トヨタ・ノア/ヴォクシー(CVT/CVT)【試乗記】
ヒットモデルの恩恵 2004.09.22 試乗記 トヨタ・ノア/ヴォクシー(CVT/CVT) 月間平均販売台数、約1万台(!)のミニバン、「トヨタ・ノア/ヴォクシー」。マイナーチェンジを受けた新型は、トランスミッションを4ATからCVTに変更。2列シートの新グレード「ノアYY」「ヴォクシーTRANS-X」の追加をはじめ、ラインナップも充実した。『webCG』オオサワのリポート。ちょっとコワモテ
両側スライドドアを持つトヨタの5ナンバーミニバン「ノア/ヴォクシー」が、2004年8月17日にマイナーチェンジを受けた。
デビュー間もない2002年3月単月で、それぞれ1万1180台と9750台を売り、約3年で累計50万台以上を売り上げたヒットモデルとあって、フトコロ具合にかなり余裕が出た様子。内外装のアップグレードはもちろん、エンジンの小変更とトランスミッションの全車CVT化、電動両側スライドドアをオプション設定するなど、あらゆる面で商品力の強化が図られた。「タウンエースノア」以来初めて、2列シートを備える新グレードが追加されたことも新しい。
最初に乗ったのは、ノアのスポーティグレード「S」。ヴォクシーの同種グレード「X」とともに、ステアリングホイール上のスイッチで7段シフト可能な「スポーツステアシフトマチック」を搭載する唯一のグレードである。
もともと“オニーチャン風”(?)のエクステリアだが、新型はフロントグリルやバンパー、ヘッドランプの意匠を変更し、特に顔つきがちょっとコワモテに。このグレードは専用装備として、前後大型バンパーやエアロパーツが付与され、見かけはさらにアグレッシブだ。
インテリアは、使い勝手や視認性を高めるべく、センターメーターのデザインを変更。従来の3連ダイヤル風−−左右はダイヤル上のボタンを押す仕組みだった−−エアコンスイッチは、センターに温度調節ダイヤルを残し、左右に風向き&風量コントロールスイッチを配した。シンプルだが、このほうがわかりやすいし、使いやすい。
パワートレイン
トルキーなエンジンのおかげで、4ATでも必要充分に走ったノア/ヴォクシーは、CVTを採用して、よく走るクルマになった。
上り坂でアクセルペダルを踏み込むとキックダウンはするものの、シフトショックは段付きATよりすくなく、スムーズかつ想像以上に加速する。
新型ノア/ヴォクシーは、エンジンを超希薄燃焼型から、理論空燃比で燃やす「ストイキD4」に変更。エミッションとパワーの両立を図った。一方、それだけでは燃費が悪化するため、CVTの採用には燃費向上策の意味もあるという。10・15モード燃費は従来と同じ。大ヒットによる恩恵にしても、CVT化はありがたい改良だろう。
ただし、ステアリングホイールの表でダウン、裏でアップするマニュアルモード「ステアシフトマチック」は、使い勝手がイマひとつ。ミニバンということもあるし、変速は機械にまかせた方がよさそうだ。
今回初めてCVTに対応した「AI・NAVIシフト」は、ちょっと違和感があった。ナビの地図情報から次のカーブの曲率を先読みし、シフトダウンやホールドを自動的に行う機能である。理屈では、ギア比の自由度が高いCVTにアドバンテージがあるし、技術的に面白いとも思ったが、人それぞれの運転感覚にあわせるのはかなり難しいのではないだろうか。
![]() |
![]() |
手頃な値段
次に乗ったのがノアの中核グレード「X」に、サイドリフトアップシートを付けたモデル。「アルファード」などの上級ミニバンに採用されていた、電動でせり出すシートが5ナンバーミニバンに降りてきたのも、ヒットモデルならではか。
シート横のスイッチ、またはリモコン操作により、地面にかなり近いところまでせり出すことが可能。お値段も229万5000円(福祉車両なため非課税)、ベースモデルより21万6000円アップと、ナビゲーションシステムよりお安い。いうまでもなく、304万円の「アルファードAX“Lエディション”サイドリフトアップシート装着車」よりグッと手頃だ。
ちなみに、新型はオプション装備が充実し、従来片側だった電動式スライドドアは、同じ値段で両側パワーの「デュアルパワースライドドア」(サイドリフトアップシート車は非課税で10万円、通常は10万5000円)に変更。盆暮れに家族をもてなすミニバンの理想的な姿(?)が、手頃な値段で実現できるようになった。
乗り心地などの印象は前述Sグレードとほぼ同じで、タイヤが異なるせいか若干静か。セカンドシートがキャプテンシートと同じ配列になるため、ウォークスルーしやすいこともメリットである。
ちなみに試乗車は、他のオプションとして、DVDナビゲーションシステムなどがセットになった「ノアライブサウンドシステム」(32万3000円)、サイド&カーテンエアバッグ(7万円)などが付いて、価格は282万8000円である。
![]() |
![]() |
“量”の次は“質”
新グレードの注目は、2列シートの「ヴォクシーTRANS-X」と「ノアYY」。今回試乗したのは、若者向けをより強く打ち出すヴォクシーTRANS-Xだ。
2列シート版は、タウンエースノア時代には存在したが、新型では初めて。ターゲットはアクティブなレジャーを楽しむ、30歳前後の団塊ジュニアだという。
「DIY(Do It Yourself)精神のおもむくまま、好きなように使っていただきたい」(開発スタッフ)と、お仕着せのアイテムは用意されないが、ただ3列シートを取っ払っただけでもない。荷室を上下、前後に仕切ったり、ベンチやテーブルとして応用できる、樹脂製のボードが3枚付属。「こうやって使うといいかも?」の一例を、やんわりと示してくれる。
大人数乗りにいまひとつ実感がわかない筆者にとって、3列目のないミニバンは生活感が薄れたぶん、ちょっと居心地がよい。似たようなコンセプトのクルマはいくつかあるが、背高ボディの広さは圧倒的だから、趣味に使う人は嬉しいはず。
積載量は商用車に及ばないものの、乗り心地が乗用車的であることもメリットである。
開発スタッフによれば、今の若者はミニバンに慣れた一方、3列8人乗りのポテンシャルをフルに発揮する機会が、滅多にないことも知っている。ミニバンは多人数乗車至上主義から、空間を贅沢に使えるクルマとしての傾向が強まり、たとえばキャプテンシートの需要は拡大しているそうだ。“量”の次は“質”ってことでしょうか。
ちなみに、2列シート版の台数見込みは、全体の約5%。毎月、約1万台を販売するヴォクシー/ノアだから500台売れる計算になる。大トヨタとしては販売に大きく貢献する数字ではなさそう。ヒットモデルの恩恵を受けた、いわば実験的(?)なグレードである。
(文=webCGオオサワ/写真=峰昌宏/2004年9月)

大澤 俊博
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。