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第156回:進化し続ける「マツダ・ロードスター」

2012.08.13 エディターから一言 沼田 亨
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第156回:進化し続ける「マツダ・ロードスター」今回のマイナーチェンジのポイントはここだ

立ちはだかった「歩行者保護」

去る7月、「マツダ・ロードスター」がマイナーチェンジした。変更の内容については既報のとおりだが(関連記事はこちら)、要約すると「ソフトトップ車とパワーリトラクタブルハードトップ(RHT)車のキャラクターの違いを明確にする内外装の小変更」「スポーツカーならではの運転操作の楽しみを拡大する加減速コントロール性の向上」「アクティブボンネットを全車に標準装備」「グラム単位の軽量化をさらに徹底」ということである。

記してしまえば、ごく一般的なマイナーチェンジに思えるが、「内容について興味がおありでしたら、開発者から直接話を聞いていただく場を設けますが?」という誘いがマツダから届いたので、参加してみた。話を伺ったのは、開発主査の山本修弘氏と、操安性能開発グループの梅津大輔氏のお二人である。

2005年に登場した、初代から数えて3代目となる現行ロードスター(NC型)は、2008年にフロントグリルをほかのマツダ車に共通する五角形に改めるなどのフェイスリフトを実施している。今回はそれに続き2度目の化粧直しとなるが、9年間のモデルサイクルの間に一度も顔を変えなかった初代(NA型)や、途中でヘッドライトとバンパーのみを小変更した2代目(NB型)と比べて、「変えすぎ」という印象を受けた人もいるのではないだろうか。

だが、今回のマイナーチェンジは、決して目先を変えることだけが目的ではない。マツダの意向がどうであれ、外的要因によって変えなければならない部分があったのである。その要因とは、日本およびヨーロッパにおける歩行者保護のための安全基準の改定。新たな基準では、車両対歩行者の事故の際に歩行者の体が車体の下部に潜りこまず、ボンネットの上にはね上げられるようにしなくてはならない。そのためにノーズを下端に向かって突き出したような形状に整形し、チンスポイラーも装着したのである。

さらには、そうしてボンネットにはね上げられた歩行者の、頭部への衝撃を緩和するため、ボンネットとエンジンなどの間にクラッシャブルゾーン(空間)を設けなければならない。しかし、ロードスターはもともと余分な空間などないタイトな設計である。そこで、一定以上の衝撃を受けるとボンネット後端が瞬時に持ち上がり、空間を広げるアクティブボンネットを全車に採用したのだ。

マイナーチェンジを受けた新型「マツダ・ロードスター」。ソフトトップの「RS」(右)とパワーリトラクタブルハードトップの「RS RHT」。
マイナーチェンジを受けた新型「マツダ・ロードスター」。ソフトトップの「RS」(右)とパワーリトラクタブルハードトップの「RS RHT」。 拡大
2台並んだソフトトップの「RS」。右がマイナーチェンジ前の旧型、左がマイナーチェンジ後の新型である。新型はグリル開口部を拡大して奥行き感を強調、フォグランプベゼルの形状も改められた。ヘッドライトのベゼルもブラック仕上げとなり、表情がより引き締まった。
2台並んだソフトトップの「RS」。右がマイナーチェンジ前の旧型、左がマイナーチェンジ後の新型である。新型はグリル開口部を拡大して奥行き感を強調、フォグランプベゼルの形状も改められた。ヘッドライトのベゼルもブラック仕上げとなり、表情がより引き締まった。 拡大
この角度から見ると、新型(左)のマスクは下端に向かってアゴを突き出したような形状になっていることがわかる。下端にはチンスポイラーが装着され、空力性能も向上している。
この角度から見ると、新型(左)のマスクは下端に向かってアゴを突き出したような形状になっていることがわかる。下端にはチンスポイラーが装着され、空力性能も向上している。 拡大
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「人馬一体」感覚を磨き込む

アクティブボンネットの採用を決定し、開発を始めたのは2年半ほど前のことだったという。最大のネックだったのは、軽さ命のロードスターにとって、最もやっかいな問題である重量増。
「世界一軽量コンパクトな機構を目指した結果、異なるサプライヤーのセンサー/コンピューターとアクチュエーターを組み合わせてシステムを構成しました。重量は開発当初の7.1kgから4.1kgまで減らし、私の知る限りでは現在もっとも軽量なシステムです」(山本氏)
アクティブボンネットの採用による重量増は各部の「グラム単位の軽量化」でカバーし、車両全体ではマイナーチェンジ前と同じ車重に収めている。

作動させるセンサーの感度設定も難問だったという。
「人間ではなく小動物などと衝突した場合の誤作動に加えて、ジムカーナのパイロンタッチで作動したんじゃシャレになりませんからね」(山本氏)
スポーツカーならではの悩みといえるが、もちろんこの問題もクリアして最適と思われる感度を設定している。

こうした安全基準の改定による「やらねばならぬ」変更に対して、もっぱら商品力を向上させるための「ソフトトップ車とパワーリトラクタブルハードトップ(RHT)車のキャラクターの違いを明確にする内外装の小変更」については、写真とその説明を参照していただきたい。

「人馬一体」という言葉に象徴されるロードスター本来の走りの魅力をさらにブラッシュアップさせた改良点が、「スポーツカーならではの運転操作の楽しみを拡大する加減速コントロール性の向上」である。このうち加速についてはアクセルリニアリティーの改善、つまりアクセルの追従性を、よりリニアで扱いやすい特性とするために、電子スロットルの制御プログラムをさらに緻密に設定した(MT車のみ)。

「これまではアクセルの開度だけで加速量をコントロールしていたのですが、今回からそれに加えてアクセルを踏む速度でも応答性を変えています。具体的には、素早く加速させるためにアクセルをサッと踏み込んだのか、それともゆっくり加速させるためにジワーッと踏み込んだのかをコンピューターが判断して、トルクの出し方を変えているんです」(梅津氏)
これはスカイアクティブを搭載したモデルにすでに使われている手法で、それを応用したものという。

ロードスターの開発主査を務める山本修弘氏。ロータリーエンジンの研究開発を皮切りに歴代「RX-7」やルマンカーを含めたコンペティションマシンの開発にも携わった経験を持つ大ベテランである。「マツダにとって、スポーツカーを作ることは特別なことではなく、当たり前のこと」という。(写真=webCG)
ロードスターの開発主査を務める山本修弘氏。ロータリーエンジンの研究開発を皮切りに歴代「RX-7」やルマンカーを含めたコンペティションマシンの開発にも携わった経験を持つ大ベテランである。「マツダにとって、スポーツカーを作ることは特別なことではなく、当たり前のこと」という。(写真=webCG) 拡大
エンジンルーム左右両端、バルクヘッドの直前に取り付けられたアクティブボンネットのアクチュエーター。対歩行者の事故の際に、衝撃を感知するとボンネットを瞬時に70mmほど押し上げ、エンジンとの間に衝撃を吸収する空間を設ける。
エンジンルーム左右両端、バルクヘッドの直前に取り付けられたアクティブボンネットのアクチュエーター。対歩行者の事故の際に、衝撃を感知するとボンネットを瞬時に70mmほど押し上げ、エンジンとの間に衝撃を吸収する空間を設ける。 拡大
「プレミアムスポーツ」をキーワードとするパワーリトラクタブルハードトップの「RS RHT」。タンインテリアと同じくタンの本革シートを備えたオプションの「レザーパッケージ」仕様。
「プレミアムスポーツ」をキーワードとするパワーリトラクタブルハードトップの「RS RHT」。タンインテリアと同じくタンの本革シートを備えたオプションの「レザーパッケージ」仕様。 拡大

誰もがさらに楽しめる

減速については、前後の荷重移動のコントロールをより容易にするため、ブレーキブースター(マスターバック、制動倍力装置)の特性を変更した。
「そもそも人馬一体という、ロードスターの提供するスポーツドライビングの醍醐味(だいごみ)は、前後の荷重移動を積極的に使って走ることなんです。とはいうものの、その楽しみはワインディングやサーキットを攻めるような走りでなければ味わえないということではありません。荷重移動は、それこそ街中で交差点を曲がる際にも誰もが無意識のうちに行っていることですし、30〜40km/hの速度域でも、きれいに決まれば気持ちいいし、楽しめるものなんですよ」(梅津氏)

その荷重移動を行うにあたって、何より重要なのがブレーキ。止まるためではなく、走るために使うブレーキに求められるのは、ペダルの動きに対するリニアな追従性である。
「今のクルマのブレーキはたいていよく効きます。しかし、ペダルを戻したときの追従性、われわれは“戻し側”のコントロールというんですが、ペダルの戻し分に対してリニアにブレーキの効きが弱まるようなものはほとんど見当たりません。ちなみに、戻し側に気を使っている数少ない例がポルシェですね」(山本氏)

戻し側の追従性を改善すべく、ブレーキパーツのサプライヤーの協力を仰いで研究した結果、ブースターの特性が与える影響が大きいことが明らかになったため、それを変更したのだという。

アクセルリニアリティーの改善とブレーキブースターの特性変更によって、加減速のコントロール性が向上し、より扱いやすくなった新型ロードスター。エンジンもサスペンションも、そして車重もマイナーチェンジ前とまったく変わらないのに、美祢のテストコースにおけるラップタイムは、テストドライバーや一般社員など、誰が乗っても短縮された。

「運転のうまいテストドライバーは、どんなクルマでもある程度は腕でカバーしてしまうので、タイムの伸び代は一般社員のほうが大きかったですね。決して速く走るためではなく、誰もがポテンシャルを引き出せるようにという改善の目的は、達成されたと思います」(梅津氏)

ドライバーのレベルを問わず、誰もが乗りやすく、誰もがスポーツドライビングを楽しめるというのが、ロードスターの理想。それにまた一歩近づいたというわけだ。

操安性能開発グループの梅津大輔氏。まだ30歳そこそこの若手エンジニアながら、「ロードスターはかくあるべき」という強い信念を持っている。プライベートでも、二輪も四輪も大好きという。(写真=webCG)
操安性能開発グループの梅津大輔氏。まだ30歳そこそこの若手エンジニアながら、「ロードスターはかくあるべき」という強い信念を持っている。プライベートでも、二輪も四輪も大好きという。(写真=webCG) 拡大
ソフトトップ「RS」のインパネ。メーターフードを小型化して前方視界を改善するとともにタイトな雰囲気を演出し、メーターリングもダークグレー仕上げとなった。
ソフトトップ「RS」のインパネ。メーターフードを小型化して前方視界を改善するとともにタイトな雰囲気を演出し、メーターリングもダークグレー仕上げとなった。 拡大
「タイトスポーツ」をキーワードにしたソフトトップモデルは、旧型(左)ではシルバー仕上げだったインパネやステアリングホイールのスポーク、シートバックガーニッシュなどを黒に近いダークグレー仕上げとしている。
「タイトスポーツ」をキーワードにしたソフトトップモデルは、旧型(左)ではシルバー仕上げだったインパネやステアリングホイールのスポーク、シートバックガーニッシュなどを黒に近いダークグレー仕上げとしている。 拡大
最高出力170ps/7000rpm、最大トルク19.3kgm/5000rpmを発生する2リッター直4エンジンは、まったく変更なし。
最高出力170ps/7000rpm、最大トルク19.3kgm/5000rpmを発生する2リッター直4エンジンは、まったく変更なし。 拡大
「ドルフィングレーマイカ」と呼ばれる新色に塗られた「RS RHT」。17インチのアルミホイールも新たなデザインとなる。
「ドルフィングレーマイカ」と呼ばれる新色に塗られた「RS RHT」。17インチのアルミホイールも新たなデザインとなる。 拡大

アルファ・ロメオとのコラボを成功させたい

マイナーチェンジを受けた新型ロードスターは、限定車を除いてはおそらく3代目NC型のファイナルバージョンとなるだろう。となれば、そろそろ4代目となる次期モデルが気になり始める。その次期ロードスターをべースとする、アルファ・ロメオの2座オープンスポーツの開発および生産に向けて、フィアットと合意したことが先ごろ発表されただけに、なおさらである。

「歴史と文化を備えたブランドであるアルファ・ロメオとのコラボレーションは、マツダにとっても、ロードスターにとっても名誉なことであり、とてもうれしいですね。ロードスターとはまた異なる価値を持つモデルを提供して、ライトウェイトスポーツの世界を広げるという意味でも、ぜひとも成功させたいと思ってます」(山本氏)
とのことだが、そもそも次期ロードスターはどういう方向を目指しているのだろうか?
「人馬一体を追求したライトウェイトスポーツというコンセプトに、まったくブレはありません。われわれはクルマ作りに際して、常にライトウェイトスポーツを世に送り出した先達(せんだつ)に敬意を払い、世界中にたくさんのロードスター愛好家がいることを念頭に置いています。言葉を換えれば、ライトウェイトスポーツの本質と、お客さまがロードスターを愛してくださる理由を決して忘れてはならない、ということです。そう考えながらクルマ作りをしている以上、次期ロードスターの方向性も、みなさんの考えているものと必ず一致するはずです」(山本氏)

次期モデルの具体的な内容については言及されなかったが、ライトウェイトスポーツの本質である「軽さ」と、内燃機関を原点から見直し、無駄を徹底的に排除して効率を追求するというスカイアクティブのコンセプトが柱になることは間違いないだろう。

取材に赴いたマツダR&Dセンター横浜のロビーには、「ロードスター」の試作車などが展示されていた。
取材に赴いたマツダR&Dセンター横浜のロビーには、「ロードスター」の試作車などが展示されていた。 拡大
初代「ロードスター」をベースとした、クーペのスタディーモデルの姿も。
初代「ロードスター」をベースとした、クーペのスタディーモデルの姿も。 拡大
「次期ロードスターの方向性も、みなさんの考えているものと必ず一致するはずです」と山本氏。(写真=webCG)
「次期ロードスターの方向性も、みなさんの考えているものと必ず一致するはずです」と山本氏。(写真=webCG) 拡大

「誰もが思いつくが、誰もやらなかった」ライトウェイト・オープンスポーツを復活させたモデルとして、初代ロードスターが誕生したのは1989年。その明快なコンセプトと確かな商品力で世界中で大ヒットし、続々とフォロワーが生まれた。もしロードスターがなかったら、90年代の世界的なスポーツカーブームは起こらず、「メルセデス・ベンツSLK」も、「MGF」も、「フィアット・バルケッタ」も、「ホンダS2000」も、「トヨタMR-S」も登場しなかったかもしれない。

しかし、そうしたフォロワーたちの多くは長続きはしなかった。それに対して火付け役となったロードスターはデビューから20年以上たった今も健在で、累計生産台数はすでに90万台を超え、量産スポーツカーのギネス世界記録を更新し続けている。これを偉業と言わずして、何を偉業と言えばいいのか。それなのに、ロードスターがあまりに身近でフランクな存在であるがゆえに、われわれはその偉大さを実感として受け止めることができず、あって当然のように思ってしまっている節もある。

自戒の意味を込めて言うのだが、20年以上にわたってロードスターを作り続け、これから先も継続していくであろうマツダに、ロードスター乗りでなくとも、スポーツカー好きならば多少なりとも感謝しなければならないのではないだろうか。ちょうど開発主査の山本氏が、ライトウェイトスポーツを生んだ先達への敬意を忘れないように。

(文と写真=沼田 亨)

沼田 亨

沼田 亨

1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。

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