フォード・マスタング サーキット試乗会【試乗記】
進化の手綱は緩まない 2013.01.12 試乗記 フォード・マスタング V8 GTクーペ プレミアム(FR/6AT)/V6クーペ プレミアム(FR/6AT)/V8 GTコンバーチブル プレミアム(FR/6AT)……500万円/430万円/570万円
2005年のフルモデルチェンジ以来、不断の進化を続けてきたアメリカンスペシャリティーの雄「フォード・マスタング」。最新モデルの実力を、クローズドコースで確かめた。
現行モデルはこれが最後?
「フォード・マスタング」にまたまた大きな改良の手が入った。日本発売は2012年10月、アメリカ流に言えば2013年イヤーモデルとしての改良だ。
初代を思わせるレトロ(カッコよく言えばヘリテージ)デザインのマスタングは、本国では2005年デビュー、06年に日本発売された。その後、09年に外観や内装を刷新する「セミフルモデルチェンジ?」みたいな大規模な手が入っている。今回は2005年以降のリジッドアクスル(DC2プラットフォーム)としては2度目の、ボディーのプレスパネルにまでおよぶ外観チェンジということになる。
基本骨格が変わっていないのでキャビンやガラス、基本ディメンションはこれまでどおりだが、それ以外はけっこう手が入る。前後バンパー、ボンネットフード、フロントランプとグリル、リアガーニッシュ(プレス資料では“デッキリッド”と呼ぶのがアメリカっぽい)、そしてマスタングのアイコンといえるリアの3本線コンビネーションランプもLEDを使った新デザイン。インテリアではメーターパネル中央の情報ディスプレイが4.2インチのカラー液晶化されたことが新しい。
ご承知の人も多いように、マスタングは生誕50周年にあたる来年2014年に、本当のフルモデルチェンジが予定されている。ウワサによれば、来年春のニューヨークショーでベールを脱いで、同年秋に2015年モデルとして発売されるスケジュールらしい。
そのウワサを信じれば、今回の改良は残り2年のため……となるわけで「これだけやって2年でモトが取れるのか?」とひとごとながら心配になる。
ただ、マスタングは不況が叫ばれているここ数年でも米国市場だけで年間7万台強も売れるのだから、勝算は十分なのだろう。また、すでにお気付きのマッスルカーマニアもいるだろうが、この新しいグリル&ボンネットデザインは、マスタングでは初出でも、実は日本未導入のスペシャルモデル「シェルビーGT」に準じるもの。今回のデザイン変更は、モデル末期らしいマニアをくすぐるプレゼントにして、設計コストもとっくに回収済み(?)の……なかなか巧妙な手法ともいえる。
直線番長は過去の話
そんな最終進化型マスタングの試乗会は、富士スピードウェイのショートコースで行われた。しかも「V6クーペ プレミアム」、「V8 GTクーペ プレミアム」「V8 GTコンバーチブル プレミアム」という全3グレードがそろい踏み。V6の前席にもシートヒーター付きのパワーシート(左右とも)が装備されたのも今回からで、快適・機能装備はV6とV8でほとんど差がなくなったのも今回の特長だ。
マスタングをただの直線番長と疑わない時代錯誤の方々には信じられないかもしれないが、アップダウンが大きくてコース幅もせまく、コーナー曲率も小さい富士ショートコースでのV6マスタングはすこぶる軽快である。
強烈な下り坂の底にある第1コーナーでも、ブレーキは強力で、身のこなしはヒラヒラ、ステア反応は正確。マスタングはいかなる基準をもってしても小さなクルマとはいえないが、タイヤ位置をピタリと把握できる車両感覚や、濃厚なフィードバックによって、体感サイズは意外なほどコンパクトである。
特に、ノーズが軽くてエンジントルクも適度なV6は、実に安心して振り回せるスポーツクーペだ。フォード独自の“サムシフトスイッチ”(シフトノブのボタンを親指操作して、ギアが選べるマニュアルモード)が新たに採用されたことも、マスタングのスポーツカー濃度を一気に引き上げている。誤解を恐れずに言うと、「トヨタ86」あたりより安心してサーキットを楽しめるくらい。リアはなんとも古典的な(だが05年に完全新開発された)リジッドアクスルだが、安全制御をすべてカットしても、よほどのコツをつかまないとリアブレークできないくらいにシャシーファスターなクルマなのだ。
そして、これまた時代錯誤の方々には信じられないかもしれないが、マスタングは前後重量配分が素晴らしい。重いV8でも前後重量配分は例えば「日産スカイライン」と同程度。今回は正確な数値を確認できなかったが、V8の数値から想像しても、また乗り味から言っても、V6マスタングの重量配分は50:50に限りなく近いと思われる。
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マニア心をくすぐる機能とセンス
V8より圧倒的に手ごろな価格も含めて、実に魅力的なV6マスタングだが、日本ではやはりV8のほうが明らかに多く売れているのだという。日本人にとってのマスタングのイメージがわかって納得である。
フリクションロス低減などで従来モデルよりわずかに出力アップしたV8は、エンジンサウンドの音質と音量から別物のオーラ。V6より明らかにノーズヘビーで、特にサーキットでは、なんらコツいらずヒラヒラ曲がるV6とは異なり、V8ではブレーキタイミングやフェードの兆候をしっかり意識する必要がある。
しかし、ただ曲がるだけならV8のほうが簡単だ。早い話が、スタビリティー制御をすべてカットして、スロットルペダルを踏めばよい。ドライ路面でも、ホンのわずかでも横Gがかかっていれば、V8マスタングは右足ひとつでズルリといく。ハイパワーFRだと普通はボディー剛性が適度に落ちるコンバーチブルのほうが扱いやすかったりするが、さすがにこれだけズリズリだと、ソリッドに反応してくれるクーペのほうがコントロールしやすい。
……なんて生意気に書いている私だが、実際にはサーキットなのをいいことに、あっちへズリズリ、こっちへズザザザーッ、時にオツリをもらって赤面……と、マスタングに軽くヒネられただけだ。ただ、そんな私がありがたかったのは、数パターンから選べるトラクションコントロール&スタビリティー制御(フォードは“アドバンストラック”と呼ぶ)。特に独自のスポーツモードにすると横滑り防止機能の介入が遅くなるのだが、これが絶妙。私ごときの不安定な運転技術でも、適度にズリズリを楽しみつつ、しかしきちんとライントレースして走ることができた。
あと、今回の新マスタングでイチオシの新機軸に“TracApps(トラック アップ)”がある。ご想像のとおり、“トラック(サーキット)で楽しめるアプリ”という意味だ。
トラック アップはメーターパネルのカラー液晶に、Gフォースをリアルタイム表示するほか、ブレーキングや0-60mph(時速60マイル)、0-1/4マイルなどのタイム計測、そしてレースさながらのスタートカウントダウンなどが可能なエンターテインメント機能。もともと車両システムが監視しているデータを“見える化”してタイム計測をプラスしたもので、技術的にどうということはないが、それだけでもマニアは楽しい。
それにしても“デッキリッド”だの“サム(=親指)シフト”だの“トラック アップ”……と、マスタングの装備名はいちいちアメリカンネイティブな言語センスで、なんともカッコイイ。どうでもいいことだけど。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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