けなのに、リア外輪の、腰で曲がるのをアシストするような絶妙な踏ん張り感もあって、ハイペースで右に左に切り返すような場面でも反応は常に正確で、とても一体感が高いのだ。
無論、直進安定性もフルタイム4WDだけに文句は無い。いや、これはメルセデスだけに、と言うべきかもしれないが、高速移動は得意中の得意だ。最高出力272psの3.5リッターV6エンジンも、2トンを超える車重に対して不足は無く、小気味良いレスポンスも相まって、4名乗車での移動中もストレスを感じることは無かった。
そんなふうにステアリングを握るのが想像以上に楽しいRクラスだが、特等席はやはり2列目ということになる。スペースはあるのにあえて2席の独立式キャプテンシートとされたおかげでゆったりとくつろげるし、着座位置が高く設定されているため見晴らしも上々だ。さらに、もし3列目に座ることになっても、Rクラスならそれは“ハズレ”ではない。頭上も足元も決して狭くはなく、十分快適に過ごすことができる。
この居心地の良さは、一般的なミニバンのように背を高くして、そのぶん3列の席間を詰め、さらに十分な荷室まで確保しようという考え方では生まれ得ないものだ。Rクラスは、そのサイズの余裕をより多くの人、多くの荷物ではなく、各乗員へのゆとりに振り分けることで、従来のミニバンには無かった贅沢感を見事演出してみせている。
しかも、シャシーは際立ったスタビリティをもつフルタイム4WD。それによって生まれた性能上のマージンは、これまた乗り心地へと費やされているのだ。
唯一、腑に落ちないところは……
そんなふうに考えると、スペック表だけではよくわからなかったRクラスの実像がクリアに見えてくる。そのパッケージングもシートレイアウトも、そしてシャシーも、すべてが乗員をひたすら快適な移動へと誘うためのもので、ようするにこれはラクシャリーカーの新しい一つの形態なのだ。そう考えると、すべてが納得できる。
いや唯一、これは良い意味で腑に落ちないのが、この内容にして、たとえば「E350ステーションワゴン4MATIC」より安価だということだ。もちろん装備内容に違いはあるにせよ、これならヒットは間違いなし!
……と言いたいところだが、日本ではそのサイズがネックとなりそう。さらに言えば、その顔つき、特にヘッドライト周辺の意匠は好き嫌いが分かれる気がする。好みの問題かもしれないが、弟分とも言うべき「Bクラス」はじめ、最近の他のメルセデスのように、もっとプレーンでも良かったのではないか?
しかしながら、そこを納得でき、そしてその新しい世界に関心を抱く人であれば、このRクラスはきっと大きな満足をもたらしてくれることは間違いない。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年5月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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