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メルセデス・ベンツG350ブルーテック(4WD/7AT)

別世界の乗り物 2013.11.11 試乗記 森 慶太 ディーゼルエンジンを搭載した「メルセデス・ベンツG350ブルーテック」に試乗。23年ぶりに復活した「軽油で走るゲレンデヴァーゲン」の走りに触れた。

(今のところ)世界に3台しかない

このクルマを借りる際、「いま、世界に3台しかないんです」といわれた。そのココロは右ハンドル。少なくともここ最近まで、「ゲレンデヴァーゲン(Gクラス)」は左ハンドルのバージョンしか生産されていなかったということだ。ただし20数年前には右ハンドル、たしかにあった。つまり、ずいぶん長いブランクを経ての復活ということになる。復活させたのは日本。メルセデス・ベンツ日本のマーケティング部門がその張本人、と考えるのが妥当だろう。ディーゼルでRHDのゲレンデヴァーゲン。「世界に3台」のうちの2台が日本にあって、今回借りた個体でないほうの1台は「メルセデス・ベンツ コネクション」に。一般の人も試乗できる。

甲を上にした状態でアウタードアハンドルに右手をかけ、それをつかみながら、親指でボタンを押す。グイッと。ガチンと音がしてラッチの咬(か)み込みが解除される。開けると、これまた例によってウスーいドア。でも鉄板、厚そう。よじ登るようにしてキャビンへ入り、運転席に座って、インナードアハンドルを引き、ドアを閉める。と、ボフンでもなくドスッでもなくバツンと音がする。減衰は利いているけれど、ものすごくライブでメタリックな音と振動。先日某所で、同じメルセデス・ベンツの「ゼトロス」(悪路対応タイプのヨンクの大型トラック)のキャビンへ乗り込んだときも、これと似た体験をした。細かくいうと、ゼトロスのときはドアを閉めた瞬間にキャビン側がブワつく感じがあったしドアそのものがもっとカルそうだったけれど。ということで、嗚呼ゲレンデヴァーゲン。

今年(2013年)でデビューから34年を迎える「メルセデス・ベンツGクラス」。時代に合わせてエンジンやパワートレインは進化を遂げてきたが、堅牢なボディーオンフレームの車体構造などは、変わらずに受け継いでいる。
今年(2013年)でデビューから34年を迎える「メルセデス・ベンツGクラス」。時代に合わせてエンジンやパワートレインは進化を遂げてきたが、堅牢なボディーオンフレームの車体構造などは、変わらずに受け継いでいる。
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「G350ブルーテック」のインパネまわり。ディテールはすっかり洗練されたが、奥行きのない角張った形状のダッシュボードや、そこに備えられた無骨な手すりなど、基本的な構造は昔のままだ。
「G350ブルーテック」のインパネまわり。ディテールはすっかり洗練されたが、奥行きのない角張った形状のダッシュボードや、そこに備えられた無骨な手すりなど、基本的な構造は昔のままだ。
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今回試乗したのは、3リッターV6ディーゼルエンジンを搭載した「G350ブルーテック」。日本でのラインナップにディーゼル仕様が設定されるのは、実に23年ぶりのこと。
今回試乗したのは、3リッターV6ディーゼルエンジンを搭載した「G350ブルーテック」。日本でのラインナップにディーゼル仕様が設定されるのは、実に23年ぶりのこと。
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メルセデス・ベンツ Gクラス の中古車

ドラポジは「ま、こんなもんでしょう」

気になる運転環境。左ハンドルのゲレンデヴァーゲンのそれに慣れた人がパッと座って一切なにも気にならない、というものではないかもしれない。左足や左脚のための置き場や空間はあまり広くない。しかし運転姿勢が典型的なアップライト調なので別に困らない(左足はベタッと床を踏んでいればよい)。あと、これは右ハンドルだからということではないかもしれないけれど、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏面の段違いが大きめか。ブレーキペダルとの距離を基準にしてシートの前後方向の位置を合わせると、アクセルペダルが少し遠い。ステアリングホイールに関しては、テレスコピック調整機構がついているので、遠すぎて困るようなことにはならない。

ということで、ドラポジ関係は「ま、こんなもんでしょう」。自分が本来の、あるいはベストの位置ではないところに座らされていることからくるヘンな感じはあまりない。キャビンと自分の位置関係やコックピットへの収まりの感じもふくめて考えると、左ハンドルと右ハンドルの格差は、ヘンな話、「Eクラス」あたりよりもむしろ小さいぐらいではないか……といったら、左ハンドルのゲレンデヴァーゲンの運転環境に慣れている人たちから反論があるだろうか。

「G350ブルーテック」の運転席まわり。着座位置はかなり高く、メーター越しにボンネットを見下ろすような姿勢で運転することとなる。
「G350ブルーテック」の運転席まわり。着座位置はかなり高く、メーター越しにボンネットを見下ろすような姿勢で運転することとなる。
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標準仕様のシートはブラックのファブリックだが、本革シートもオプションで用意されている。こちらの色はブラック、ブラウン、グレーの3色から選択可能。
標準仕様のシートはブラックのファブリックだが、本革シートもオプションで用意されている。こちらの色はブラック、ブラウン、グレーの3色から選択可能。
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6:4分割可倒式のリアシート。前席、後席ともに、シートヒーターを標準装備している。
6:4分割可倒式のリアシート。前席、後席ともに、シートヒーターを標準装備している。
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他に類を見ない運転感覚

発進するには、アクセルペダルをしっかりズイッと踏み込まないといけない感じ。チョイッと踏んでスッと出る、ではない。それと、操舵(そうだ)力。「AMGのクルマではないので、重たいです」と乗る前にいわれて「へ?」と思ったけれど、たしかに。初めて運転した人は間違いなくギョッとする。ギア比がスローなこともあって、“手アンダー”になってしまうかもしれない。ステアリングホイールは、ゲレンデヴァーゲン用としてはちょっと径が小さい。昔のは、デカかった。リムが細くて。そういうのがバッチリ似合うし運転上も頃合いがいいクルマ、ではあるはず。
低速で重たいハンドルは、ただ重たいだけではない。例えば信号の四つ角を曲がる際には――というか曲がり終える際には、自分でしっかりヨイショと戻してあげないといけない。つまり、タイヤのセルフアライニングトルクやパワーアシストに任せておけば真っすぐかそれに近いところまでスーッと戻ってくれる……ようには全然なっていない。これも、最初はちょっとならずビックリする。

SUVものもふくめたいまのフツーの乗用車の基準でいうと、乗り心地は必ずしもよくない。というか、ちょっと種類が違う。重たいバネ下の動きによるものもふくめて揺れはわりとあるほうで、でもその揺れそのものが心地よい。人間、というか動物の生理に合っている感じ。ゲレンデヴァーゲンを愛用している知り合いの某オーナーいわく、「馬に乗っているようなものです」。そうかもしれない。ただし、馬ほど揺れはしない。バネがソフトでフワフワということもない。
心地よくない種類の揺れ、というかとがったショックや雑振動は、堅牢(けんろう)なフレームとそこに載っかっているボディーがビシッと抑え込んでいる。質量が効いている感じ。いかにも鉄板が分厚そうな。鉄板が分厚そうなだけでなく、作りがハンパなくよさそうな感じもする。ギシギシやミシミシが聞こえてこない。ボディー剛性がひたすらカチンカチンに高そうな感じとも、また違う。
こういう乗りアジ、20年前もそうだったけれど、いまはさらに、珍しい。

最小回転半径は6mを超えるものの、運転席からの視界が広く、ボディーの見切りもいいので、取りまわしで苦労することはあまりない。
最小回転半径は6mを超えるものの、運転席からの視界が広く、ボディーの見切りもいいので、取りまわしで苦労することはあまりない。
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センタークラスターに配置されたデフロックのスイッチ。デフロックはフロントデフ、センターデフ、リアデフの3カ所に装備されており、4輪すべてを直結状態にすることができる。
センタークラスターに配置されたデフロックのスイッチ。デフロックはフロントデフ、センターデフ、リアデフの3カ所に装備されており、4輪すべてを直結状態にすることができる。
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シフトセレクターはセンターコンソールに配置。その手前にはローレンジのスイッチが備わる。
シフトセレクターはセンターコンソールに配置。その手前にはローレンジのスイッチが備わる。
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テスト車に装備されていた電動サンルーフ。本革シートとのセットオプションとして用意されている。
テスト車に装備されていた電動サンルーフ。本革シートとのセットオプションとして用意されている。
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乗用車よりトラックに近い

首都高の走り慣れたカーブを曲がる際に、ハンドルはいつもよりたくさん回さないといけない。直進時にブラブラでアソビが多かったりガタがあったりは全然しない。ステアリング系の精度感や剛性感はむしろタダゴトでなく高いほうだけれど、動かしはじめてからクルマの反応が出るまでにフツーよりもだいぶ余計に時間がかかる。で、これも最初はちょっとならず驚く。フツーのクルマだったらとっくにグワッとロールしているぐらいのところまでハンドルを回していくことになるので。
けれど、要は乗用車よりもトラックに近い種類の動きをするクルマなのだと気がつくとナルホド。こうすると、こう動く、のお約束そのものはシンプル。でまた、いざ始まってみるとロールはそれなりに出る。4輪の対地キャンバーがロクに変わらずに上屋だけが傾く感じで。感じというか、実際そうなのだけれど。

スパッと気味に深い舵角(だかく)を与えて曲がっていくコーナーの後半のハンドルの戻りは、これまた最初はビックリするくらい速く、勢いが強い。で、またもやナルホド。ゲレンデヴァーゲンのステアリングのシステムは、5ナンバーや3ナンバーのクルマではほぼ絶滅しているリサーキュレーティングボール式。そのギアボックス部分におけるラック&ピニオンとのフィーリングの違いというのもあるけれど、このクルマのステアリング系には油圧のテレスコピックダンパーが入っている。悪路走行時のキックバックへの対応もふくめてイザというとき必要なだけそのダンパーを利かせる設定にすると、戻りが悪い状況も出てくる。そういうことなのかな、と理解。
ちなみにリサーキュレーティングボールのギアボックス、強い力がかかるなかで高い精度を保って滑らかに動きながら回転運動を直線運動に変換するための機構としては定番といえる。クルマのステアリング機構に使った場合、ギアの構成上、タイヤ側から手元=ステアリングホイールへの入力をある程度キャンセルしてくれる特長もある。だからキックバックがキツくない。全体としてフィーリングがスーッと上品で、ただしあえて悪くいうと、ある種のダイレクト感に欠ける。

JC08モードの数値は明らかにされていないが、欧州複合モードでの燃費は11.2リッター/100km(約8.9km/リッター)となっている。
JC08モードの数値は明らかにされていないが、欧州複合モードでの燃費は11.2リッター/100km(約8.9km/リッター)となっている。 拡大
タイヤサイズは前後共通で265/60R18。ホイールの形状は「G550」と同じだが、「G350ブルーテック」はシルバー、G550はチタニウムグレーと、色が異なっている。
タイヤサイズは前後共通で265/60R18。ホイールの形状は「G550」と同じだが、「G350ブルーテック」はシルバー、G550はチタニウムグレーと、色が異なっている。
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ラゲッジルームには、後席を起こした状態で480リッターのスペースを確保。後席をたためば2250リッターまで広げることができる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
ラゲッジルームには、後席を起こした状態で480リッターのスペースを確保。後席をたためば2250リッターまで広げることができる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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スピード感覚はいたって自然

動力性能は、車重や走行抵抗に対して十分なだけある。別に全然オソくはないともいえるし、知らず知らずトンでもない速度を出してしまっているようなことになる心配はまずないともいえる。ガバッと踏んだらそこそこかもっとガバッと速いのだろうけれど、フツーに運転している範囲だと、積極的に「踏め」または「踏みつづけろ」と自分に命じていることが多かった。どちらかというと。運転手そっちのけで勝手にスピードを出す。または、運転手が自然に減速していってほしいと思っているところでスピードを落とさないままでいる。そういうことのないパワートレインというかクルマだといったほうがいいかもしれない。

ゲレンデヴァーゲンにはディーゼルが似合っている。組み合わせとして適当。適切。それはまず間違いない。でもというか、今回のインプレッション全体のなかでエンジンはかなり脇役だった。オートマともども必要な仕事はしてくれていて、それでオッケー。ガソリンエンジンとは違う振動がアイドリング中にはハッキリあって、でもそれもフレームとボディーがかなりのところまで見事に抑え込んでいて、その拮抗(きっこう)ぶりがなかなか。あと、放蕩しまくり感が重荷や苦痛になりかねないところをギュッと引き締めてくれているという意味ではディーゼル、確実にありがたい。人によっては締まり屋でツマランかもしれないけれど。なお、ブレーキはフツーにオッケー。ギュッと踏んでギュッと止められる。スピードを殺せる。

ボディーカラーは、テスト車に採用されていた「イリジウムグレー」を含む全12色の設定。
ボディーカラーは、テスト車に採用されていた「イリジウムグレー」を含む全12色の設定。
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「G350ブルーテック」に搭載される3リッターV6ディーゼルターボエンジン。排出ガスの浄化システムは、尿素SCR機構と酸化触媒、DPF(粒子状物質除去フィルター)の組み合わせとなる。
「G350ブルーテック」に搭載される3リッターV6ディーゼルターボエンジン。排出ガスの浄化システムは、尿素SCR機構と酸化触媒、DPF(粒子状物質除去フィルター)の組み合わせとなる。
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燃料はもちろん軽油。給油口のわきには、排出ガスの浄化に用いる尿素水溶液の補給口が備えられている。
燃料はもちろん軽油。給油口のわきには、排出ガスの浄化に用いる尿素水溶液の補給口が備えられている。
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ほかのどんなクルマにも似ていない

ゲレンデヴァーゲンの運転体験は、SUVモノもふくめ、乗用車として売られているいまのクルマとは別世界のものだといえる。クルマの動きそのものはどちらかというとトラックに近いけれど、でもトラックともまた別世界の乗りアジがある。乗りアジというか、クオリティーフィールやコンフォートが別モノ。乗用車ともトラックとも。もっというと、成り立ち的に近いところで70系の「ランクル」や「ディフェンダー」……ともまた(たぶん)別モノ。全体に、無駄にモノがよさげな、いわゆるオーバークオリティーな感じがありまくるという点でユニークなクルマである。
トラックやバスには、乗用車ではとても太刀打ちできないぐらいディープなドライビングプレジャーがある。あるけれど、それらを自家用というか乗用車役のマイカーとして使うのはかなり特殊で、フツーありえない。そういうときにゲレンデヴァーゲン、というのもまた特殊な考えかたかもしれないけれど、ありえなくはない。わかっている人はわかっている。

いずれにせよ、普段乗りのクルマに1000万円かもっとのお金を払うのはかなりの部分、道楽に近いか等しい行為だと筆者は考える。普段乗りでなくても。道楽のためのクルマなら、運転してこれぐらい別世界の気持ちよさがないと。これぐらいのものであれば、散財のしがいがある。乗用車基準だとフツーのクルマではないけれど、人間が運転して動かすものとしてはエラくちゃんとしている。あと、実用上フツーのクルマより都合がいいところもなくはない。四角いカタチのおかげの美点。G350ブルーテック、運転したあとで値段を知って「安い」と思った。チープ、ではなくリーズナブルだと。

(文=森 慶太/写真=荒川正幸)

アプローチアングルに考慮してフロントバンパーに角度をつけるなど、悪路走破性能を高めるための工夫が随所に取り入れられたボディー。最低地上高は235mm、アプローチアングルは36度、デパーチャーアングルは27度となっている。
アプローチアングルに考慮してフロントバンパーに角度をつけるなど、悪路走破性能を高めるための工夫が随所に取り入れられたボディー。最低地上高は235mm、アプローチアングルは36度、デパーチャーアングルは27度となっている。
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テスト車のデータ

メルセデス・ベンツG350ブルーテック

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×1810×1970mm
ホイールベース:2850mm
車重:2530kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:7段AT
最大出力:211ps(155kW)/3400rpm
最大トルク:55.1kgm(540Nm)/1600-2400rpm
タイヤ:(前)265/60R18 109H(後)265/60R18 109H(ブリヂストン・デューラーH/P 680)
燃費:11.2リッター/100km(約8.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:989万円/テスト車=1034万円
オプション装備:ラグジュアリーパッケージ(スライディングルーフ+本革シート<前席・後席シートヒーター付き>)(45万円)

テスト車の走行距離:3558km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:146.8km
使用燃料:19.4リッター
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)
 

メルセデス・ベンツG350ブルーテック
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