第319回:懐かしのサイクル走行会「エロイカ」でGO!
2013.10.25 マッキナ あらモーダ!近所でビンテージ自転車イベント!?
ここのところクルマの話が続いたので、今週はちょっとムードを変えよう。
ボクが住むイタリア・シエナでは、自転車のマークとともに「L'Eroica」と記された道路標識が設置されて久しい。
最初は気にとめなかったが、やがてさまざまな所で見かけるようになった。調べてみると「L'Eroica(エロイカ)」とは、県の観光局がサイクリングツーリズム振興のために、カントリーロードを結んだ自転車周遊コースの名称だった。
「Eroica」とはイタリア語で「英雄的な」を意味する。往年のロードレーサーたちをほうふつとさせるに、ふさわしい名前だ。
少し前のことである。そのルートで「エロイカ・ストリカ」と名付けられたイベントがあることを知った。そのイベントの始まりは1997年。実は、前述の道路標識は、そのイベントのルートを一年中誰でも楽しめるようにと配慮したものだった。先に催しありき、だったのである。
イタリア一帯では数年前からロードレースが行われている。だから似たようなものだろうと思って調べてみると、ヒストリック自転車専門だという。ヒストリックと聞いて、ミッレミリアのようにギラギラ気合が入っちゃったものなのかな? と想像してしまい、ほのぼの派のボクは、最初敬遠していた。
しかしイベントの開催当日、前日までの絶望的な雨がうそのように上がったことから、「いっちょ見に行ってみるか」と、沿道に向かった。
朝10時、わが家に近い丘で待っていると、次から次へと参加者がやって来ては通り過ぎてゆく。道ばたから「何時に出発したんですか?」と聞くと、「6時だヨ!」とか「8時ッ!」と、走り去る彼らから次々と声が返ってきた。このイベントは、38km、75km、135km、205kmという4つのコースがあって、それぞれに出発時間が違うのだ。
次にワイン造りで有名なキャンティ・クラシコ地方に移動してみた。収穫真っ盛りのブドウ畑の中を、参加者たちが走り去る。一帯の路面はストラーダ・ビアンカ(白い道=ほこりのたつ砂利道)で、このイベントの売りである。もちろんロードレーサーの細いタイヤにはきつい。事実パンク続出で、あちこちで修理する姿がみられた。
ただしこのイベント、「1987年以前に製造された車両」といった諸規定があるものの、タイムを競うのが趣旨ではないだけに、どこまでものどかである。ヒストリックという言葉から想像した、いやらしさはみじんもなかった。
ロードレーサーだけでなく、いわゆるママチャリも参加していて、こちらは意外にトラブルフリーで頑張っていたりする。また、きつい坂では、サドルから降りて、仲間とおしゃべりを楽しみながら自転車を押している参加者も珍しくない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
楽しいコスプレ派
このイベント、コスチュームプレイ派も少なくない。最も簡単なのは、昔のロードレース選手風ウエアを着たうえに、肩にチューブを“ばってん掛け”した参加者である。昔のミシュランタイヤの広告で、マスコットのビバンダムがやっている、あれだ。
レトロファッションに身を固め、タンデムで参加していたのは、北部トレントからやってきた、ジャンパオロとエリザベッタ組である。かつて他のイベントで知り合って意気投合し、参加したという。
聞けば自転車は1940年代のもので、物資が乏しかった時代を象徴して、ペダルは木製だ。あいにく彼らの愛車もパンクに見舞われてしまったが、その修理中二人は、一緒に参加した仲間たちと話に花を咲かせていた。
やがて、礼装に身を包んで自転車に乗る紳士を発見した。彼の名はシルヴァーノ・ガンディーニさん。「クイーンズ」という1947年のインド製自転車にはチャイルドシートが取り付けられていて、マネキンが乗っている。「その心は」と聞けば、「新婚旅行」なのだそうだ。「ハネムーン。昼はエロイカ、夜はエロティカ」などとおやじギャグも欠かさない。
彼は今年65歳。昨年はイタリアの曲技飛行航空部隊「フレッチャ・トリコローレ」に敬意を表して、飛行機を模した自転車で参加したという。筋金入りのパフォーマーである。読売テレビの『鳥人間コンテスト』に往年のコミック部門が今も残っていたら、参加していたに違いない。
物置から引っぱりだして
面白いのは多くの参加者が、親戚から譲ってもらったり、もしくは家にしまってあった自転車を引っ張りだしてきて参加していることだ。先代はおろか先々代が生涯使ったすべての道具まで保存しておけるような巨大カンティーナ(物置)を所有しているイタリア家庭の成せる業である。
アブルッツォからやってきたアレッシオさんは「去年、プロ選手だった義父が参加したものの、途中でケガをして病院に運ばれちゃったんだ。そこで今年は『オレがやったるで』って参加を決めたわけ」と、笑いながら説明してくれた。彼は1982年生まれ。愛車は子供時代に叔父から譲り受けた1978年製だ。その後、彼は成長にともない、スクーター「ベスパ」に興味が移って放置してしまったが、今回のために再びむちを当てたという。
最後にゴール地点であるガイオーレ・イン・キャンティに向かう。普段は2300人ちょっとの小さな村だが、その日ばかりは各地からやってきた参加者やギャラリーのクルマ&キャンピングカーで沿道は埋め尽されていた。
やがて、例のレトロ衣装でタンデムに乗ったジャンパオロとエリザベッタ組が滑り込んできた。彼らや友人たちに、エロイカの魅力を聞いてみた。
「勝ち負けなどないこと。景色を堪能しながら友達とゆったり走れること」そしてこう付け加えた。「何より、捨ててしまわれそうな自転車が、まだまだ使えることを実感できることだね」
なお、家に古い自転車がない人のために付け加えておくと、ゴール近くにテントを出していたビンテージ自転車ショップによれば「250ユーロ(約3万3000円)もあれば、参加するに十分なものが買える」そうだ。
しばらくすると、例の新郎ガンディーニ氏もやってきた。人々の声援に応えているものの、額からは汗が噴き出し、例の衣装はびっしょりだ。
来年、サムライもしくはバカ殿の扮装(ふんそう)でボクも出場しようかと考えたのだが、もう少しトレーニングを積んでからのほうがいいようだ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
※お知らせ
2013年11月18日(月)渋谷・日伊学院にて大矢アキオの文化講座「イタリアの伝統工房・イタリアのプロダクト」が開催されます。 詳しくはこちらをご覧ください。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】
2026.10.3試乗記フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。 -
NEW
思考するドライバー 山野哲也の“目”――ランボルギーニ・テメラリオ編
2026.10.2webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。プラグインハイブリッド化によってさらなる高性能を手にした、ミドシップスーパースポーツの走りを語る。 -
第876回:“ヨコハマ史上最高”が目白押し SUV向けスタッドレスタイヤの新製品「アイスガード8 SUV」を試す
2026.10.2エディターから一言2026年9月1日に販売が開始された横浜ゴムのSUV用スタッドレスタイヤ「アイスガード8 SUV」。従来製品との比較で氷上性能を14%、雪上性能を4%、耐摩耗性能を11%アップさせたというその実力を、一足先に冬のテストコースで確かめた。 -
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地
2026.10.2デイリーコラム日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか? -
安いのは分かってる 軽スーパーハイトBEV「BYDラッコ」のお買い得度を検証する
2026.10.1デイリーコラムBYDの軽スーパーハイトBEV「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。すでに各所で報じられているとおり安いのは間違いないが、装備内容等も考慮したうえでの買い得度はどんなものか。ライバル車との比較を通じて検証した。 -
マツダCX-5 L(後編)
2026.10.1あの多田哲哉の自動車放談ファン待望の新型「マツダCX-5」ではあるが、試乗した多田哲哉さんは気になるところがある様子。一体、どんなところが……? さまざまな車両を開発してきた専門家としての意見を聞いてみよう。