ジャガーXJシリーズ(6AT)【試乗記】
何を遠慮しているのか 2003.07.10 試乗記 ジャガーXJシリーズ(6AT)【短評】 コンサバティブな外観とは裏腹に、先進のアルミモノコックボディをもつジャガーのニューXJサルーン。雨の小田原〜箱根で、自動車ジャーナリストの笹目二朗が乗った。クルマのすばらしさとは裏腹に……。
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サッと次の動作に
アルミモノコックのボディをもつ、「ジャガーXJサルーン」が早々と日本へやってきた。セビリアでの海外試乗会の段階では、まだ生産試作車だったらしく、細部の仕上げに目をつぶらなければならないところもあったが、さすがに販売される量産型はしっかり造り込まれている、というのが第一印象だ。
まず標準型の3.5リッター「XJ8 3.5」を試す。テスト車のステアリングホイール位置は右で、左ハンドルに較べると、エンジンとトランスミッションの張り出し部分が左にくる関係上、やや足元が窮屈な気もする。しかし、コーナリング時に膝で身体を支えられるから、横Gに対してはフットレストより頼りになる。“Jゲート”をもつシフトレバーは、左手で操作することになるが、むしろ右手で操作するよりこの方が自然な気がする。
3.5リッターV8は、267ps/6250rpmの最高出力と34.6kgm/4200rpmの最大トルクを発生する。パワーは十分。とにかく身軽な印象でスッと発進する。1速がやや引っ張り気味で2速に引き継がれるが、シフト時の回転落差が大きめ、加えて伸び過ぎに感じられる。1-2-3と、もっとシュンと短く吹けて3速へと送ってくれた、初期の「Sタイプ」が懐かしい。
身軽さを感じるのは、加速時より減速時の方が顕著だ。ブレーキペダルから足を放すと、通常このクラスの車はボディの慣性が残るから、もう一度ペダルを踏み込みたくなるもの。しかし、XJは足を戻すと同時に、サッと次の動作に入ることができ、即座に加速体制もとれる。当日、車種は異なるが、同じく1.7トンクラスのクルマに乗り換えるチャンスがあり、特にこの点が強烈に感じられた。
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お仕着せのエアサス
次に4.2リッターを積む「XJ8 4.2」に乗った。正直なところ、3.5リッターモデルと160万円の差は見いだしにくい。パワー差は確かにあるが、3.5で十分という手応えをもってしまった後では、それほどの魅力はない。
続いて、スポーティグレード「XJR」に乗る。4.2リッターV8をスーパーチャージャーで過給し、406ps/6100rpmの最高出力と、56.4kgm/3500rpmの最大トルクを得る。やはり、406psともなるとそれなりの差があり、魅力もある。パワーは安定性にも寄与するから、降りだした雨にもかかわらず、安心して走ることができた。
3台乗り比べてから、じっくり考えて頭のなかを整理してみた。共通している美点は、とにかくアルミボディによる、身軽さの好印象が一番。これは駆動系のソリッド感とも相まって、カシッと一体になって「動き」「止まる」ことの感動がある。ウッドパネルやレザーに囲まれた寛ぎの居住性ももちろんいい。加えて、全長5090mm、全幅1900mm、このビッグサイズの剛体の挙動そのものが、高級感を否応なく感じさせてくれる。
一方、ボディの軽さに反発するわけではないが、おなじXJサルーンでもグレード間で明確な差として感じるのは、バネ上荷重の重さが及ぼす乗り心地への貢献である。位置エネルギーの大きさは、そのまま居座る慣性重量となり、フラット感を得るのに有利だ。スーッと水平に、上下動なく進むことも高級車にとって大事な要素なのである。
この点では、車重がすこし重いXJRが勝る。3.5や4.2は、微小ながらバネ系が反発する低周波の振動を感じる。段差のハーシュネスなど単突起の挙動を観察すると、無理に押さえ込もうとする微振動が残るのだ。大袈裟にいえば「ガツン」とくる硬めのXJRの方がゲインは高い(突き上げは大きい)が、一発でスっと納まる気持ちよさがある。思うに、新しいXJに使われるエアサスは、ドイツのサプライヤーのお仕着せなのだろう。ジャガーとしてのチューニングがママならないように思えてならない。
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戦略の拙さ
試乗を終え、ニューXJの説明をうけているうちに、もらったアンケート用紙へ記入するクルマのランクが変わった。「4」から「2」へ。それは、クルマとしての“ポジショニング”の項だ。
ジャガーは、XJサルーンの価格帯を“メルセデス&BMW軍団”の下に位置づける。ここに、ジャガーのコンプレックスを感じるのだ。言い換えるなら、自信のなさの表れである。
アルミモノコックの技術を始め、高級車のなんたるかを心得ているはずのジャガーにして、戦略としての拙さが感じられる。ロールスロイスやベントレーは“別格”としても、ジャガーはその下、つまり、ドイツ製“高価格実用車”の上に君臨すべきだと思う。だから販売戦略としても、君臨させなければならない。
たとえば、ダンパーメーカーに独自のチューンを依頼し、ATメーカーに独自のギア比を注文して、たとえ車両価格があと200万円高くなっても、ジャガー独自のテイストが盛り込まれればむしろユーザーは悦ぶはずである。価格で競争するなら、3リッターV6を積む「XJ6」を投入すればいい。せっかく素晴らしいクルマをつくったのに、何を遠慮しているのかわからない。
(文=笹目二朗/写真=清水健太/2003年6月)

笹目 二朗
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