アウディS4(4WD/7AT)【試乗記】
「名人」みたいなクルマ 2012.06.18 試乗記 アウディS4(4WD/7AT)……854万円
「アウディA4」のスポーティーバージョンにあたる「S4」。フェイスリフトが実施された最新モデルを駆り、その走りや乗り心地を試してみた。
意外なくらい、おとなしい
アウディの“4番”のなかでも別格の存在が「S4」だ。
振り返ると、現行S4がデビューしたのは2008年。5代目に切り替わったそのときに、エンジンが4.2リッターV8から3リッター直噴V6スーパーチャージャーに替わった。パワーは「A4 2.0 TFSI」(180ps)から約8割アップの333ps。S4はもちろん4WDだが、799万円の価格もA4 2.0 TFSI(440万円)の8割増し。まさに別格の4番である。
直近のマイナーチェンジで3リッタースーパーチャージャーユニットにもアイドリングストップ機構が付いた。その最新型S4をアウディジャパンでピックアップして目黒通りを走り始めたとき、「あれっ、A4を借りちゃったか!?」と思った。
ステアリングもペダルもフツーに軽い。なによりエンジンが静かだ。アイドリングでもボーボー言わない。その600rpmだって少し走ったら暖機が終わり、アイドリングストップに入る。
そういえば、乗る前に一瞥(いちべつ)した外観も、S4にしてはおとなしく見えた。赤いボディーカラーは、ニュータウンの奥サマが乗っているA4っぽかったし……。いや、きっちりしたアウディ広報のIさんに限って、そんな赤ん坊の取り違えみたいな貸し出しをするわけがない。なんて、いっとき本当に考えてしまったのは、その日、『webCG』でもう1台、A4を借りるという話を聞いていたからなのだが、それよりも、というか、それくらい最新S4はお行儀のいいクルマだったのだ。
しかし、A4かもしれない疑惑は、その後すぐステアリングホイールのS4エンブレムを発見して難なく晴れる。
荒々しさのない速さ
しかるべき場所へ行って、右足を深く踏み込み、サスペンションに大入力を与えると、S4はすばらしく速いクルマである。それもそのはず、0-100km/hは5秒フラット。新型「ポルシェ911カレラ」(4.8秒)に肉薄する速さなのだ。
しかし、たとえ全開走行中でも体育会系的なバンカラさはみじんもない。それまではA4のように静穏だったのに、飛ばせば飛ばすほどS4が“出てくる”感じがする。けれども、乗り心地を含めて、荒々しさはまったく出てこない。それがこのスピードセダンの芸風だ。
直噴3リッターV6はトップエンドまで澄み切ったように滑らかに回る。ドライブセレクトで“ダイナミック”を選ぶと、排気音が少し高まるが、それも抑制のきいたまろやかな音色だ。S4がボーボー言っていたのはV8時代までである。
そんなエンジンにシャシーも見事にマッチしている。足まわりは333psのスーパースポーツセダンのわりにしなやかだ。18インチホイールに245/40を履くのに、バネ下の印象も軽い。車重が1.8トンもあるなんて、とても信じられないほど身軽である。ダイナミックモードだとサスペンションは明確に硬くなるが、公道のワインディングロードではノーマルで十分。そのほうがむしろしなやかな軽快感があって楽しい。
今のアウディはライバルたちと比べても大柄だ。S4も全長4.7m超、全幅1.8m超。もはやコンパクトとはいえないサイズだが、走りだせば常に低重心を実感させるのもうれしい。
見方によっちゃ、高くない
ドライブセレクトを「効率」モードにすると、S4は最も経済的な走行を心がける。これがけっこう強力で、V6エンジンが片肺になったかと思うほどスロットルレスポンスが悪くなる。
アクセルをかなり踏み込んでも7段のSトロニックはキックダウンしなくなる。試乗中はほとんどノーマルモードで走ったが、約300kmをあとにして、燃費(満タン法)は7.8km/リッターだった。A4だと思うと物足りないが、S4ならこんなものだろう。
最初、A4と間違えたほどのマナーのよさには正直言って戸惑いを覚えたが、しばらく乗るうちにこのクルマのスゴさが理解できた。返却するときには、すっかりほれていた。
究極の日本酒は水の如し、みたいな言い方をされても、下戸(げこ)なのでわからないが、S4は「名人」みたいなスーパースポーツセダンである。速いコンピューターが、うるさかったりはしない。すごい速いけど、そのかわりやたら振動が出る、なんていうコンピューターはない。クルマの持つリアルな速さも、そんな境地に到達したのかなと、新型S4は思わせてくれる。速いからといって、ボーボー言う時代はもう終わったのだ。
アダプティブクルーズコントロールなどのオプションを備える試乗車は、かるく800万円を超す。ポルシェだってロータスだって買えるお値段だ。でも、ウイークデイは奥サマの従順なお使いグルマとして仕え、一方、週末はサーキットへ家族を乗せてスポーツ走行に行くのもよし。A4とS4がオールインワンと思えば高くないかもしれない。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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