マツダ・アクセラスポーツ20S ツーリング Lパッケージ(FF/6AT)/アクセラハイブリッドHYBRID-S Lパッケージ(FF/CVT)
懐の深いスポーティー 2014.03.07 試乗記 距離を乗れば見えてくることがある。箱根では“普通”と思えた「アクセラスポーツ20S ツーリング Lパッケージ」だが、伊豆半島縦断コースに連れだすと……。「アクセラハイブリッド」も併せてリポートする。そろそろギリギリ?
昨2013年にフルモデルチェンジを果たした「マツダ・アクセラ」は、「MAZDA3」として、世界中で販売される同社の最量販モデルである。車型は、4ドアセダンの「アクセラセダン」と、「アクセラスポーツ」こと5ドアハッチの2種類。前者には、トヨタから供給されるハイブリッドシステムを搭載する「アクセラハイブリッド」もラインナップされる。
新型アクセラのホイールベースは、先代、先々代の2640mmより60mm長い2700mm。新開発のシャシーに載る上屋は、全幅こそ、セダン、ハッチバックとも30mm前後広げられ1795mmに至ったが、セダンの全長4580mm、ハッチバックの同4460mmは旧型と変わらない。
元来アクセラシリーズは、その前身たる「ファミリア」の時代から、「クリーンなデザイン」と「スポーティーな走り」をウリにしてきた。身もふたもないことを言うと、一般の消費者にとっては、「ライバルよりちょっと大きなボディーが比較的廉価で手に入る」ところに意義があった。だから、今回のモデルチェンジは画期的と言えるかもしれない。このへんが「実用車としてギリギリの大きさ」と判断されたのだろう。
エンジンは、アクセラセダンが、1.5リッター(111ps、14.7kgm)。アクセラハイブリッドは、2リッター+モーターのハイブリッドシステム。スポーティーな役割が課せられるアクセラスポーツには、1.5に加え、2リッター(155ps、20.0kgm)のガソリン、そしてマツダ自慢の2.2リッターディーゼルターボ(175ps、42.8kgm)が選択肢となる。
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第一印象は“普通”
試乗用のクルマは、5ドアハッチの「アクセラスポーツ20S ツーリング Lパッケージ」(248万8500円)と4ドアセダンの「アクセラハイブリッドHYBRID-S Lパッケージ」(262万5000円)。
「さまざまな『動き』のある造形を模索」して作り上げたというデザインテーマ「魂動(こどう)」にオリジンを求められるアクセラのエクステリアは、抑揚豊かで、なるほど、劇的だ。開発者にインタビューした『webCG』スタッフによると、車型は違えど、ハッチバックとセダンで前後ドアは共通なんだとか。マツダ・デザイン部門の底力を感じさせる豆知識(!?)である。
まずは、2リッターのアクセラスポーツに乗る。第一印象は芳しくなかった。いかにもスポーティーな外観から、勝手に“俊敏かつアグレッシブなハンドリング”を期待していたのだが、実際に運転すると、やや拍子抜け。運転感覚に尖ったところがなく、これではいわゆる“普通の実用ハッチ”ではないか!?
ニューアクセラのステアリングギアは、先代より速められたそうだが、ハンドルを切った際の反応は、まあ、普通。特に「キビキビ」ということもなく。2リッターツインカムは、NA(自然吸気)エンジンらしく、比較高めな6000rpmでピークパワーを発生するスペックだが、実用域では、まあ、普通。フルスケール回しても、音、アウトプットとも、あまり盛り上がらない。
ついネガティブな視点が先行して、ロックアップを早めた“スカイアクティブな”トランスミッションにまで、「トルコンATゆえの滑りは払拭(ふっしょく)できない」と、少々むちゃな難癖を付ける始末。ところが……。
距離を乗ればわかるその違い
後日、別の取材で、まったく同じ個体の「アクセラスポーツ20S ツーリング Lパッケージ」に乗る機会を得た。5人フル乗車に撮影機材を満載して、伊豆半島を縦断するコース。
箱根ターンパイクでの“ちょい乗り”で、アクセラスポーツを“普通の実用ハッチ”とか、「ドライブフィールがスタイリングに追いつかない」と決めつけた自分が恥ずかしい。
高速道路のセクションを終え、山道へ。アクセラスポーツのステアリングを切ると、素直にノーズがカーブへ向かっていく。一方、道路によって、右へ、左へ、また右へ、と忙しく切り返しても、リアはしっかり安定したままだ。乗り心地も、悪くない。直4ツインカムはNAエンジンらしく、ペダルを踏んだ量に即して素直にアウトプットが付いてくる。運転者は気持ちよくハンドルを握り、一方、後席からは、いつのまにか寝息が聞こえてきた。
アクセラスポーツのハンドリングは、ピリピリしたゲインの高さ、反応の鋭さをもって、“スポーティー”をアピールするのではない。もっと懐の深い、実用に立脚したタイプ。じんわりとドライバーを感心させ、飽きさせない。ずいぶんと“大人な”スポーティーだ。
人員・荷物満載でも、マツダの5ドアハッチは、ハンドリングを破綻させることなく次々とカーブをこなし、ワインディングロードを退屈させることなくドライバーを鼓舞し続け、しかも、長時間走りっぱなしでも、疲労は最小限に抑えられた。なるほど、マツダのクルマが、ヨーロッパで高い評価を得るわけである。
「プリウス」との違いは……
「アクセラハイブリッド」に関しては、ドライブフィールがどれだけ「トヨタ・プリウス」と異なるのか、が興味の焦点だろう。アクセラスポーツで早合点した件は棚に上げて断言すると、両者の違いは、ほぼ、ない。
モーターとエンジン間のシームレスな動力の受け渡し、または共用。いまひとつデッドなステアリング。つっぱり感のある硬めの乗り心地。アクセラハイブリッドの、運転者の予想と大きく乖離(かいり)することはないけれど、どこか他人行儀なドライブフィールは、プリウスのそれとそっくりだ。
アクセラハイブリッドでは、プリウスの1.8リッターに換わり、2リッター直4が用いられるが、ユーザーにとっては大きな問題ではない。動力分配装置を用いるトヨタのハイブリッドシステムでは、エンジンは、クルマのキャラクターを決定付ける特別な存在ではなく、システムを構成する「one of them」にすぎないから。アクセラハイブリッドのパワープラントは、組み合わされるモーターのアウトプットも併せ、プリウスと同一スペックだ。
外野の無責任な立場からは、「プリウスのハイブリッドシステム『THS-II』のエンジン、モーター双方のチューンナップの可能性」とか、「エコタイヤを捨てて、グッとスポーティーな足まわり」といった明確な提案を期待していたのだが、実際は、プログラムによる“味付け”レベルに留まったようだ。そもそも姿カタチ、諸元、寸法が違うクルマに、メーカーをまたいで別のクルマのシステムを移植するのだから、開発陣の苦労たるや、想像に難くない。商品として流通させただけで、立派だ。
今後は、「なにはともあれハイブリッド」を求めるユーザー向けの、単なる客寄せモデルに終わらないか。初期リリースのまま、店(たな)ざらし(!?)になってしまわないか。見守っていきたい。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)
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テスト車のデータ
マツダ・アクセラスポーツ20S ツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:155ps(114kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(トーヨー・プロクセスT1スポーツ)
燃費:18.4km/リッター(JC08モード)
価格:248万8500円/テスト車=267万7500円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万1500円)/Boseサウンドシステム(AUDIOPILOT2+Centerpoint2)+9スピーカー(7万3500円)/電動スライドガラスサンルーフ(チルトアップ機構付き)(8万4000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:6837km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:299.4km
使用燃料:26.1リッター
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)
マツダ・アクセラハイブリッドHYBRID-S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4580×1795×1455mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:99ps(73kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/4000rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)
モーター最大トルク:21.1kgm(207Nm)
タイヤ:(前)205/60R16 92V/(後)205/60R16 92V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:30.8km/リッター(JC08モード)
価格:262万5000円/テスト車=281万4000円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万1500円)/Boseサウンドシステム(AUDIOPILOT2+Centerpoint2)+9スピーカー(7万3500円)/電動スライドガラスサンルーフ(8万4000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2546km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:395.0km
使用燃料:26.8リッター
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/17.4km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。