第322回:プジョーシトロエン救済に中国資本が!? フランス人の反応は?
2013.11.15 マッキナ あらモーダ!東風に救済打診か
「PSAプジョーシトロエンが、中国メーカーに助けを求める?」
この報道がなされたのは、2013年10月のことだった。このニュースは、地元フランスはもとより、ボクが住むイタリアでも経済紙を中心に、それなりのスペースを割いて採り上げられた。
これまでの流れを要約しよう。2013年7月、中国紙が「経営再建中のPSAプジョーシトロエン(以下、PSA)が、東風汽車に資本提携の可能性を打診している」と報じたことが、話題の始まりだった。この時点ではPSAは一切のコメントを出さなかった。だが10月初旬になると、同社が特定の企業名こそ公表しなかったものの、複数のパートナーと経営再建のための交渉をしていると明らかにした。それを機会に、PSAの再建案に関して、さまざまな報道が駆け巡った。
「フランス政府の公的資金投入」も含めた諸説のなかで、最も有力な説として浮上したのが、「PSAが30%の増資を行い、それを東風が引き受ける」というものだった。
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失望と期待と
48年間所有したパリ本社の売却、パリ郊外の主力工場オールネイ・スー・ボワの2014年閉鎖、とそれに伴う従業員デモなど、昨年からフランスでPSAを取り巻くニュースには明るい話題が少ない。そうしたなかで、今回の中国資本導入説の浮上であった。
フランスにおけるインターネット上の意見はさまざまである。
そのひとつを紹介すると「ルノー・日産のように、もっと早く国際的アライアンスを組んでおけばよかった。PSAがこれまでにとってきたBMW(ハイブリッド開発で2011年に提携)や、GM(2012年に資本・業務提携)との協力関係構築は、あまりに遅すぎた」というものだ。
いっぽうで「願わくば、同じく中国の吉利の資本投入を受けたボルボや、インドのタタの傘下に入ったジャガー・ランドローバーのように、よい効果をもたらすことを望む」と、これからを期待する意見もある。
ボク自身の考えでは、PSAが中国メーカーの助けを得ることは、自然なことである。PSAと東風の関係は長く、その歴史は、東風の傘下企業として神龍汽車が武漢に設立された1992年までさかのぼる。「シトロエンZX」をベースとしたモデルが最初の生産車だった。PSAはフォルクスワーゲンとともに、比較的早くから中国に足がかりを築いた欧州メーカーであったのだ。今日、東風とPSAとは合弁工場を3拠点も稼働させており、東風を中国第2位のメーカーに押し上げたのは、PSAによるところが少なくない。
カルチャー的観点からも、PSAは中国と決して遠くはない。1986年、シティーカー「シトロエンAX」の広告キャンペーンに、広告ディレクターのジャック・セゲラが盛んに中国をイメージさせるものを展開していた。
さらに歴史をさかのぼれば、シトロエンは1931年から32年にかけて、学術調査と宣伝を兼ねたトラック部隊「黄色い巡洋艦隊」を中国まで走らせている。欧州で最も古くから中国と関わりがあったブランドのひとつといえるのだ。
残念なのは、PSAが中国でフランス生まれの良いイメージを生かしきれていないことだ。このあたりは、現地工場製とは別に、「Made in Germany」を前面に出して本国製高級モデルを販売しているドイツメーカーを、もっとお手本にすべきだろう。
あの超・睡眠ブランド復活?
ボクの知人で、金融業界に勤めながら自動車界にも詳しいフランス人にも聞いてみた。
彼は開口一番「GMがPSAの増資引き受けを拒否した今、東風との提携は、生き残りを賭けたラストチャンス」と指摘した。同時に「欧州の市場規模縮小を見越して、フィアットとクライスラーのように、もっと早く手を打っておけば」とも語った。
やがて彼が持ち出したのは、創業家の話だった。
「かつてプジョー家は、ダイムラーをはじめ、他メーカーが取得しようと動いたときも、それを拒否し、独立性を保ってきた」。
プジョー家による事業の始まりは、粉びき水車小屋を、ノコギリや時計のゼンマイ用金属を造る溶鉱炉に替えた1810年までさかのぼる。彼によれば、「ついにそれが終焉(しゅうえん)を迎える危機が訪れようとしている」というわけだ。
それはともかく、続く意見も興味深かった。
「東風の資本投入で、PSAが現在も保有していながら長らく睡眠中のブランドが復活したら面白い」というのだ。
彼が復活を希望しているのは「パナール」「オチキス」「シムカ」といったブランドらしい。
それらの復活は、現時点では“風が吹けば桶屋が儲かる”的な確率の話だ。だが、日産のダットサン同様、DS、シトロエン、プジョーの各ブランドの下を支えるローコストモデルに、それらのネーミング復活は、たしかに悪くない選択だと思う。
中国では「MG」ブランドがいまだに生産され、生き延びている。新生マイバッハもモデル末期、中国ではそれなりに市場を見いだした。将来、中国に行くと、古い『CAR GRAPHIC』でしか読んだことのないような懐かしいブランドがずらり、などということが起きるかもしれない。
PSAが再び元気を取り戻し、そうしたムーブメントの一翼をPSAが担えば、これはこれで面白いと思えてきたボクである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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