マツダMPV 23C(FF/4AT)/23Cスポーティパッケージ(FF/4AT)【試乗記】
カミさんだけに楽しませるな 2006.03.02 試乗記 マツダMPV 23C(FF/4AT)/23Cスポーティパッケージ(FF/4AT) ……344万6500円/368万8000円 マルチパーパスヴィークル(MPV)をそのまま車名にした、このセグメントの草分け的存在の「マツダMPV」がフルモデルチェンジ。スポーティなミニバンという差別化を図った新型だが、リポーターは意外なところに注目することになった。走りを予感させるルックス
1990年に登場し、日本のミニバン市場を切り開いたともいえる「MPV」がフルモデルチェンジをした。今回登場した3代目が目指すのは「スポーツカーの発想でいく次世代ピープルムーバー」である、とのことだ。
遠くに置いてある試乗車は、縮尺を間違えればプレミアム・コンパクトと錯覚するかのようなルックス。正面から見ると、なにやら走りを予感させなくもない。その理由は1850mmに及ぶ全幅と、60mm低められた全高だ。対して横から見ると、先代より110mmも伸ばされたクラス最長と謳われる2950mmというロングホイールベースで、ルーミーなミニバンらしい、伸びやかなプロポーション。
新型でのグレードは4つ。MZR2.3リッター直列4気筒を搭載する、23F、23C、23Cスポーティパッケージ。さらに同ターボエンジン搭載の23Tもラインナップする。駆動方式はFFと4WDが各グレードに用意される。
今回試乗したのは、フロントグリルをブロックパターンにしたシックな仕様の23Cと、ターボモデルと装備と外観が共通となる23Cスポーティパッケージの2種だ。
設計はスポーツカー的
「アクセラ」「アテンザ」「プレマシー」などにも搭載される、いまやマツダの主力エンジンであるMZR2.3リッターユニットは、VIS(バリアブル・インダクション・システム)によりマニホールド長を回転域によって変化させて、全域で高いトルクを発生させる。最高出力は163ps/6500rpm、最大トルクは21.4kgm/4000rpmと特に驚くほどの数値ではないながらも、1720kgにも及ぶ(4WDモデルは1830kg)巨体を、なに不自由なく走らせる。通常領域に的を絞ったエンジン特性と、ピックアップのよさ等を考え、あえて多段式ATは見送ったという4ATのギアリングの相乗効果に起因するところが大きい。
サスペンション形式は、フロントがマクファーソン・ストラットでリアはマルチリンク式。特にリアのリンク類は、室内空間の確保はもちろんだがロールセンター高を適正化するように設計がなされたという。これは従来のミニバンにはない「スポーツカー的な発想」であり、フラットで安定した走りを生み出す要因にもなっている。
さて実際の乗り味を見てみよう。215/60R17サイズのタイヤを装着するスポーティパッケージでは、タウンユースでのつっぱり感が少々目立つ。対して、23Cの標準である215/65R16タイヤでは、適度なロール感と路面からの当たりの柔らかさを感じ取ることができた。
エンジニアに話を聞くと、足まわりは両車共通で17インチをベースに開発しており、逆にその高いスタビリティに16インチを追従させるのに苦労したという。
今回の試乗会場はお台場周辺の市街地で、低速での乗り心地に注目してしまったせいもある。それなりの速度で高速道路を移動すれば、タイヤの横剛性の高さは安心感へと変わるだろう。
注目はセカンドシートだった
メーカーが謳う「スポーティ」に気を取られていたが、実は試乗会場で主役に躍り出たのはシートであった。最大8人まで乗車を可能にするシートアレンジ、785mmの両側スライドドア(クラストップ)、サードシートを使用しても9インチゴルフバッグを2セット収納できるアンダートランクなど話題は尽きないのだが、なんといっても注目はオプションで装備されたセカンドシートである。
オプション設定(23F除く)される「スーパーリラックスシート」は、「リラックスすること=身体の力を完全に抜き去ること」として考え抜かれたマツダの自信作。若干背もたれをリクラインさせ、首の角度に合わせてスイング機構付き大型ヘッドレストをフィットさせる。減速Gに対して身体をホールドさせるよう、座面が前上がりになるよう、斜めに調整できる。ビジネスクラスシートのごときオットマン(足のせ)を適度に立ち上げれば、完全リラックス体勢ができあがる。
このとき肝心なのは、オットマンにはしゃいでそれを完全に上まであげないこと。適度に床に足が着く程度が、一番疲れないのだそうだ。
そしてアームレストに腕を置き天井を見上げれば、そこにはモニターが鎮座している。エンジニアの目論み通り、私の身体は完全に弛緩した。ぜひ付けたいオプション装備である。
私は思った。こりゃカミさん用グリーンシートじゃないか。ぽりぽりとスナックを食べながら映画でも観て、最後はすかーっと眠りこける。助手席に座る子供を確保しないと、父さんはちょっと寂しい思いをするかもしれない。
だからこそ「日本の若きお父さん」はスポーティな部分で遊びたい。カミさんだけに楽しさを奪われないために。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/2006年3月)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
NEW
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。