フェラーリ・カリフォルニア ハンドリング・スペチアーレ(FR/7AT)【試乗記】
別格のファンカー 2012.07.05 試乗記 フェラーリ・カリフォルニア ハンドリング・スペチアーレ(FR/7AT)……2977万8000円
30kgの軽量化と30psのパワーアップをうたう、最新型の「フェラーリ・カリフォルニア」。その走りをよりダイナミックに演出する「ハンドリング・スペチアーレ」パッケージ装着モデルを試した。
プラス30、マイナス30
フロントエンジンのV8フェラーリ、「カリフォルニア」がバージョンアップした。デビューから3年を経ての最新型は、4.3リッター直噴V8の改良でプラス30psを得て、490psとなった。リトラクタブル・ハードトップの上屋を持つアルミスペースフレームは、剛性を落とさずに30kgの軽量化を図っている。つまり、プラス30psマイナス30kg。そんなにほしがるか!? って感じだが、一方でアイドリング・ストップを備えるなどして、約1割のCO2削減も達成している。
さらにオリジナルモデルのオーナーを切歯扼腕(せっしやくわん)させるのは、今回の試乗車、「ハンドリング・スペチアーレ」(以下HS)の登場だろう。磁性流体ダンパーや強化スプリングを採用し、新しいステアリング・ラックを備えるなどで、ハンドリング(操縦性能)をいっそうシャープにしたモデルである。
2009年1月のデビュー以来、カリフォルニアをガレージに収めたオーナーの7割以上は、これがファースト・フェラーリなのだという。走行距離の平均は、これまでのフェラーリオーナーの3割増し。カリフォルニアの2割は毎日乗られている。つまりデイリーユースのフェラーリとして使われているのがカリフォルニアということになるが、その手綱をここでもう一度グイッと引き寄せたのがHSである。
HSパッケージの価格は90万円。Oh! これなら買える、という気に思わずさせるが、本体込みだと2480万円だ。
ニンマリさせられる
カリフォルニアHSに試乗したのは、台風の接近で午後から荒天が予想されるあいにくの日だった。内輪話をすると、一緒に走らせたのは「ポルシェ・パナメーラGTS」。こちらのリポートも近々、アップされるはずだが、けっして比較テストではない。とはいえ、一緒に動いていれば、どうしたって比較する。
パナメーラGTSから初めてカリフォルニアに乗り換えて走り始めたとき、ヘンな言い方だが「これはスポーツカーだ!」と思った。ステアリングが軽い。エンジンが軽い。足まわりも軽い。なにからなにまで、およそドテッとした感触がない。
7段デュアルクラッチ変速機をリアアクスルと一体化させたトランスアクスル・レイアウトのおかげで、前後重量配分はほぼイーブンだが、マイナス30kgのHSでも車重は1830kgある。しかし乗っていると、とてもそんな重量車とは思えない。前の晩に45km/hオーバーで捕まった夢を見たせいもあり、高速道路でもおとなしく走ったが、たとえ7速トップ2400rpmで平和な100km/hクルーズを続けていても、アルミフレームから伝わってくる乾いたバイブレーションが気持ちいい。それだけで思わずニンマリさせられる。
430psのパナメーラGTSに対して、新型カリフォルニアは490ps。だが、そんな数字ウンヌンはともかく、カリフォルニアのファンカー的才能は別格だ。もちろんパナメーラGTSだって、すばらしいスーパーセダンなのだが、直接乗り比べると、両車のテイストの差は明らかだった。「遊びをせんとや生まれけむ」のがフェラーリである。
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最も軽快なフェラーリ
プラス30psマイナス30kgの効果でカリフォルニアの動力性能はますます向上し、0-100km/hは4秒フラットから3.8秒に短縮された。遅かろうはずはないが、かといって、空恐ろしいほどパワフル、というわけではない。ステアリングホイールのリムに5個のレッドLEDが全点灯する7500rpmまで回しても、なんとか正気を失わずにいられる。このへんはやはり自然吸気ユニットのよさだと思う。
いつものワインディングロードを走り始めると、ほどなく雨が落ちてきた。残念である。今日はこのくらいにしといたろ、と、右足をゆるめる。そのため、ハンドリング・スペチアーレの動的性能を子細に検討することはかなわなかったが、このHSパッケージがカリフォルニアの日常性能を少しも犠牲にしていないことはたしかである。ステアリングがクイックで困ることはなにもなかったし、乗り心地は硬めだが軽快だから、なんら快適さをスポイルしていない。「最もカジュアルなフェラーリ」という看板はHSでもまったく変わらない。
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スコールのようなキレた雨降りがあたりまえになってくると、リトラクタブル・ハードトップ(RHT)はありがたい。フェラーリ初のRHTであるカリフォルニアのこれは、外からそのメカメカしい作動を見ていてもなかなかのスペクタクルだ。まるで映画の『トランスフォーマー』である。ただし、トランスフォーマーほど丈夫ではなさそうで、開閉の分解フォトを撮るために、止めたり動かしたりしていたら、「システム・オーバーヒート」という警告が出て、しばらく開けられなくなった。
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でも、最近のフェラーリには7年間無料のメンテナンスプログラムが標準装備されるようになった。これだけの長期間フリーは世界初だそうだ。人ごととはいえ、うらやましい。もちろん、クルマが高いからこそできることなのだろうが。そのうち「ガソリン代も無料!」ということには、ならないですね。ちなみに、約300kmのワンデイツーリングで、燃費(満タン法)は6.2km/リッターだった。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。