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ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ(FF/6AT)/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール(FF/6AT)

やっぱりフツーじゃない 2013.11.10 試乗記 佐野 弘宗 ルノーのホットハッチ「ルーテシア ルノースポール」の最新型に試乗。コンパクトなハイパフォーマンスカーは、どのような進化を遂げたのか? 2つのグレードで確かめた。

パッと見は、やや微妙

新しい「ルーテシア ルノースポール(以下R.S.)」は、乗る前から見る者を威嚇して、乗った瞬間から、乗り手をヤンヤと鼓舞するクルマではなくなった。そこが先代とは対照的なところである。これを“洗練”というなら、そのとおりだろうし、先代の威嚇と鼓舞に脳をやられて自分でも買ってしまった私なんぞは「なんかフツーになっちゃったなあ」という第一印象を持ってしまったことを否定しない。

F1のフロントウイングをモチーフにしたフロントバンパーや、明確なダウンフォースを生み出すリアディフューザーなど、外装の仕立て方は新型も先代も同じだ。
今回メインに試乗した「シャシー カップ」は、先代よりホイール径が大きくなった。それに、オレンジがかったマットクロム部品を随所にあしらう内装デザインなどは、ある意味では、より派手になった。しかし、迫力が薄れたように思えるのは、先代のようなフロントオーバーフェンダーを持たないからだ。

先代ルーテシアR.S.や歴代メガーヌR.S.が使ってきた独立キングピン式ストラットサスペンションは、トルクステアを(ほぼ)排除できる、高出力FFに好適のハードウェアである。ただ、前輪をより外側に押し出す構造なので、ルーテシア級に使うといや応なくトレッドが拡大される……という問題、というかエンスーならソソられる(?)宿命がある。
新型ルーテシアR.S.は「ボディーはイジらない」という前提で開発がスタートしたので、フロントサスペンションの基本設計はノーマルのまま。当然のごとく、ボディーの基本骨格も変わらない。

“ルノーのモータースポーツ部門”ルノースポールが開発を手がける「ルーテシアR.S.」。2013年11月14日に日本で発売される。
“ルノーのモータースポーツ部門”ルノースポールが開発を手がける「ルーテシアR.S.」。2013年11月14日に日本で発売される。 拡大
運転席まわりの様子。デザインはノーマルの「ルーテシア」と同じだが、オレンジのアクセントでスポーティーな演出が施されている。
運転席まわりの様子。デザインはノーマルの「ルーテシア」と同じだが、オレンジのアクセントでスポーティーな演出が施されている。 拡大
こちらは後席。前席とも、シートベルトはオレンジ色で統一。
こちらは後席。前席とも、シートベルトはオレンジ色で統一。 拡大
リアエンドにはディフューザーが備わる。れっきとした機能パーツである証拠に、車体が発生するダウンフォースの80%をになうという。
リアエンドにはディフューザーが備わる。れっきとした機能パーツである証拠に、車体が発生するダウンフォースの80%をになうという。 拡大
ルノー ルーテシアR.S. の中古車

時代に即した進化の形

まったく新しいパワートレインは、機能も性能もフィーリングもまさに最新鋭。日産の横浜エンジン工場で組み立てられる1.6リッター直噴ターボ(M5M型)は、200psという出力は自然吸気の2リッターだった先代(202ps)と同等で、トルクは大幅に増強されている。先代F4R型のビリビリしびれるような迫力は見事に消えうせて、トルク曲線は地平線のごとくフラットだ。
ゲトラグ製の2ペダル式6段ツインクラッチ(商品名はEDC<エフィシエント・デュアル・クラッチ>)はセンターコンソールの3段切り替えボタンで“ノーマル”を選ぶかぎり、この種の変速機ではトップクラスの滑らかさである。

新型ルーテシアR.S.がボディーをイジらないという選択をした本当の理由については、今回は取材するチャンスがなかった。ボディーが3ドアからフツーっぽい5ドアになったことも、エンスーには賛否両論だろう。新型ルーテシアには3ドアが存在しない。さすがにR.S.のためだけに専用ボディーはおこせない。

ダウンサイジングターボと2ペダルというパワートレイン完全刷新についても、そこに寂しさをおぼえるエンスーもいるかもしれないが、ルノーと日産との協調関係、CO2削減圧力を含めた世界の潮流を考えれば、現実的には間違いなくベストソリューションである。ついでにいうと、ブレーキも絶対制動力になんら不足はないが、先代のブレンボのように、巨人の手で押しつぶされるような利きかたではない。

新型ルーテシアR.S.の随所に“フツー感”がただようのは、もろもろの事情でいや応ない部分があるからだろうし、時代の要請もあろう。ただ、ルノーはそれを逆手にとって、このルーテシアR.S.でさらなる支持拡大と台数増をねらったフシも確実にある。そして、その見込みが実現したならば、それはそれでめでたいことである。

1.6リッター直4ターボは、1.2リッターの「ルーテシア」より80psと5.1kgm増しの200ps、24.5kgmを発生する。
1.6リッター直4ターボは、1.2リッターの「ルーテシア」より80psと5.1kgm増しの200ps、24.5kgmを発生する。 拡大
サイドビュー。リアドアのノブが目立たないため、5ドアモデルでありながら、クーペのようなたたずまいを見せる。
サイドビュー。リアドアのノブが目立たないため、5ドアモデルでありながら、クーペのようなたたずまいを見せる。 拡大
新旧「ルーテシアR.S.」そろい踏みの図。先代モデル(写真手前)は現行モデルに比べると、85mm短い一方で20mm幅が広かった。
新旧「ルーテシアR.S.」そろい踏みの図。先代モデル(写真手前)は現行モデルに比べると、85mm短い一方で20mm幅が広かった。 拡大

さらに速く、もっと快適

ただ、R.S.はR.S.である。そうしたフツー化を受け入れたうえで、しかし「先代より速くする」という当たり前の課題をキッチリとなしとげている。新型ルーテシアR.S.は先代より明確に速い。しかもストレスフリーに速い。

今回はもちろんクローズドコースでタイム計測の機会があったわけではないし、まあ機会があっても、私にはクルマの実性能をそのまま数字で表現するウデもない(泣)。それでも、走りなれた山坂道のいつものコーナーで、新型ルーテシアR.S.で選ぶギアが、ことごとく先代より1段高かったことは事実。エンジンのレブリミットが先代より1000rpm下がったことを差し引く必要はあるが、それを勘案しても、走行ペースは実感として明らかに高まった。

新型ルーテシアR.S.はフロントの独立キングピンを捨てたかわりに、その補完対策として、HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)という新構造フロントダンパーと、R.S.デフ(いわゆるブレーキLSD)を新たに採用している。
HCCとは、メインダンパーにフルバンプ領域だけを担うサブダンパーを内蔵する技術。もともとR.S.はじめフランス車が得意としてきたバンプストッパーのチューニングを、HCCはより定量化・安定化させる効果があり、「普段の乗り心地は柔らかなのに、ムチを入れたときのコシを出す」技術である。そのおかげで、新型は2種類あるサスチューンで“硬いほう”のシャシー カップでも、先代の(柔らかいほうにあたる)シャシー スポールに比べ、飛躍的に乗り心地が改善されている。

新型のコーナリングマナーは、先代の「フロントから強引に引きずり込まれるような」戦闘的な鋭さこそ薄れたものの、荒れた路面でもしなやかで、進路は乱されない。ターンインも一見マイルドなのだが、旋回速度はシレッと高いのだ。R.S.デフもこの種のデバイスとしてはチューニングは巧妙で、作動時の失速感がほとんどない。

新型「ルーテシアR.S.」の0-100km/h加速タイムは6.7秒。先代の6.9秒を上まわる。
新型「ルーテシアR.S.」の0-100km/h加速タイムは6.7秒。先代の6.9秒を上まわる。 拡大
メーターのアップ。ステアリングホイールの内側に見えるチタン製シフトパドルは、アライアンスを組む日産の「GT-R」と同じもの。
メーターのアップ。ステアリングホイールの内側に見えるチタン製シフトパドルは、アライアンスを組む日産の「GT-R」と同じもの。 拡大
こちらは「ローンチコントロール」使用時のメーター表示。シフトパドルやペダルで特定の操作をすることにより、停車状態から最高の加速力で発進できるようになる。
こちらは「ローンチコントロール」使用時のメーター表示。シフトパドルやペダルで特定の操作をすることにより、停車状態から最高の加速力で発進できるようになる。 拡大
荷室の様子。分割可倒式の後席を倒すことで、容量を拡大できる。(画像をクリックするとシートの倒れるさまが見られます)
荷室の様子。分割可倒式の後席を倒すことで、容量を拡大できる。(画像をクリックするとシートの倒れるさまが見られます) 拡大

乗るほどにわかる実力

特に強引に攻めなくてもシレッと速い新型ルーテシアR.S.だが、R.S.の真骨頂はグリップ限界付近に達して、お尻がムズムズしはじめてからである。センターコンソールに新設された“R.S.ドライブ”というボタンは、ノーマル、スポーツ、レース……とモードを切り替えていくにつれて、変速スピード、スロットルマップ、パワステ、ESP(横滑り防止装置)などが、よりハードに、“自己責任を要求する制御”になっていく。

中間のスポーツモードでもESPは完全オフにはならないが、ハーフスピン一歩手前くらいまでは加入してこない。こういう領域になって、コーナリング姿勢を右足ひとつで自在に操れる新型ルーテシアR.S.を味わうと、外観やエンジンなどの表層をとらえて「フツーになっちゃったな……」などとシニカルを装った自分の不明が恥ずかしくなってくる。新型ルーテシアR.S.はやっぱりR.S.である。

フロントサスの基本形式をノーマルと共通化したことで、結果的に、新型ルーテシアR.S.は前後のグリップバランスが改善された。先代と異なり、ステアリングだけで強引に振り回すのではなく、リアの軌跡を微妙にコントロールしながら「4輪で曲がる」というドライビングは新型のほうがはるかにやりやすい。
そういう走りには、エンジンと6段EDCに最もメリハリが出るレースモードこそが適しているが、ぜいたくをいえば、変速スピードはもっと速めたほうがいい。R.S.ではパワートレインもハンドリングの一部だからである。「だって、ポルシェのPDKはもっと速いから」などと(クルマの値段も考えずに)ツッコミを入れたくなったりもする。

 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール【試乗記】の画像 拡大
3つの走行モードが選べる「ルーテシアR.S.」。切り替えはシフトレバーの下に見える「R.S.ドライブ」ボタンで行う。
3つの走行モードが選べる「ルーテシアR.S.」。切り替えはシフトレバーの下に見える「R.S.ドライブ」ボタンで行う。 拡大
ホイールおよびタイヤのサイズは、グレードにより異なる。写真は、サーキット走行も視野に入れた「シャシー カップ」の18インチアルミホイール。赤いブレーキキャリパーも同グレードならではのもの。
ホイールおよびタイヤのサイズは、グレードにより異なる。写真は、サーキット走行も視野に入れた「シャシー カップ」の18インチアルミホイール。赤いブレーキキャリパーも同グレードならではのもの。 拡大
 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール【試乗記】の画像 拡大

うれしい2つの選択肢

新型ルーテシアR.S.の日本におけるニュースがもうひとつある。それはシャシー カップ(以下カップ)とシャシー スポール(以下スポール)という硬軟2種類のサスペンションが、カタログモデルとして併売されることになったことだ。
ルーテシアに限らずR.S.各車はこれまでも、欧州では2種のシャシーで併売されていたのだが、日本ではどちらかいっぽうが標準設定で、もういっぽうは限定モデルなどで随時販売されるだけだった。

ここまでの原稿はすべてカップでのものだが、今回はスポールの試乗もかなった。カップとスポールのちがいは先代以上に大きい。資料に記されているとおり、スポールではグリップ限界とロール剛性は明確に下がる(というか、カップが高められている)。

カップからいきなりスポールに乗り換えて、なにも考えずに、ウヒョヒョーとばかりにワインディングに乗り入れると、オットット……となる。どこでも水平に張りついていたカップと同じように走ると、スポールはブレーキングの瞬間から明確にノーズを沈めて、結果的にテールは明確なロールを伴いながら安定感を失いかける。
ただ、スポールをそういうものと認識して、それに合わせたドライブを心がければ、これはこれで実に滋味深い。他社のスポーツハッチと比較すればロール角そのものは決して大きくないのだが、思わず“ロールステア”なんて言葉が頭をよぎる。「そうそう、フランス車って本来はこういうんだよなあ」と、スポールに乗ると、私のようなオヤジは一気に昭和の甘酸っぱい時代にトリップする。

カップと比較すれば、スポールはコーナリングでの走行ペースも限界も明らかに低い。しかし、フツーの日常快適性は確実にスポールのほうが優秀だし、サーキットに行かないなら、気軽に振り回せて、さらに郷愁の楽しみまで加わるスポールのほうに満足できる向きも少なくないはずだ。ただ、Bセグメント・スポーツハッチの平均から見れば、スポールでもすこぶる速いことだけは再確認しておく。こうして選択肢ができたことは素直にうれしいが、そのぶん悩みも増えてしまった。

(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

こちらは、日常での使い勝手を考慮した足まわりを持つ「シャシー スポール」。タイヤとホイールのサイズは、17インチとなる。
こちらは、日常での使い勝手を考慮した足まわりを持つ「シャシー スポール」。タイヤとホイールのサイズは、17インチとなる。 拡大
インテリアの意匠は、「シャシー カップ」と「シャシー スポール」とで変わりがない。
インテリアの意匠は、「シャシー カップ」と「シャシー スポール」とで変わりがない。 拡大
ステアリングホイール下端にも「R.S.」のエンブレムが添えられる。
ステアリングホイール下端にも「R.S.」のエンブレムが添えられる。 拡大
 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール【試乗記】の画像 拡大
 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ 拡大
 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール【試乗記】の画像 拡大

テスト車のデータ

ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1750×1435mm
ホイールベース:2600mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/40R18 86Y/(後)205/40R18 86Y(ダンロップSPORT MAXX)
燃費:--km/リッター
価格:309万円/テスト車=309万円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1044km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター(満タン法)

 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー スポール
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー スポール 拡大
 
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー カップ/ルーテシア ルノースポール シャシー スポール【試乗記】の画像 拡大

ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー スポール

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1750×1435mm
ホイールベース:2600mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88Y/(後)205/45R17 88Y(グッドイヤーEAGLE F1)
燃費:--km/リッター
価格:299万円/テスト車=299万円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1825km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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